アーク撮影とデータ処理の基礎 アークの特徴(概略)

アーク撮影技法の基礎知識:さまざまな撮影手法(概略)(概略)

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 アーク現象を撮影するときに、アーク光に対抗できる効率的な照明があれば、観察したい背景領域を明瞭に撮影できるようになります。レーザ光がアーク現象の撮影に有効なことは、前節で紹介しました。右図に照明を利用した撮影手法の画略図を示します。右の写真のように、カメラと照明が同じ方向でも、十分な光量の照明が用意できれば撮影を実行するのに何の問題もありません。アークはほとんど判別できないくらいになっており、背景と溶融池及び溶融池表面のアノード領域とスラグが明瞭に観察できます。この映像の撮影には、レーザ照明2基をカメラの両横に設置して投光しています。
 照明のパワーが不足している場合には、カメラに対向した位置に照明を設置するのが効率的です。一般に、溶融池表面は平坦であり、溶融池に入射した照明光はほとんど全反射します。溶融池表面が平らであることはあまり無く、中央部が盛り上がった凸型もしくは押し下げられた凹型曲面になっています。このため、照明光がカメラに入り込むことは局所部に限定されます。背景の固体部分には微細な凹凸が存在するため右図に示すように、多くの光はカメラ側に反射されますが、一部は散乱します。散乱光の強度は全反射の方向に近いほど強いので、固体部分は明るく撮影されます。
 実際に、右図にカメラの反対側に照明を配置して撮影した例を示します。母材の身溶融部が明瞭に撮影できています。溶融池表面は暗くなっていますが、照明光が全反射する領域が明るく撮影されています。
 GMA溶接における溶滴移行現象の撮影では、右下図に示すようにカメラと対向した位置に照明を配置し、アーク光を消して、光が透過しない溶滴部以外が明るく撮影されるようにします。以前は、アーク光に対応できる光源としてカーボンアークなどが利用されていました。カーボンアーク光源位置が遠いと照明効果が減衰し、近すぎると肝心の溶接アークに影響が出るなど、取り扱いには注意が必要でした。
 現在では、右下図に示すように、適切な干渉フィルタを用いれば照明なしでも溶滴を明瞭に撮影することができます。また、条件を適切に設定すればアーク発生部も同時に観察できます。
 アークの状態を観察したい場合には、現象を把握するのに適切な波長の組を選定し、透過波長を変えて順次撮影することにより金属蒸気の影響やプラズマ温度に関する情報を得ることができます。
 狭開先溶接のように開先内部の深い位置における溶滴移行現象を観察するのは、通常の方法では不可能です。溶接線の前方からの撮影は可能ですが、トーチ移動の場合には、ピントの合う範囲(被写界深度)が短いため、一瞬しか撮影できない場合が多く、なかなか、求める減少が生起する瞬間を撮影することはできません。
 特に、電子ビーム溶接やレーザ溶接などの深溶込溶接では、側面からX線を照射して内部を撮影するなどの特殊な方法を用いる必要があります。X線を利用する方法は1970年代後半から試みられており、現在では感光剤を塗りつけたフィルムの代わりにIP(イメージングプレート)やFPD(フラットパネルディテクター)を使う、CR(コンピューテッドラジオグラフィー)が主流になっています。また、被撮影部材でのX線の減衰が大きい場合には、II(イメージインテンシファイヤー)を使用して増感して、高速度撮影することも可能となっています。

次ページ   2014.10.02作成 2017.1.21改定

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照明の選択

・アークの発光特性と、溶融金属からの発光特性を理解することが、明瞭な映像を撮影するための照明を選択する鍵となります。

・連続光を用いるのが一番簡単ですが、光量が不足する場合にはパルス光照明を用い、照明が光っている間だけの短時間映像を取込みます。低電力照明が使用可能になりますが、同期に注意が必要です。

・濁った水中で対象物を撮影する場合に、照明を使うと対象物とカメラの間にある汚濁物質からの反射で対象物が完全に見えなくなる現象に困っていました。照明が発光してから対象物に光が届く前に照明が消える短時間パルス照明を用い、照明が消えた瞬間にカメラのシャッターを開く方法がIHIで開発され、この技術が溶接観察に応用されました。

X線撮影

・X線撮影は原則として白黒撮影となります。白黒高速度カメラの感度が急速に向上し、溶融池内部のブローホールや、内部に埋込んだタングステン等のトレーサ粒子の運動を明瞭に観察することが可能です。

・1970年代のX線撮影は、電子ビーム溶接などの深溶込み溶接のキーホールなどの動きを観察して、溶接挙動を明らかにするためにもっぱら使用されていました。電子ビーム溶接は真空中での溶接であり、電子ビーム溶接自体がX線を発生するため、観察窓には鉛ガラスを使用しています。X線撮影をする場合には、鉛ガラスを取り外して撮影しますが、時たま鉛ガラスを取り外して溶接を行おうとすることがありました。同一の装置を交代で多目的に使用する場合には、ウッカリミスはありがちだということを実感した記憶があります。