2.5 高速度ビデオカメラの性能
右図に、高速度カメラの開発の歴史と高速度ビデオカメラの能力の向上の歴史を示します。フィルムを用いた高速度撮影では、撮影速度の限界は、フィルムの感度(撮影速度が早くなると露光時間が少なくなりきれいな撮影ができなくなります)とフィルムの物理的な回転速度とに影響されます。フィルムの送り速度には物理的な限界があるため、回転式のプリズムや鏡を用いて相対的な撮影速度を向上させていました。1970年代半ばに開発された高速度ビデオは市販のVHSビデオテープを使用していたため、やはり撮影速度には限界がありました。
半導体メモリ記録方式が開発されて以降は、最大撮影速度は、CCDやCMOSイメージセンサの感度と、ピクセルアレイからのデータを読出し速度に規制されることになりました。フィルム送り速度のような物理的な制限がなくなり、半導体技術の向上とともにカメラの性能は急速に進歩してきました。ビデオカメラ性能向上の記録を、5年ごとにその時点での高速度ビデオカメラの最高性能を撮影速度と最大画素数との関係で示しておきます。ムーアの法則通り、10年で性能が10倍向上しています。
右図に2014年度市販の各種高速度カメラの撮影速度と画像のサイズとの関係を示します。画素数の最大値は、需要と供給との関係でどれだけ大きなサイズの映像が必要とされるのかによって決まります。このため、最大画素数での撮影速度は、基本的な撮影速度以下では一定となります。それ以上の撮影速度では、カメラの性能は、読出し速度に規定されますから、撮影速度×撮影画素サイズはほぼ一定となります。撮影速度がかなり速くなると、他の要因で読出し速度に限界が生じ、読出し効率は低下します。図の左側に市販デジタルカメラやスマートフォンのビデオ性能を示しました。「誰でも、どこでも、いつでも」高速度撮影が可能な時代になっていることを実感させられます。
さて、高速度ビデオカメラの最高撮影速度の限界は、データの読出し速度(撮像素子からメモリへの転送速度)に制限されます。このため、読出し技術に格段の進歩がないと、今後の大幅な速度向上はあまり期待できません。
周期的に繰り返される現象の観察では、その現象の周波数に対して若干異なる撮影速度で撮影し、撮影終了後にデータを並び替える手法が存在します。しかし、溶接のように厳密な意味では再現性が存在しないので、ゆらぎの大きい現象の撮影には利用できません。また、これらのセンサには速度と感度とのトレードオフが存在し、シャッター速度を早くすると素子に入射される光量が減少し、感度が低下します。一方、右図内右上に赤丸で示してあるのは、近年開発された光エージング手法STEAM(serial tim-encoded amplified imaging / microscopy)の性能です。これは、CCDやCMOSの技術的・根本的制限を乗り越る手法です。二次元の空間情報を分光的に光シグナルの時間波形にマッピングし、光学的に画像を増幅させ単一ピクセルのフォトダイオードで検出しています。この結果、約10Mfpsの撮影速度が可能となっています。この手法では連続的な撮影が可能なため、例えば、レーザアブレーションのように狭い範囲で生じる瞬間的で確率的な現象の撮影などに威力を発揮します
次ページ 2014.10.10作成 2017.1.24改定