Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 Crossing 

 第19話 


 頭上には大きな月が浮かんでいた。橋を渡れば向こうには王城が見えた。ウェイクフィーズの屋敷も見える。それでも何だか向かう気になれなくて、レイチェルは重い足取りで土手を歩いていた。ふと足を止める。
「ここ、は……」
 そこは、『恋人契約』が成立した場所だった。
 全てを見透かすように月がレイチェルの姿を照らし出す。その月を見上げて、レイチェルは1つの決意をした。
 このままでも幸せだとそう思えた。
 だが、掛け違った釦を正しておかなくてはならない。それに気付いた今、真実を告げるべきなのだ。

 呆れられるだろうか。嫌われるだろうか。

 少しずつ近付いてくる人影が見えた。それが誰かなんて気配だけで判った。
 月を見上げたまま、レイチェルはその時を待った。



 ジェイたちと別れた後、橋を渡ろうとして、キースは足を止めた。土手に佇む人影に視線が吸い寄せられたのだ。
 レイチェルだった。

 ここまで来る途中、考えていたことがあった。

 『最初は無理矢理抱いた、って言ってたよね? 本当かな?』

 それは、溜まり場に案内しながら、ジェイが言った言葉だった。

 当直だったあの夜のことは今でも鮮明に覚えている。レイチェルは椅子に腰掛けて、剣を研いでいた。その指先をじっと見つめながら、抑えきれない欲望が湧いてくるのを感じていた。その欲望は、他の誰を抱いても消えてくれない。それどころか、どんどんと増していく。
 いつかレイチェルを壊してしまうかも知れない。漠然とした予感があった。
 背後からレイチェルの手をそっと握った。それだけだ。ちょっとだけ、どうしても触れたかった。
『冷てぇ手』
 突き上げる欲望を抑え込むようにそう言葉にして笑ってみた。
『温めてみるか?』
 振り返り見上げてくるレイチェルに、自分の中の何かが飛んだ。

 夢にまで見た身体を抱いた。
 そう、無理矢理だ。両手首を戒めて、背後から圧し掛かったのだから。
 そして、初めてヤるガキのように焦りながら、無我夢中で貪った。
 レイの中に挿入った瞬間、身体が歓喜に震えた。同時に気付いた。
 大切にしたい、そう思い続けてきた人が、自分の非道な行為に堪えて、小さな吐息を漏らしていた。細くしなやかな指が、関節が白くなるほど外套を握り締めていた。
 痛々しい姿だった。

 レイに会ってはいけない。
 レイを傷つけてしまう。壊してしまう。

 月を見上げたあの夜、レイが来た。

 月に自分の中が曝されそうで怖かったことを、今でも覚えている。



「レイ、」
 この場所だ、そう思いながら、キースはレイチェルに声を掛けた。
 レイチェルは、真っ直ぐに月を見上げていた。先程のカールの言葉どおり、レイチェルには衣服の乱れ1つ見当たらなかった。とんだ杞憂というわけだ。全くもってどうかしている。レイチェルのことになると呆れるくらい愚かになる自分に苦笑しながら、キースはレイチェルの横顔を見つめた。

 大切にしたい、そう思う。
 だが、壊してしまうかも知れない、そう思うだけでやはりとてつもなく怖い。

 キースの瞳の中、月を見上げるレイチェルが1つ息を吸い込む。そうして、逡巡するかのようにたっぷり呼吸3つを置いて、レイチェルはゆっくりと口を開いた。
「あんなこと、しなければ良かった……」
 視線は月を凝視したまま、レイチェルは言葉を紡いだ。
「自分の心が、判らなかったんだ……」
 途切れがちに、だが、しっかりと告げるその言葉の真意はまだキースにはよく理解できなかった。それでも、何かを必死に伝えようとしていることだけは理解して、キースは言葉を挟まずにただ耳を傾けた。
「お前と兄さんは違う」
 アロウェイとキース。外見だけを取ればよく似ている。だが、中身はまるで正反対だ。比較にもならない。考えてみれば、人の本質を見るレイチェルが、外見だけで2人を混同するわけがなかった。
「なのに、気が付けば目がお前を追い掛けている。その理由が知りたかった……」
 そう告げて、レイチェルは声を震わせた。
 沈黙が流れる。ただ、月が後押しするようにレイチェルの姿を照らしていた。
 そうして、何度か唇を開いて、何度か唇を閉ざした後、レイチェルはようやく声を絞り出した。
「……抱かれてみれば何か判るかも、そう思ったんだ」
「――え?」
 どちらのものとも判らない鼓動が跳ねた。
 川を渡って来た風が、2人の髪を揺らした。

