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「や、止めろって……」
抵抗する声が上ずる。
「そんなこと言って、感じてるくせに」
千晴の声に、耳がかあっと熱くなった。
仕方ないだろ、俺だって健全な高校生だ。こんなことされて感じるなって方が無理な話だ。
「お、おい! 千晴、よせって!!」
ズボンの中に、千晴の指が滑り込んでくる。
悲鳴に近い声で拒絶してみたものの、いくら言っても止めやしないことはもうよく判っていた。
さっきだって何度言っても、乳首を舐めるのを止めやしなかった。
そりゃあもう、男である千晴に犯されそうだってぇのに、身体がしっかり反応してしまうくらいに、だ。
ああ、何だか、もうどうでもよくなってきた。
「ほら」
既に硬くなったそれを掴まれると、羞恥心が込み上げた。
判ってるよ、知ってるよ。
俺の元気な身体は、お前の指と舌に感じてるよ。
「仕方、ないだろ。健康なんだから」
精一杯の虚勢を張って、千晴を睨んだ。
そうだ。健康な男子高校生だ。自慰するくらい、当たり前だ。
お年頃になってからというもの、何度もやったよ。悪かったな。
「ふうん、自分でしてるの? してくれる人、いないの?」
くすくすと笑われる。
俺だって決してもてないわけじゃない、と思う。告白されたことだってある。
でも、そんなこと考えたことなかった。
女の子を大切にするよりも、友達と遊んだり、騒いだりする方が楽しかったから。
何より、やっと帰ってきた千晴と、一緒にいたかったから。
「悪いかよ。お前だって、どうなんだよ?」
悔しいが、千晴の方がもてるのも事実だ。だが、うわついた噂は聞いたことがない。
ほら、お前だって、まだ経験ないだろ。
「……そんなこと、僕に訊く?」
あれ? 千晴の奴、不機嫌になったか?
「や、止めろって、」
俺のものをそっと掴んでいた千晴の指が動き始める。掻き上げられると、ぞくり、と身体が震えた。
「や、止め……っ、ち、千晴っ」
「もう少し、色っぽい声出してよ」
そう言う千晴の声の方が色っぽい。
その声、反則だぜ……。
声が掛かる首筋が、ぞくぞく、と感じてしまう。
「う、」
自慰だってこんなに早くイったことはない。大好きなアイドルをオカズにしたって、こんなにはいかないのに。
どうした、俺の身体!
叱咤してやりたい。千晴の指の動きに、驚くくらい呆気なく達してしまうなんて。
「もう、イったの?」
千晴の声が聞こえる。下腹部に感じるぬめりと生温かさが現実を突きつけてくる。
恥ずかしい。
何だってんだ。何がしたいんだ、こいつ。
「――千晴なんて、嫌いだ」
言い放った後、はっと我に返った。
何てことだ。あんなに後悔したのに。
子供の頃とちっとも変わってないじゃないか、俺。
「……ふうん、いいよ、もう。それで」
千晴の声が、一段と淀んだ。
ちくちくちく、胸が痛む。
「――え?」
突然、膝を割られた。そのまま片足を抱え上げられる。
何だ……?
ふと、自分たちの状況を考えてみる。客観的に考えてみると、片足を肩に抱え上げられ、腰に手を添えられる自分の姿が、TVの中のAV女優と重なった。
「な、な、な、」
言葉が出ない。
そんな、まさか。
冗談だろう??
「うわ、」
敏感な場所に、千晴の存在を感じた。
硬い。しっかり硬くなってやがる。
それをどうするつもりだ。
どこに挿れるんだよ??
「臣、」
千晴の声が、俺の名を呼ぶ。
その声に、ぞく、と身を震わせた直後、入り口にあった千晴のものが、俺の中に侵入してきた。
「――――うわッ、あッ!!!」
逃げようと、思わず背が仰け反り返った。見えない力に抑えられたままの腕は動かすことが出来ず、ただわなわなと震えた。
「臣、逃げないで」
千晴の声が嘆願する。切なげな声色に、一瞬何とかしてやりたいとも思ったが、もういっぱいいっぱいだ。
「……無理、無理ッ!!」
悲鳴に近い声でそう叫ぶと、千晴の手が腰を支えてくれた。
って、お前、何するつもり?
そのまま、引き寄せられる。
「――千晴ッ!!」
俺の叫びを無視して、ぐぐっと奥まで侵入しやがった。
見ちゃいないが、随分とでかい。悔しい。
いや、そんな場合ではない。
もしかしなくても、千晴に犯された。この状況はどうなんだ。
「千晴、」
もう一度名を呼んで、千晴に視線を送る。
――何、泣きそうな表情してんだよ……。
今にも泣き出しそうな千晴がそこにいた。
しばしその表情を見つめ、ふうっと息を吐く。
「――ったく、泣きたいのは、こっちだってぇの……」
「臣、」
「も、泣くなよ。好き勝手しやがって……」
何だかな。
結局、どういうことだ。
こんなことされて、それでも千晴と一緒にいたい、そう思っちまう。
千晴がいなくなる、そのことの方がずっと怖い。
ちらりと見えた、汗ばんだ千晴の額――。
『臣』と書かれたそれに、どきん、と鼓動が跳ねたのも事実だ。
瞳を伏せると、幼い頃の千晴の姿が見えた。
『はるちゃんなんか大嫌い』、そう言ってしまったことを、とても後悔した。
それでも、千晴がいなくなっても、意地っ張りな俺は、『好き』とは言えなかった。
今また同じ過ちを繰り返そうとしている俺を、幼い千晴が見つめてくる。
「俺の負けだ。あああ、ちくしょう。言やあ、いいんだろ」
もう一度、ふうっと息を吐く。
瞳を開くと、千晴がそこにいた。
もういいや。千晴がいてくれるのなら。
「好きだ、千晴」
そう言葉にする。
自然と、笑みが零れた。