Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 そこは、魔法使いたちの学校だった! 

 第6話 


「や、止めろって……」
 抵抗する声が上ずる。
「そんなこと言って、感じてるくせに」
 千晴の声に、耳がかあっと熱くなった。
 仕方ないだろ、俺だって健全な高校生だ。こんなことされて感じるなって方が無理な話だ。
「お、おい! 千晴、よせって!!」
 ズボンの中に、千晴の指が滑り込んでくる。
 悲鳴に近い声で拒絶してみたものの、いくら言っても止めやしないことはもうよく判っていた。
 さっきだって何度言っても、乳首を舐めるのを止めやしなかった。
 そりゃあもう、男である千晴に犯されそうだってぇのに、身体がしっかり反応してしまうくらいに、だ。
 ああ、何だか、もうどうでもよくなってきた。
「ほら」
 既に硬くなったそれを掴まれると、羞恥心が込み上げた。
 判ってるよ、知ってるよ。
 俺の元気な身体は、お前の指と舌に感じてるよ。
「仕方、ないだろ。健康なんだから」
 精一杯の虚勢を張って、千晴を睨んだ。
 そうだ。健康な男子高校生だ。自慰するくらい、当たり前だ。
 お年頃になってからというもの、何度もやったよ。悪かったな。
「ふうん、自分でしてるの? してくれる人、いないの?」
 くすくすと笑われる。
 俺だって決してもてないわけじゃない、と思う。告白されたことだってある。
 でも、そんなこと考えたことなかった。
 女の子を大切にするよりも、友達と遊んだり、騒いだりする方が楽しかったから。
 何より、やっと帰ってきた千晴と、一緒にいたかったから。
「悪いかよ。お前だって、どうなんだよ?」
 悔しいが、千晴の方がもてるのも事実だ。だが、うわついた噂は聞いたことがない。
 ほら、お前だって、まだ経験ないだろ。
「……そんなこと、僕に訊く?」
 あれ? 千晴の奴、不機嫌になったか?
「や、止めろって、」
 俺のものをそっと掴んでいた千晴の指が動き始める。掻き上げられると、ぞくり、と身体が震えた。
「や、止め……っ、ち、千晴っ」
「もう少し、色っぽい声出してよ」
 そう言う千晴の声の方が色っぽい。
 その声、反則だぜ……。
 声が掛かる首筋が、ぞくぞく、と感じてしまう。
「う、」
 自慰だってこんなに早くイったことはない。大好きなアイドルをオカズにしたって、こんなにはいかないのに。
 どうした、俺の身体!
 叱咤してやりたい。千晴の指の動きに、驚くくらい呆気なく達してしまうなんて。
「もう、イったの?」
 千晴の声が聞こえる。下腹部に感じるぬめりと生温かさが現実を突きつけてくる。
 恥ずかしい。
 何だってんだ。何がしたいんだ、こいつ。
「――千晴なんて、嫌いだ」
 言い放った後、はっと我に返った。
 何てことだ。あんなに後悔したのに。
 子供の頃とちっとも変わってないじゃないか、俺。
「……ふうん、いいよ、もう。それで」
 千晴の声が、一段と淀んだ。
 ちくちくちく、胸が痛む。
「――え?」
 突然、膝を割られた。そのまま片足を抱え上げられる。
 何だ……?
 ふと、自分たちの状況を考えてみる。客観的に考えてみると、片足を肩に抱え上げられ、腰に手を添えられる自分の姿が、TVの中のAV女優と重なった。
「な、な、な、」
 言葉が出ない。
 そんな、まさか。
 冗談だろう??
「うわ、」
 敏感な場所に、千晴の存在を感じた。
 硬い。しっかり硬くなってやがる。
 それをどうするつもりだ。
 どこに挿れるんだよ??
「臣、」
 千晴の声が、俺の名を呼ぶ。
 その声に、ぞく、と身を震わせた直後、入り口にあった千晴のものが、俺の中に侵入してきた。
「――――うわッ、あッ!!!」
 逃げようと、思わず背が仰け反り返った。見えない力に抑えられたままの腕は動かすことが出来ず、ただわなわなと震えた。
「臣、逃げないで」
 千晴の声が嘆願する。切なげな声色に、一瞬何とかしてやりたいとも思ったが、もういっぱいいっぱいだ。
「……無理、無理ッ!!」
 悲鳴に近い声でそう叫ぶと、千晴の手が腰を支えてくれた。
 って、お前、何するつもり?
 そのまま、引き寄せられる。
「――千晴ッ!!」
 俺の叫びを無視して、ぐぐっと奥まで侵入しやがった。
 見ちゃいないが、随分とでかい。悔しい。
 いや、そんな場合ではない。
 もしかしなくても、千晴に犯された。この状況はどうなんだ。
「千晴、」
 もう一度名を呼んで、千晴に視線を送る。

 ――何、泣きそうな表情してんだよ……。

 今にも泣き出しそうな千晴がそこにいた。
 しばしその表情を見つめ、ふうっと息を吐く。
「――ったく、泣きたいのは、こっちだってぇの……」
「臣、」
「も、泣くなよ。好き勝手しやがって……」
 何だかな。
 結局、どういうことだ。
 こんなことされて、それでも千晴と一緒にいたい、そう思っちまう。
 千晴がいなくなる、そのことの方がずっと怖い。

 ちらりと見えた、汗ばんだ千晴の額――。
 『臣』と書かれたそれに、どきん、と鼓動が跳ねたのも事実だ。

 瞳を伏せると、幼い頃の千晴の姿が見えた。
 『はるちゃんなんか大嫌い』、そう言ってしまったことを、とても後悔した。
 それでも、千晴がいなくなっても、意地っ張りな俺は、『好き』とは言えなかった。
 今また同じ過ちを繰り返そうとしている俺を、幼い千晴が見つめてくる。

「俺の負けだ。あああ、ちくしょう。言やあ、いいんだろ」
 もう一度、ふうっと息を吐く。
 瞳を開くと、千晴がそこにいた。
 もういいや。千晴がいてくれるのなら。
「好きだ、千晴」
 そう言葉にする。
 自然と、笑みが零れた。




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