『温めてみるか?』 
 あの夜、そう言って、レイチェルはキースを見上げた。
 レイチェルが見せた、一瞬の隙――。

「じゃあ、何か、」
 先に沈黙を破ったのはキースの声だった。
「あの夜、レイは、俺のことが好きで、誘っていたのか?」
「――誰もそんなことは言っていない」
 そう反論したものの、朱に染まるレイチェルの耳朶が答えを曝していた。
「レイ、」
 形の良い下顎を掴んで自分の方を向かせると、キースはレイチェルを覗き込んだ。
 視線が合った瞬間、何かがすとん、と胸の中に収まったような感覚があった。それはキースだけではなかった。同じように一瞬動きを止めて、レイチェルはキースを見上げた。
「……で、どうだった?」
 それは、キース自身びっくりするような優しい声色だった。
 一瞬の間を置いて、レイチェルの白い頬が紅潮した。思わず視線を逸らそうとするレイチェルが愛しくてその口を塞いでしまいたくなる。だが、答えを聞くべく、ぐっと堪えて、キースはもう一度問い掛けた。
「で、どうだったんだよ?」
「……か、身体が、お前を、求めた」
 視線を泳がせ赤面しながら、それでもレイチェルは普段なら決して口にしないような言葉を晒した。それもこれも、押し隠そうとして来た真実を告げる、という強い決意の表れだった。
「お前に抱かれて、嬉しい、と、そう思ったのは事実だ」
 はっきりとそう告げて、レイチェルは少し視線を落とした。切れ長の瞳を覆う長い睫毛が微かに震えた。その様をしっかりと瞳に焼き付けながら、キースはレイチェルを抱き寄せた。キースの両腕がレイチェルの身体の細さをキースに伝えた。もともと細いその身体は、初めて抱いた時よりも一回り以上細くなっていた。
 肝心なことを避けて逃げ出そうとしてきた。その報いを一身に受けさせてしまったその身体を強く抱き締め、キースは月を見上げた。

 レイは、アロウェイを愛している。俺の中に、アロウェイを見ている。
 それでも、レイを抱く手を止められなかった。
 レイは、俺を見ているわけじゃねぇのに――。

 キースは、私が兄を邪な目で見ていることに気付いている。判っている。
 そんな私を憐れんで、私を抱いたのかも知れない。
 キースは、私を愛しているわけじゃない――。

