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「……なあ、何処行くんだ?」
恐る恐る、後ろを歩くライに声を掛けた。少しは情報を集めなくてはならない。
窓から見える景色は、明らかに外国だ。古代ヨーロッパのイメージに近い。
それにしても、何だろう、すぐ傍に高い塔が聳え立っている。そういえば、ここも塔なのか。その階段を登って何処に行くんだろう。いずれにせよ、上に向かって行かれては、逃げ場がなくなるのは間違いない。
「んー? 上に行くってことは、タウ寮長んとこかな?」
何処か呑気な声で、ライが答える。
――寮長?
「……寮か、ここ」
そう考えると、いくつか納得できた。
つまり、何処かの学校の寮なのだろう。同じ年頃の人間が集まり、図書館があって、部屋があって……、不思議ではない。こいつらは寮生というわけだ。
一応有名進学校と言われる俺の学校にも寮はある。
以前、友人を訪ねたことも……。
「――おわ!」
思い出したくないことを思い出して、つい声が出た。かなり変な声だ。
そんなことより、ことは重大だ。
男子寮にはホモがいたぞ。他人の色恋をどうこういうつもりはないから、特に気にしていなかったけど――。
ちらり、とライの額に視線を送る。やっぱりくっきり書かれている『シア』の文字。そういう目で見てみると、こいつら、恋人同士に見えなくもない。いやいや、シアは目が悪いようだ。だから、ライはシアの腰に手を添えているんだ……って、その手、腰を抱く必要はあるのか?
気を取り直して、前の2人はどうだ? カイの腕はがっつりリュイを懐に収めている。どういうことよ、それ……。
――もしかして、ここは、ホモの巣窟、とか?
「お、俺には関係ないことだしな」
うんうん、と頷いていると、どん、とカイの背中にぶつかった。
「な、何……?」
見上げると、カイが乱暴にドアを叩いている。
どうやら、そこが『寮長の部屋』らしい。
「……ち。いねぇ」
不機嫌そうに呟く声には恐怖すら覚える。同じくらいの年なのに、何でこいつはこんな迫力があるんだ。
そういえば、ここは高校か? こいつら、高校生なのか?
「あっちじゃないか?」
親指を立てて、ライが別の部屋を指差した。どうやら今度は向こうの部屋へ行くようだ。
「……ここ、は、高校?」
一瞬ガードが外れたリュイにこそっと話しかけてみる。情報は少しでも多い方がいい。
「高校ってなあに?」
見上げてくるその顔はやはり可愛い。
「ここはね、『塔の学院』、つまり、『ガリル王国立魔法学院』。その最高位、第1の塔だよ?」
魔法――??
可愛いけど、可哀想なことに、この子はやっぱり少しおかしい……。
魔法学校なんてあってたまるか。あんなの物語の世界だろう?
「ええっと、シア?」
別の奴に訊いた方がいい、そう思って声を掛けたその時だった。
「あ、あ、……ッ! も、……、無理、あ……ッ!」
はい――??
ドアの向こうから聞こえてきた『その声』に、俺の思考回路は完全にぶっとんだ。
「ち。最中か」
不機嫌そうに、カイがそうぼやく。
最中、って、そのつまり。
「あ、あ……、ああ……、タ、ウ……ッ」
いや、その、随分と綺麗な声ですが、やっぱり、その……。
俺も健全な男子高校生だから、Hな本とか見たことはある。友人宅でどきどきしながらビデオも見たことあるわけですが。
もちろん、『生濡れ場』は初めてだ。
鼓動が速くなる。
困ったことに、下腹部に血が集まってくる。
「急用なんですが!!」
ちょっ、ちょっと、邪魔しますか、あんた。
中の事情を構うことなく、カイがどんどんとドアを叩く。
知らないぜ、叱られても。あ、急用って俺のことか。と、とばっちりは食いたくねぇ……。
しん、と中の声が静まった。ダンボになった耳には、布擦れの音さえも、いやらしく聞こえる。
しばらくして、
「……何の用?」
ドアが開かれ、部屋の主が姿を見せた。
上半身は上着を羽織っただけ、白い項にはアッシュブロンドが張り付いている。気だるげに、ドアに掛けた片腕に半身を預けるような格好で、目尻の上がった綺麗な蒼い瞳を向けてくる。
い、色っぺぇ……。
思わず、ごくりと生唾を飲み込んでしまう。
「……誰?」
そう言う少し掠れた声が、さっき聞いた声に重なる。
あああ、下半身が暴れ出しちまいそうだ。
ん――?
その時、はた、と気付いた。気付いてしまった。
男じゃん……。
物憂げなその美女は、紛れもなく男であった。いや、信じらんねぇくらい綺麗なんだけど。
「……確かに急用みたいだね。――タウ、」
じろじろとこっちを見た後、ふうっと息を吐いて、美人が部屋を振り返る。その声に、上着を羽織ながら、もう1人の人物が姿を見せた。
つまり、だ。こいつがこの美人を啼かせていたわけで。
この男が寮長なのだろう、とか、これから俺はどうなるんだろう、とか、呆れたことに俺はそんな大事なことを一瞬忘れていた。