アナログからデジタルへ
高速度ビデオの高機能化と低価格化とにより、溶接現象の「可視化」は普通に使用できる技術となっています。筆者のように16mmフィルムを使用した高速度カメラを利用した経験のあるアナログ世代からみると、想像を絶する技術の進歩と文化的な断絶が感じられます。16mmフィルムの時代には、メカニカルな機構が目に見え、現像焼付けの過程も自前で行えたため、なんとなくすべてを理解して撮影した気分になっていました。また、撮影結果を目にするまでに時間と費用がかかるため、撮影条件や費用対効果についても真剣に考える環境がありました。
一方、現在の高速度ビデオはモニタを見ながらトライアンドエラーで撮影条件を選定でき、解析自体も自動的に実行可能な環境になってきています。鮮明な映像を簡単に且つ瞬時に得られるようになってきた反面、要素技術が高度化するとともに細部化・モジュール化し、全体がブラックボックスとなっている弊害が存在するように感じています。
カメラ自体もこの半世紀で、放送局用のテレビカメラから一般用のビデオカメラ・デジタルカメラ・携帯電話・スマートフォンと主要用途は変遷し、今後は車載カメラや教育・介護など知的カメラへと向かっています。インターネットの普及と情報技術の急速な発達により、誰でも、どこでも、簡単に鮮明な画像を撮影し、それを全世界に公開できる状況になりました。結果的に膨大なデータ(ビッグデータ)を利活用するための技術も急速に発展しています。
高速度ビデオカメラを用いた溶接プロセスの各種計測技術理解の基礎となる、要素技術の動向を中心に簡単に紹介します。溶接学会誌84巻1号で高速度ビデオによる計測技術に関する解析を紹介することになりましたが、限られた紙面で全体像を把握していただくために、最低限の情報しか記載できていません。より詳細な情報や参考文献を参照したい人向けに、別途インターネットで公開することにしました。
ビデオカメラ技術の開発の歴史に関しては、国立科学博物館技術の系統化調査報告 第18集、武村裕夫「ビデオカメラ技術の系統化」に、黎明期のアナログ技術から最新のデジタルカメラまでの詳細で分かりやすい解説があります。また、デジタルカメラの技術動向については、特許庁による「平成20年度特許出願技術動向調査報告書:デジタルカメラ装置(要約版)」に、デジタルカメラの歴史や技術俯瞰図および許出願技術動向についての詳細な調査報告があります。
高速度ビデオに関するさまざまな情報が記載されているサイトとしては、この「高速度カメラ入門 Q&A」がお勧めです。
カメラ技術がアナログからデジタルへと大幅に変遷しましたが、その基礎に情報通信技術の革命的な発展があります。総務省の報告書でも、(1)平成17 年度情報流通センサス報告書から、(2)我が国の情報通信市場の実態と情報流通量の計量に関する調査研究結果(平成21年度) ―情報流通インデックスの計量―、(3)平成25年度特許出願技術動向調査報告書(概要)ビッグデータ分析技術、(4)情報量の急増と時間の希少性「ファブ社会」の展望に関する検討会報告書まで、技術の進展に伴うキーワード(技術の焦点)の変遷が伺えます。実際のところヒトゲノム計画やソーシャルネットワークなどに象徴される、「産業化」と「情報化」の融合した革命的な技術革新が進められていると感じています。「誰でも、どこでも、何でもできる」が標榜されていますが、個人的には操作の画一化が進み、自分のしたいことをするのには、今まで以上に特殊な知識が要求され、逆に不便をかこつようになってきています。
現在の情報技術の動向に関しては、「コンテキストの時代 Age of context / ウェアラブルがもたらす次の10年」ロバート・スコーブル, シェル・イスラエル著作、滑川海彦, 高橋信夫/訳、日経BP社(2014.9.24)ISBN 978-4-8222-5047-8が分かりやすい本です。また、角川インターネット講座「ネットを支えるオープンソース / ソフトウェアの進化」村井純/代表監修、KADOKAWA(2014.11)ISBN 978-4-04-653882-6も、お勧めです。
本章では、画像素子などの技術を中心に、高速度ビデオを利用して溶接現象を解析する上で知っておいたほうが好ましい基礎知識について紹介します。
次ページ 2014.10.10作成 2015.1.4改定