 ――それを知るのが、怖かった。
 
 レイを諦めてやれねぇことは、判っていた。
 レイが好きだ。
 ただ、一度でも口にしてしまうと、レイを失くしてしまうような、そんな気がした。

 キースに心が動かされてしまうことは、判っていた。
 キースが好きなのだろう。
 ただ、それを一度でも認めてしまうと、キースが離れていくような、そんな気がした。

 ――それを知られるのが、怖かった。

 だから、すぐ傍にある真実から、目を背けた。

 見ようとせず、判るはずがない。伝えようとせず、伝わるはずもない。

 たくさん回り道をして、傷つき傷つけた。
 それでも、きっと、必要な時間だった――。

 月の光が、互いの姿を照らし出していた。
 明るく輝く処も、その影も、
「「愛している」」
 そう声にして、互いを抱き締める腕に力を込めた。

 やわらかい風が囁きながら、2人の髪を揺らした。風にそよぐ水面に、月が微笑んでいた。


「……あ、」
 キースの腕の中、レイチェルが微かな声を漏らす。その声に欲情が湧き上がるのを覚え、それを何とか抑え込もうとしてキースは1つ深呼吸した。キースの瞳の中で、レイチェルのアッシュブロンドが揺れた。吐息を1つ、そうして、レイチェルはゆっくりと顔を上げた。
「キース、お前が欲しい……」
 その一言に全ての努力を無駄にされ、キースは息を吐いた。そうして、吐いた息もそのままに、収まりそうにない欲情に任せて、キースはレイチェルの衣服の間に指を滑り込ませた。レイチェルの身体がぴくん、と反応を見せる。それでいて、
「ここでは、嫌だ」
 当然のように投げられたその台詞に、キースは眉を顰めた。
「この、我が儘め。誘っといてそれか」
「……真実を告げるとそう決めたからな」
 さらりとそう告げて、レイチェルはキースの首に腕を回した。
 さっきまでの可愛げは何処に行ったのか。
「でも、待てない……」
 いや、これはこれで可愛いのだが。
「堪んねぇな……」
 そうぼやいて、キースはレイチェルの肩を抱いた。
「――何処へ行く?」
「俺ん家。すぐそこだから」
 短くそう答え、キースは指を立てた。
「お前の家だと?」
 明らかに怪訝そうな表情を浮かべ、レイチェルは顔を上げた。それもそのはずだ。キースは騎士宿舎に住んでいる。騎士宿舎は王城の傍だ。ここから近いとは言い難い。同じ理由で王城の隣にあるレイチェルの家もかなり遠いのだ。
 怪訝がるレイチェルの瞳に、キースの指先が映る。その指が差す方向、下町にある建物の中で一際大きいそれに気付いて、レイチェルは息を呑んだ。
 セレン王国最大の豪商、チェスター家である。勘当された実家に転がり込んで、事に及ぼう、そう言っているのだと理解して、レイチェルは軽くない眩暈を覚えた。
「絶対に嫌だ」
「あのな……、我が儘姫さんよ……」
「誰が姫だ」
 反論するレイチェルの視界に、『宿屋』が見えた。
「あそこでいい」
「馬鹿言え、下町の連れ込み宿にお前を連れて行けるかよ」
「……ここでするよりましだろう?」
 そう言われるとキースも二の句が継げなかった。
「抱きたくないのか?」
 少し上ずった声でそう後押しされると、僅かに残っていたキースの理性は吹き飛んだ。


「キース、早く……」
 寝台に辿り着くなり倒れ込むように身体を預け、衣服を緩めながら、レイチェルは切羽詰った声を上げた。
 ここら辺ではまだましな方であるとはいえ、上品とは言い難い部屋であった。付け加えるなら、薄い壁の向こうからは掠れた声が聞こえてきた。片足を乗せるだけで、粗末な造りの寝台はぎし、と音を立てた。
 『相手はウェイクフィーズだよ?』
 キースの頭の中で誰か告げる。それには舌打ちで答え、キースはレイチェルの衣服を肌蹴た。
「あ……、」
 白い肌に指が触れる。ただそれだけで、レイチェルは髪を揺らし、声を上げた。何とも言えない扇情的なその姿に思わず喉を鳴らし、それでも理性を総動員して、キースは丁寧に指を這わせた。
 
 ――落ち着けよ、キース。

 何度もそう言い聞かせながら、キースは既に十分反応しているレイチェル自身を指で包み込んだ。途端、びくりと身体を震えさせて、レイチェルは抑え切れない声を上げた。もともと敏感な身体である。その上、偽ることを止めた身体は、驚くほどの反応を見せた。
「あ、あ、っ、……キー、ス……っ、キース」
 いつもは凛とした鈴の声が、堪らない艶を帯びて、キースの名を呼んだ。そして、浅い吐息とともにしなやかな両脚が僅かに開いた。次の動作を促すその行動に気付かないキースではない。だが、ともすれば衝動に突き動かされそうになる自分の手を呪いながら、キースは何とか苦しい息を吐いた。

