2.2 撮像素子の構造とノイズ
右図にイメージセンサの簡単な断面構造を示します。カメラのレンズで集光された光は、センサ表面のマイクロレンズでさらに集光され、カラーフィルターを通過した後に素子下側の感光(フォトダイオード)部に照射されます。照射された光量に応じて光電変換された電荷の量(電圧)を増幅した後、A/D変換して輝度として取出されます。当初CMOSはCCDに比べて雑音が多く発生していましたが、現在は技術が向上して、高感度かつ低ノイズが達成されています。画像センサーにおけるノイズは、主に(1)フォトンショット・ノイズ、(2)暗電流ノイズ、(3)読み出しノイズ、(4)固定パターンノイズの4種類のものが存在し、それに画像センサーの出力を処理するアナログ回路のノイズが加わります。
ノイズは入射光に関係せず一定となるものと、入射光に応じて増加するものとがあります。フォトンショットノイズはホワイトノイズで、電流や光強度が小さい場合にのみ問題となります。暗電流ノイズは素子の物性的な熱雑音で、入射光量に関係なく素子温度が高くなると急激に増加します。ノイズは入射光量ではなく電荷の蓄積時間に応じて増加します。このため、微少光を長時間露光で記録する場合に雑音の影響が大きくなります。このノイズはセンサーを強制冷却することで低減できます。通常の素子では周辺部に光の入らない部分を作成し、暗い領域で発生する電位を差し引いて利用します。
10年程度以前に初期のデジタル高速度ビデオを用いていた時には、撮影開始時にレンズにふたをした状態で光がない映像の熱雑音データを取得し、熱雑音を差し引いたデータを利用していました。暗電流は温度が上昇するとは急激に増加します。微細な光を利用する計測では、撮像素子を冷却して常に素子温度が一定になるように配慮しておく必要があります。
読出ノイズは現在の撮像素子のランダムノイズの主原因であり、素子(半導体)内を電荷が移動及び電荷を増幅する際に発生します。高速度ビデオのように素子の動作周波数が高いほど読出ノイズは増加する傾向を示します。固定パターンノイズは半導体チップ生成時の各素子の感度差(ムラ)により発生します。最近の超微細化技術の進展により、素子のむらはほとんど目立たず、ノイズの発生は比較的小さくなっています。また、時間的変動は小さくなっています。このため、素子外周部に光が入射しない素子を設置し、この素子の発生電荷を用いて、出力後の差し引き処理で補間ができます。
ベイヤー配列は最初に示した図にあるように、2×2の4画素に赤青緑のみが透過すフィルターを素子表面部に設置し、赤(R)1画素・緑(G)2画素・青(B)1画素を1組にして規則的に並べて色(カラー)情報を求めています。緑画素は輝度と解像度とに大きく寄与するため、赤青画素より個数が多くなっています。白黒画像の場合には、すべての画素を有効に利用できますが、カラー画像の場合には、一つの画素にRGBの内1色の情報のみしか感知できません。不足している色情報については周辺の他色情報を用いて、マトリクス回路などで色補正を行います。実際の色と感覚的に合致する色をモニタに再現する色補正は各社のノウハウになります。また、フィルター(撮像画素)の配列は非常に周期性が高く、被写体によっては干渉などを起こすこともあります。テレビニュース時などに解説者の着ている高級なスーツがギラギラチラチラしている現象がよく目に入る干渉の例です。
最近では、光透過率の高い白(W)画素を導入する技術も開発されています。白画素は他の画素に比較して3倍以上の入射光量が増加するため、広ダイナミックレンジ(WDR=wide dynamic range)技術と組合せて使用されます。
・高速度ビデオカメラの雑音の評価
(1)暗電流によるノイズは、レンズに蓋をして、撮像素子に光が入らない状態で撮影することにより求まります。最近では、光の入らない素子を設置して、常に暗電流を評価している素子もありますが、念のためにデータを検討すればよいと思います。画像サイズは、使用するビデオカメラの最大値にし、その画素サイズの最低速度(シャッター開放)で撮影すれば良いと思います(時間がかかりすぎるのが難点なので、夜間の自動運転がお勧めです)。各画素について、平均と分散を求めて、素子のばらつきを検査します。また、各撮影時刻における平均と分散を求めて、時間的な変動がどの程度あるのかについても評価しておきます。
(2)次に各素子の増幅率のばらつき(固定パターンノイズ)を検査します。白色の標準反射板があればよいのですが、無ければ白い紙を用います。その試料を画面いっぱいに撮影してホワイトバランス調整用のサンプル画像を得ます。試料表面のざらつきにより生じる誤差を避けるために、ピントはわざとぼかしておきます。画像サイズを最大サイズにしてシャッター開放は同じですが、最大サイズで最高速度の映像から最低速度の映像まで、5条件程度を撮影します。時間を短縮したい場合には、照明強度を変化させて撮影します。各条件での平均輝度Bcと分散Rc、各画素での平均bc(x,y)と分散rc(x,y)を求めます。Rc/Bcが各明るさでの平均的な増幅率のばらつき度合い、bc(x,y)/Bcが個々の画素の増幅率の違い、rc(x,y)/bc(x,y)が個々の画素の増幅率のばらつき度合いとなります。全画素について対象の明るさが均一と言う条件はなかなかありませんから、各画素の増幅率を求めるのは、各画素の(5,5)近傍の平均値を分母として用い、その画素の増幅率が周囲とどの程度異なるのかについて求めて、測定値の補正を行うことができます。
(3)最後に読み出しノイズです。(2)とほぼ同じ撮影条件を選定しますが、すべての撮影条件で露光時間が一定となるように設定して、撮影します。各撮影速度でオープンの場合の値と比較してどの程度ばらつくのかについて評価します。
次ページ 2014.10.10作成 2019.2.19改定