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「また紛れ込んだのか……」
その言葉に、はっと我に返る。
「この塔には、いろんな力が集まってるからな。時々何処かの世界から紛れ込んでくる奴がいるんだ。察するにあんたもそれだな」
さすがは寮長。
俺の状況を瞬時にまとめてくれた。
ありがたい。いや、ありがたがっている場合、か?
「ま、一晩もすりゃ帰れるよ」
お、ありがたがって正解か。
ほっと安堵の息を落とす。
どうやら、生きて帰れるらしい。
千晴の奴、見ていろ。帰ったら、この借り、きっちり返してやるからな。
「この世界のもんに触ってなきゃな」
――え?
「触ってたら、たぶん帰れないぜ?」
俺の手の中の『千晴の本』をとんとんと叩きながら、寮長――察するにタウは、にっと笑った。
いや、この本は俺が持ってきたんだからたぶんOKだろう。けど、さっきリュイに渡された本にはしっかりと触ってしまった。
「ふうん、リュイ絡みか」
その通りです、寮長。
というか、何でみんな判るんだ。可愛らしい顔をして、この子はいつも問題を起こしてんのか。
「あんたの悪知恵で何とかなんねぇ?」
カイが口を挟む。人のことは言えないが、こいつの口はかなり悪い。
俺の心の声が聞こえたのか、カイの空色の瞳が睨んできた。
「あんたの躁心術で記憶を消して、外に放り出すとか」
恐ろしいことをさらりと言ってくれる。やっぱこいつ嫌いだ。
「泊めてやれよ。もうすぐ夜だぜ? こんなの放り出したら、あっという間に輪姦されちまう」
ライが助け舟を出してくれた。こいつはどうやらいい奴だぜ。
――って、もしもし、さり気に問題発言してませんか?
「まあな。見てくれは良さそうだからな」
タウ寮長がくすくす笑う。この人ももしかして性格悪いのかも知れない。
見てくれ……。そういえば、俺は見てくれはまあまあの部類だ。女子がきゃあきゃあ言ってくれるほどには。くせのないさらさらの黒髪がすてき、とか、くっきり二重の瞳がかっこいい、とか、誉めてくれる奴もいる。そういや、男に誉められたこともある。
危険か? 俺は狙われる、危険な人間なのか――??
見てくれなら、千晴の方がずっといいだろうに。いや、ここに千晴はいないんだけど。
クォーターであるあいつの髪は、少しくせのある茶色で、涼しげな薄茶色の瞳にとても似合っている。そういえば、この間も女子に告白されていた。あんな不思議人間のどこがいいのか。
「ま、今夜はここに匿うしかないだろうな。リュイの不始末、表沙汰にしたくないんだろ、カイ」
タウの声に、カイが頷く。どうやら、リュイを庇ってのことらしい。案外可愛いところもある。
「さて、俺らの部屋は個室だ。お前たちはそれぞれルームメイトがいる、とすると……」
ふうっとタウが大きく息を吐く。
「……どうせ聞いてんだろ、ハル。出て来い」
何処に向かって問い掛けているのか、タウがそう声を掛けた。
「シンの声、お前が聞き逃すはずがないものな」
その言葉に、シンが少しだけ眉を顰める。その表情すらも麗しいから恐ろしい。
少しして、
「はあい」
間伸びた返事とともに、『その人物』は、俺の前に姿を現した。
少しくせのある茶髪を肩の辺りで踊らせ、すとん、とその場に降り立つ。
そうして、涼しげな薄茶色の瞳が、俺を見た。
「――――千晴、」
たっぷり間を置いてそう呟いた俺の声に、薄茶色の瞳がほんの一瞬見開かれた、そう思ったのは、俺の気のせいだったのだろうか。
「……誰、それ」
涼しげな笑みを浮かべて、『千晴』の声がそう答えた。