 ――あああ、挿入りてぇ。

 身体中が叫び声を上げていた。制止する声が次第に遠のいていく。
 だが、壊すわけにはいかない。傷つけるわけにはいかない。
 無意識にしろ、意識的にしろ、誘ってくるこの身体が限界を超えていることは、キースも良く判っていた。付け加えるなら、レイチェルの身体をそこまで追い込んだのはキースだ。
 そう思いながらも、決心がぐらりと揺らいでしまいそうになる。しなやかな両脚を抱え上げ、レイチェルの中を感じたくなる。 

「……くそっ」
 湧き上がる衝動を無理矢理抑え込んで、キースは小さく舌打ちをした。とにもかくにも、抑制が飛んだレイチェルの身体を開放してやる必要があった。レイチェル自身に絡めた指先の動きを速めながら、キースは敏感なレイチェルの耳朶を舌で絡め取った。
「あ、あ、……い、嫌だ」
 身体を震わせ、レイチェルが拒絶の声を上げる。
「嫌、……嫌だ、キース……」
 初めは無視していたが、何度もそう告げ、とうとう両手で顔を覆い隠してしまったレイチェルに、キースは耳朶の愛撫を止めて、視線を向けた。ゆっくりと手をどけてやると、レイチェルの泣き顔があった。
「どうした、」
 レイチェルの泣き顔に幾らかの動揺を覚えながら、キースは問い掛けた。その言葉が終わらないうちに、伸ばされたレイチェルの手がキースを引き寄せた。
「私だけ求めているようで、嫌だ……」
「はあ?」
 ぎゅっと抱きつかれ、耳元でそう告げられて、キースは声を上げた。
「レイ、お前な、」
「な、中に、欲しい……」
 そう告げるレイチェルの吐息が、キースの耳朶を震わせた。
「俺の努力を、無駄にするなよ……」
 ふう、と息を吐いて、キースはぼやいた。

 ――も、限界だ。

 制止する声はとっくの昔に何処かに消えていた。
 
「嫌、なのか?」
 それでもまだ追い討ちを掛けようとするレイチェルの唇を塞ぎ、キースはレイチェルの中に指を滑り込ませた。
「あ、」
 レイチェルの白い喉が反らされる。同時にレイチェルの中が、ぎゅっとキースの指を締め付けた。
「嫌なわけねぇだろ、てめぇ。力、抜いとけよ」
 狭いその中をもどかしいくらいに慎重に進み、キースの指先はレイチェルの中を解した。その度に喉を反らし、声を上げ、キースの身体に縋り付くようにして、レイチェルは身体を震わせた。
「あ、あ、あ、もう……、」
 掠れたレイチェルの声が限界を告げた。しなやかな両脚がびくびくと震えた。
「だめ、だ……。キース、も、何も、考えられない……」
「考えなくていいぜ?」
 そう告げて、キースは限界どころではないそれを、レイチェルの入り口に宛がった。
「あ、嫌だ……」
「お前な、……もう遅い」
 溜め息1つ吐いて、それでも慎重にキースは腰を進めた。

「ああっ、あ、……やっ、あ、あ、……嫌、あ、あ、」
「……っ、まだ言うか、」
「あ、あ、……ち、違うっ、あ、」
 レイチェルの指が、キースの背中をぎゅっと掴む。少しずつ深い処に挿入ってくるキースの動きに合わせて、浅い息を吐きながら、レイチェルも少しずつ身体を動かせた。
「わ、判らなく、なる……っ、あ、あ、」
 その台詞に、快楽の波に飲み込まれそうになりながらも必死に言葉を紡ぐレイチェルの意図に気付いて、キースはレイチェルの腰を掴んだ。
「あ、あ、」
「いんだよ、それで。溺れちまえよ」
「あ、……しか、し、……っあ!」
「ちゃんと身体に答えを出させてやっから」
「……あ、……ま、待て、……あああっ!」
 キースに縋りつく手に力を込めて、レイチェルは一際身体を反らせた。
「……っ、他の誰相手でもこんなにならねぇよ……っ」
 全身を戦慄かせるレイチェルの中を感じてそう呟くと、キースも身を震わせた。
「は、あ……っ、」
 掠れる吐息を最後に、レイチェルの全身から力が抜け落ちる。キースの背に回されていた手が、寝布の上にぱたん、と落ちた。
「……レイ?」
 慌てて抱き寄せて鼓動を確認し、キースは大きな息を落とした。

