Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 小説 

 Spirit Stones 

 第4章 Air Stone−風の精霊石− 
第3話 Rebirth−再生−


 白を基調とした整然とした部屋は、ロイが去ったあの日からまるで変わっていない。
 部屋の主であるロイの性格そのままに、品のいい必要最低限の家具だけ置かれた殺風景な部屋。その部屋にある天蓋つきの寝台に、ロイは横たわっていた。
 アルフの指がロイの衣服を肌蹴ていく。
「……アルフ」
「ロイ……っ」
 荒い呼吸ごとアルフを受け止め、ロイは瞳を伏せた。
「大丈夫だ、アルフ。お前の想いを受け止めてやる」
 夕陽を浴びて赤く染まる髪に、長くしなやかな指を絡ませる。そしてゆっくりとアルフを引き寄せると、ロイはそっと口付けた。
「……お前を闇に渡したりはしない」
 青灰色の瞳を開き、アルフの瞳の中に見え隠れする暗闇を真っ直ぐに見据える。
「その覚悟とやらを見せてもらいましょうか、贄の君」
 くすくす笑うヴァイラスの声が、静かな室内に響く。
「私に抱かれた夜を覚えていますか、贄の君」
 楽しげにヴァイラスがロイの顔を覗き込む。長い銀髪がさらさらと音を立ててロイの頬に掛かった。肌に残された情事の跡を、長い指先が辿っていく。その指の冷たさがロイの身体に恐怖を蘇らせた。それでもロイはしっかりとアルフを見つめ続けた。
「さあ、炎の君」
 アルフの耳元でヴァイラスが囁く。
「あなたがずっと欲しがってらした方だ……」
 アルフの手を取り、ロイの肌を滑らせていく。
「……ロイ、」
 熱を帯びた、それでいてどこか低く響く声がロイの名を呼ぶ。
「大丈夫だ、アルフ。ここにいるよ」
 その度にロイは何度もそう答えた。
「……真っ暗だ……、ロイがいない……、ロイが見えない……」
「ああ、判る。俺もずっと暗闇にいた。お前がいないだけでこんなにも世界が暗くなるのだと、思い知らされた……」
 両腕にアルフを抱き寄せる。その直後、ヴァイラスの手に両脚を開かされるのが判った。入口にアルフの熱を感じる。
「アルフ、」
 もう一度名を呼び、ロイは瞳を伏せた。
 アルフの身体がぐぐっと押し入ってくる。
「……はっ、あ……っ、」
 身体の深い場所で、ロイはアルフを感じた。
 ずっと堪えてきた涙が溢れてくる。
「ロイ……っ、」
 その声に、ロイはうっすらと瞳を開いた。青灰色の瞳にアルフの姿が映る。
「……うっ、く、……ごめん、……ごめん、ロイ、」
 ぽろぽろと涙を落とすその瞳が、幼い頃のアルフの瞳に重なる。
「馬鹿、泣くな、アルフ、」
 その瞳から暗闇が消えていくのを見つめながら、ロイはその涙を拭った。
 小さく身体を震わせて、アルフが達する。その全てを受け入れて、ロイは長い吐息を落とした。

「美しい光景ですね……」
 冷めた眼で一部始終を見つめていたヴァイラスが口を開く。
「そう簡単に壊れてくれないとは思っていましたが」
 くすくすと笑う声に、アルフは傍にあった長剣を掴み上げた。
「……お前っ!」
 横一文字に閃くアルフの剣を、ヴァイラスは身を翻していとも簡単に交わした。そのまま身体を反転させロイの足元に腰を下ろす。
「さて、そろそろ終幕ですね……。さあ、贄の君、あなたが最も恐れていた状況を楽しみなさい」
 ロイに笑みを送り、ヴァイラスはゆっくりと両手で円を描いた。その瞬間、ロイの背筋に冷たい汗が流れ落ちる。
「あなたを1人この場に残したことを、ジークディードに一生後悔させてやりましょう」
 程なく円の中に現われたのは、真っ赤に燃え盛る炎。
「……お別れですよ、炎の君」
 その直後、円の中の真っ赤な炎が、アルフに向かって伸びていった。一瞬でアルフを包み込む。
「うわぁあああ――っ!」
「アルフっ!!」
 駆け出そうとするロイの足首を、冷たい手が掴んだ。そのまま引きずるように抱えられる。
「あなたにはまだしてもらわなくてはならないことがありますよ。確実に壊れていただくためにね」
「……何をっ。……くぅ……っ」
 笑みを浮かべたまま強引にロイの両足を抱え上げ、ヴァイラスはその中心に指を差し入れた。アルフが残した残滓がとろりと零れ落ちる。それを潤滑油代りに、ヴァイラスは強張るロイの中に無理矢理腰を進めた。
「――よせ……っ、」
 何とか身を捩ろうとするロイの身体を乱暴に捻じ伏せて深く侵入していく。
「はぁ……っ。、あ、ああ……っ、」
 堪らず頭を大きく左右に振るロイの姿を楽しみながら、ヴァイラスは高らかに笑った。同時にアルフの悲鳴が木霊する。
「いかがですか? 贄の君。憎い男に抱かれながら、愛しい者の最期を見取るのは」
「アルフ……っ!!」
 見開いた青灰色の瞳に映るのは、炎に包まれようとしているアルフの姿。
 片膝をつき、精霊石を握り締めた片手を翳し、かろうじて炎を受け止めている。
「お前の思惑通りにはさせない……」
 そう告げると、ロイは握り締めていた左手を開いた。そのまま意識を集中させる。
「……贄の君?」
「どけ!」
 そう叫び、ロイは左手をヴァイラスに向けて翳した。その手の中に蒼く輝く球体が姿を現すのと同時に、突風が舞う。次の瞬間、身体中に無数の小さな切り傷をつけられ、ヴァイラスはロイの身体を離した。
「アルフ!」
 ロイが手を翻すと、激しい疾風が巻き起こりアルフを包み込む炎を消し飛ばした。肩で大きく息をして、転がり落ちるようにアルフの傍に駆け寄る。
「アルフ、無事か?」
「……何とか」
 息を整えながら答えるアルフに、ヴァイラスを見据えたままロイは右手を差し出した。その手が意図する意味に気付き、アルフが身を翻す。そして部屋の片隅に置かれているロイの弓を掴むと、ロイに向けて投げた。
「俺は壊れはしない。ジークに後悔させたりもしないさ」
 ヴァイラスに向けて真っ直ぐに弓を構える。そしてロイは冷たく笑い続けるヴァイラスの眉間に狙いを定めた。
「ふふふ。そうでなくては面白くないでしょうね。せいぜい見せていただきましょうか。無駄な足掻きとやらを」

 世界を赤く染めていた夕陽は既に姿を消していた。
 次第に歩み寄る暗闇に、ただ魔獣の咆哮だけが鳴り響いていた。




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