TOP | ご案内 | 更新履歴 | 小説 | 設定集 | 頂き物 | 日記 | リンク |
「ほら、動けよ、千晴」
そう促してやったのに、千晴はまだ動けずにいる。
俺の告白の意味を考えているらしい。
こんなことを仕出かしておいて、今更何だってんだ。
やっちまえよ、とっとと。
「――それ、本当?」
やっと答えやがった。
「本当、本当。俺はずっとお前が好きだったんだ、ああ、畜生、言いたくなかったのに」
半ばやけくそでそう答えてやる。
どうでもいいが、早くしてくれ。
想像したくもないが、今俺たち、とんでもない格好してんだぜ……?
「嬉しい」
相変わらずいい声だ。
視線を上げると、千晴の笑顔が見えた。
その笑顔に、思わず、くらり、と来てしまう。
あああ、これで俺も、『ホモ』の仲間入りか?
「早くしろよ。も、限界……」
実際、無理な体勢を強いられたままの足が悲鳴を上げていた。
――ん??
一瞬、ちらりと見えた千晴の表情が変化したような……。
「……色っぽいねぇ、臣。もう一回言って」
はい?? 何言ってんだ、千晴。
「『限界……』って、ほら」
「い、言わねぇ」
何なんだ、キャラ変わってないか、お前。
そう考えて、はた、と気がついた。
いや、千晴はこういう奴だった。
「言わないと、このままだよ?」
う。主導権を握られた。
このままじゃお前だって困るだろうに――。
結局、ここじゃ分の悪い俺は、朝まで散々泣かされた。
恥ずかしい台詞を、何度言わされたことだろう。
思わず声が漏れると、「あ、それ、もう一回」と千晴が催促する。
まいった。
何て奴だ。
でも、2度と「大嫌い」とは言えなかった。
そんなこと言えば、何をされるか判らない。
それより何より、
また、俺の前から千晴がいなくなるのだけは、嫌だ。
「帰って来いよ」
そう告げると、千晴は嬉しそうに笑った。
「臣、臣!」
名を呼ばれて、うっすらと瞳を開く。
「寝かせろよ、千晴」
散々無茶しやがって、もう動けねぇよ……。
言い掛けて、俺は大きく目を丸くした。
「――俺の部屋??」
千晴の背景は、間違いなく俺の部屋だ。がばっと身を起こす。
「――うッ!!」
ありえねぇ。ありえねぇ処に痛みが走った。
「臣?」
少し首を傾げて、千晴が心配そうに覗き込んでくる。
「あ、いや、な、何でもないから!」
間近に見えた千晴の顔に、慌てて視線を外した。
まともに見ることなんて出来やしない。
あ、あんなことしたんだぜ? 俺たち。
「どうしたの?」
千晴の声。何だってそんなに平然としてやがる。
夢? もしかして、夢か??
出来ればそういうことにしておきたい。でも、なら何だってんだ、この痛みは。
ドサッと何かがベッドから落ちる音がした。
千晴が身を屈めて、それを手に取る。そうして、少しの間その本を見つめた後、千晴はくすくすと笑った。
「――会ったんだね、向こうにいた僕に」
不思議人間千晴の台詞。いつもなら、気にすることもない。
だが、今の俺には十分すぎるほど、思い当たることがあった。
会った。
向こうの世界の千晴に。
そして、抱かれた。
「よ、よせよ」
思い出すとまたどうにかなりそうで、伸ばされた千晴の手を弾いた。
「あ、つれないんだ、臣。僕に抱かれたくせに」
「な、な、何を根拠に……」
第一お前、記憶なかったんじゃないのか?
「覚えてるよー、全部。あの後、目が覚めたら、臣いなくてさ。でも、臣が『帰って来い』って言ってくれたから、頑張って卒業と同時に帰ってきたんだよ? 臣が待っててくれているとそう信じてさ」
わざとらしく少し口を尖らせて、千晴が説明を加えていく。
「なのに、臣ったら全く知らない顔して……。散々鎌かけてみたけど、結局判ってないみたいだし。僕、泣きたくなったよ。恋人といるより友達と遊んでいる方が楽しいみたいだし。てんで子供だし。お陰で僕がどれだけ淋しい夜を過ごしたと思う? 僕のコレクションだけじゃ、もう持たないよ?」
「コ、コレクション……?」
やな予感がする。
ほら見てみろ。千晴の奴、にっこりと笑ってやがる。
「ん? これ」
千晴がぱっと手を広げた。そこには何もない。何もないのだが――。
『あッ、……あ、もう……、ち、千、晴……ッ』
げ。何なんだ、これ。
「やっぱ、臣のが一番だねー」
千晴が笑う。俺は、目の前が真っ暗になるのを感じた。
不思議人間千晴め。
何なんだ、これは。何の魔法だ……って、魔法か、魔法なのか??
「驚かないでよ。卒業してきたって言ったろ?」
「ど、何処を……?」
「『魔法学院』。もう知ってるよね? 臣」
千晴が笑う。本当に楽しそうに笑いやがる。
ああ、もう、いいや。千晴がそこで笑ってるなら。
そう思ってしまう俺が、確かにいた。でも、それも悪くない、そう思った。