 ――危ねぇ、やっちまった……。

 ほんの少しの後悔と、比較にならない幸福感に支配されながら、キースはもう一度溜め息を吐いた。

「悪いのは俺だけじゃねぇ気もするが……」
 乱れたアッシュブロンドを指で梳きながら、キースは眠りに就こうとするレイチェルにそうぼやいた。
「……何か、言ったか?」
 その声とともに向けられたのは、情事に濡れた薄紫色の瞳。少し疲れた様子で落とす吐息にすら、ぞくぞくと背筋が震え、視線を外すことさえ出来ない。
「ふふ、」
 じっと見つめるキースの瞳の中で、不意にレイチェルが微笑む。
「……てめぇ、確信犯か」
「眠い」
 笑顔のままそう告げると、レイチェルはさっさとその瞳を伏せた。
「ったく、性質悪ぃ……」
 そうぼやいて見せながらも口元が綻ぶのを抑えられそうにないのは、キース自身も良く判っていた。
 どんなに性質が悪かろうが、素直なレイチェルの姿はキースを歓喜させた。

 そして、その姿がキース限定だと判明し、頭を抱えながらキースが笑うのはまた後日の話である。



「朝帰りだな」
 レイチェルがぽつり、とそう呟いた。
 朝焼けの中に立つその姿をぼんやりと見つめながら、キースは寝台の中で苦笑した。
 昨夜あれほど可愛らしい嬌態を見せてくれた恋人は、夜明け前にさっさと一人起き出して、既に身支度を整え終えていた。甘い余韻とかいうものはないのか、と思いつつも、自分が起きるまで静かに待っていたのだろうことを考えると、自然とキースの口元は緩んだ。
「好きだぜ、レイ」
 幸せにまどろみながらそう声を掛けると、レイチェルがふわりと微笑んだ。
「ふふ、今日は戦争だな」
「え?」
 笑顔のまま告げられた言葉の意味が判らず、キースは首を傾げた。昨日の剣術大会、決勝戦に残った段階で、今日の非番は決定しているはずであった。このまま、甘い時間を過ごすのもいい、そんなことを考えていたキースは大切なことを1つ忘れていた。

「……レーイ!」
 幻聴だと信じたいその声は、だが確実にキースの耳に届いた。
「……ああ、父もいるな」
 窓から外を見下ろして、レイチェルが事も無げにそう言い放つ。
「踏み込まれる前に出るか?」
 冷静に判断を下すレイチェルに信じられないといった視線を送り、キースは動揺も顕に寝台から飛び起きた。窓際からその様子を見つめ、脱ぎ散らかしたままの服を拾ってやりながら、レイチェルはくすくすと楽しそうな笑みを浮かべた。
「俺、殺されるかな……?」
 何処か不安げにそう告げるキースに、レイチェルが大きく頷いて答える。
「ああ、お前の啖呵を聞いた時、かなり不機嫌だったからな。ああ見えて、我が儘な方だから」

 ――そのまんまだよ。でもって、実はお前たち、似た者親子だぜ……。

 心の中でだけそう呟いて、キースはもう一度レイチェルに視線を向けた。
 楽しそうに笑うレイチェルの姿が、キースの深緑色の瞳に映る。

「さて、『息子さんを下さい』って、土下座でもするか」
 そう告げて、キースも笑みを浮かべた。

 それを見つめる薄紫色の瞳が、朝焼けの中、とんでもなく綺麗に笑った。

                             ……Fin.




