Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 そこは、魔法使いたちの学校だった! 

 第3話 


「……なあ、何処行くんだ?」
 恐る恐る、後ろを歩くライに声を掛けた。少しは情報を集めなくてはならない。
 窓から見える景色は、明らかに外国だ。古代ヨーロッパのイメージに近い。
 それにしても、何だろう、すぐ傍に高い塔が聳え立っている。そういえば、ここも塔なのか。その階段を登って何処に行くんだろう。いずれにせよ、上に向かって行かれては、逃げ場がなくなるのは間違いない。
「んー? 上に行くってことは、タウ寮長んとこかな?」
 何処か呑気な声で、ライが答える。
 ――寮長?
「……寮か、ここ」
 そう考えると、いくつか納得できた。
 つまり、何処かの学校の寮なのだろう。同じ年頃の人間が集まり、図書館があって、部屋があって……、不思議ではない。こいつらは寮生というわけだ。
 一応有名進学校と言われる俺の学校にも寮はある。
 以前、友人を訪ねたことも……。
「――おわ!」
 思い出したくないことを思い出して、つい声が出た。かなり変な声だ。
 そんなことより、ことは重大だ。
 男子寮にはホモがいたぞ。他人の色恋をどうこういうつもりはないから、特に気にしていなかったけど――。
 ちらり、とライの額に視線を送る。やっぱりくっきり書かれている『シア』の文字。そういう目で見てみると、こいつら、恋人同士に見えなくもない。いやいや、シアは目が悪いようだ。だから、ライはシアの腰に手を添えているんだ……って、その手、腰を抱く必要はあるのか?
   気を取り直して、前の2人はどうだ? カイの腕はがっつりリュイを懐に収めている。どういうことよ、それ……。

 ――もしかして、ここは、ホモの巣窟、とか?

「お、俺には関係ないことだしな」
 うんうん、と頷いていると、どん、とカイの背中にぶつかった。
「な、何……?」
 見上げると、カイが乱暴にドアを叩いている。
 どうやら、そこが『寮長の部屋』らしい。
「……ち。いねぇ」
 不機嫌そうに呟く声には恐怖すら覚える。同じくらいの年なのに、何でこいつはこんな迫力があるんだ。
 そういえば、ここは高校か? こいつら、高校生なのか?
「あっちじゃないか?」
 親指を立てて、ライが別の部屋を指差した。どうやら今度は向こうの部屋へ行くようだ。
「……ここ、は、高校?」
 一瞬ガードが外れたリュイにこそっと話しかけてみる。情報は少しでも多い方がいい。
「高校ってなあに?」
 見上げてくるその顔はやはり可愛い。
「ここはね、『塔の学院』、つまり、『ガリル王国立魔法学院』。その最高位、第1の塔だよ?」

 魔法――??

 可愛いけど、可哀想なことに、この子はやっぱり少しおかしい……。
 魔法学校なんてあってたまるか。あんなの物語の世界だろう?
「ええっと、シア?」
 別の奴に訊いた方がいい、そう思って声を掛けたその時だった。

「あ、あ、……ッ! も、……、無理、あ……ッ!」

 はい――??

 ドアの向こうから聞こえてきた『その声』に、俺の思考回路は完全にぶっとんだ。

「ち。最中か」
 不機嫌そうに、カイがそうぼやく。
 最中、って、そのつまり。
「あ、あ……、ああ……、タ、ウ……ッ」
 いや、その、随分と綺麗な声ですが、やっぱり、その……。
 俺も健全な男子高校生だから、Hな本とか見たことはある。友人宅でどきどきしながらビデオも見たことあるわけですが。
 もちろん、『生濡れ場』は初めてだ。
 鼓動が速くなる。
 困ったことに、下腹部に血が集まってくる。
「急用なんですが!!」
 ちょっ、ちょっと、邪魔しますか、あんた。
 中の事情を構うことなく、カイがどんどんとドアを叩く。
 知らないぜ、叱られても。あ、急用って俺のことか。と、とばっちりは食いたくねぇ……。
 しん、と中の声が静まった。ダンボになった耳には、布擦れの音さえも、いやらしく聞こえる。
 しばらくして、
「……何の用?」
 ドアが開かれ、部屋の主が姿を見せた。
 上半身は上着を羽織っただけ、白い項にはアッシュブロンドが張り付いている。気だるげに、ドアに掛けた片腕に半身を預けるような格好で、目尻の上がった綺麗な蒼い瞳を向けてくる。
 い、色っぺぇ……。
 思わず、ごくりと生唾を飲み込んでしまう。
「……誰?」
 そう言う少し掠れた声が、さっき聞いた声に重なる。
 あああ、下半身が暴れ出しちまいそうだ。
 ん――?
 その時、はた、と気付いた。気付いてしまった。
 男じゃん……。
 物憂げなその美女は、紛れもなく男であった。いや、信じらんねぇくらい綺麗なんだけど。
「……確かに急用みたいだね。――タウ、」
 じろじろとこっちを見た後、ふうっと息を吐いて、美人が部屋を振り返る。その声に、上着を羽織ながら、もう1人の人物が姿を見せた。
 つまり、だ。こいつがこの美人を啼かせていたわけで。
 この男が寮長なのだろう、とか、これから俺はどうなるんだろう、とか、呆れたことに俺はそんな大事なことを一瞬忘れていた。




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