Back      Index

最後までお付き合い下さりありがとうございました!!
もしよろしければ、ポチッと押してやって下さい(^^) → 


 後記 


 最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました(^^)
 やっと完結しました…。長い道のりでした(苦笑)。ここまで辿り着いたのも、読んで下さる皆さまのお陰だと本当に感謝しておりますvv

 では、恒例(?)の雑談などを(笑)。
 今回のテーマはずばり「すれ違い」でした。両想いのくせに互いに相手のことを誤解して、自分の気持ちに気付きながら、無理矢理抑え込もうとする…、そんな2人を書きたかったのですが、上手く伝わったでしょうか(汗)。実は当初のプロットはもう少しヒドイ内容でした。レイチェル、泣くわ泣くわ(苦笑)。これでも途中手心を加えたのです(^^;  ま、終わり良ければ全て良し、ということで。

 さて、少しばかり設定の解説を(^^)
 今回の世界設定は、ロイ(当サイトの看板。『精霊石シリーズ』の主人公)の少年時代、セレン王国です。ある意味、このお話事態、本編(『精霊石シリーズ』)の外伝になるのかも知れない(笑)。
 このお話から入った方に説明を少々加えておくと、遡ること4000年前、愚かな召喚魔術師のせいで魔界との扉が開き、この世界は闇に包まれています。それを救ったのが、4つの精霊石と何処からともなく現れたディーンという名の青年。後に彼は英雄と呼ばれ、セレン王国の初代王になります(詳細は、『精霊石編 序章』)。4000年の月日が流れ、一般には、英雄ディーンと精霊石、セレン王国という名は、おとぎ話の中の伝説のように語られていますが、雪に閉ざされた北の大地にセレン王国は存在し、代々王家の人間の中で選ばれし者の手の中に精霊石が出現し、それを手にした者はセレン王国と精霊石を守る使命を帯びます。というわけで、小国ですが、かなり特殊事情を持つ国です。
 再び魔界の扉が開こうとしている今、それを感じ取ってか、セレン開国以来初めて、4つの精霊石が揃おうとしています。はい、現国王ミルフィールド(水の精霊石)、王弟ダンフィールド(大地の精霊石)、でもって今回はまだ少年で精霊石を手にしていませんが、ロイフィールド王子(ミルフィールドの嫡子、風の精霊石)、アルフィールド王子(ダンフィールドの子、炎の精霊石)の4人が選ばれし者です。

 セレン王国のその後は、本編に♪
 ついでに楽しんでいただけると嬉しいです♪
 『セレン王国編』:
  ロイ17歳。王弟ダンによるミルフィールド暗殺〜ロイが精霊石を手にして国を出るまで。
  あ、ちなみにアスラン登場してます♪ ダン叔父さんはロイを陵辱してます(苦笑)。
 『精霊石編』:
  ロイ21歳頃。ジークとの旅〜ロイが祖国に帰るまで。
  ダン叔父さん、アルフも登場。
  第4章最終話でジークが馬を借りた相手は実はハサウェイとアロウェイ(笑)。途中出会ったのが、アスラン。
  お話には登場しませんが、レイチェルとキースも何処かにいたはず(笑)。
 『邪神降臨編』:   ロイ22歳頃。4つの精霊石をその身に収め、再びセレン王国を後にしたロイ。
  そのロイを生贄にして邪神を降臨させ、世界制服しようとするカルハドール王の陰謀。
  実は、第5章第4話で、カルハドール王は念願叶ってロイを抱いてます(^^;

 今回、ラブラブハッピーエンドですが、その後のセレン王国は大変なのです(苦笑)。
 レイチェルとキースも大変だったろうなぁ……←他人事。
 あ、アスランはミルフィールド王暗殺の後、塔に閉じ込められたロイを救い出そうとして失敗。それでもセレン王国内に留まり、地下に潜伏(『セレン王国編』)。ダンの死後、アルフの即位とともに、アルフの側近としてセレン王城に戻ることになります。ハサウェイとアロウェイは、ずっと王城に仕えています。3代の王に仕えたのね…。

 最後に、登場人物を振り返りましょうか…。あ、今回キャラ多すぎ(笑)。

レイチェル:実は高瀬キャラの中で一番背筋が伸びている、そんなイメージです(笑)。強くありたいという気持ちが強すぎて、融通の利かない生き方しか出来ない、誰にも甘えることが出来ない。反動でしょうか、これからはキース限定『我が儘姫』(笑)です。
キース:レイチェルと対照的な性格にしたくて、その結果、『遊び人』の2つ名を持つキースです(笑)。でも考えてみると、一目惚れに近い初恋からずっとレイチェルを追い続けているなんて…。レイチェル限定で冷静な思考を失う人物です。それにしても、レイを傷つけたくない、と言いながら、あんたどれだけのことしたよ…、との突っ込みが聞こえてきそうです(苦笑)。キースの実家はセレン王国一の豪商。この後、キース母からレイチェルにウェディングドレスが贈られ、一騒動になります(笑)。
アロウェイ:レイチェルの兄。寡黙で真面目な人間です。もう少し活躍させてあげたかった(^^;
アスラン:密かな人気を持つアスラン。相手のことを考えて動ける賢い弟です。名門ウェイクフィーズの三男坊で、王子付きになり幼い頃から王城に入っています。なのに実は苦労人(?) ちなみに、今後剣の腕はめきめき上達。ロイやアルフの剣の指導も行います。

カルハドール王:あ、名前ないや(←おいおい)。我が儘を通し続けてきた王さまです。カルハドールは大国なのさー、お金もたくさんあるのさー。でもって野望もあるのさー。これからとんでもないことを仕出かすのさー(苦笑)。若い頃に即位した彼は、それまで散在していた砂漠の民をほとんど配下に治めます。やり方はどうあれ優秀らしい…。ちなみに砂漠一の巫女姫を連れ去り、生ませた子がハサードだったりします。ハサード、たしか第9皇子だっけ…。
シーマ:出自不明。幼い頃にカルハドール王国の後宮に連れて来られ、王の寵妃にまで上り詰める。以後後宮にてトップを張り続け、今後も君臨し続ける。ある意味つわものです(^^;
  バド:数ある砂漠の民の中で最も気高く強いとされた一族の長の家系。カルハドール王に滅ぼされ、一族皆殺しの目に合っております。それでもカルハドール王に仕えているのは、弟であるシドを守るためだったりします。
シド:バドの血の繋がらない弟。カルハドール王国の後宮にいます。幼い頃砂漠に行き倒れていたところをバドの一族に助けられています。灰色の瞳は僅かな光しか映しません。透けるような白い肌と真っ白な髪を持つ少年です(←うふふ、何かに気付いた方、ご明察です♪)。

ハサウェイ:レイチェルの父。厳格な家長であり騎士隊長。
キャシィ:レイチェルの母。お母さんの愛というものを書きたかった…。もう少し上手く表現できれば良かったのですが。
ロイフィールド(ロイ):レイチェルも綺麗なんですけどね。人間じゃねぇ美貌のロイですから。少年には思えないところがあるのは、ロイだからということで(笑)。
アルフィールド(アルフ):こっちは少年少年しているはずですが(^^; もう少し出てくる予定でしたが、大幅カット。もしかして今回台詞なかったかも知れない…(^^;
ミルフィールド(セレン王):ロイの父。少し頑張ってみた(笑)。ワインが暴れたり、土砂ぶったりしたのは彼の心が乱れたからなのさー。大迷惑(^^;
ダンフィールド:ロイの叔父。将来困ったことを仕出かす彼もこの時点では器の大きい人物。ちなみに、大地の精霊石を持ってますので、地震を起こすのは朝飯前なのです。
ジェイ:キースのセフレ(←ごめんなさい)。実は結構いい奴(?) 良い相手を見つけてあげたいものです…。あ、何かお話書きたくなった。
ジェイド:ウェイクフィーズ家の侍医の息子。アロウェイたちの幼馴染みにもなります。実はアロウェイ以上にレイチェルに過保護。今後キースに嫌がらせをしてくれると思われ…。
ハリス:ウェイクフィーズ家の侍医。ジェイドの父。優しげな人格者。

 こんなものでしょうか(笑)。

 キースxレイチェルは後3本の外伝があります♪ こちらは本編とは打って変わって軽いテンポのお話ですvv 楽しみにしてやって下さる嬉しいですvv

 最後までお付き合い下さり、本当に本当にありがとうございました♪
 次回作でお会い出来ることを楽しみにして、高瀬も頑張りますvv
     高瀬 鈴 拝