2.素子と高速度ビデオ 2.1 撮像素子の高機能化と小型化

2.1 撮像素子の高機能化と小型化

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 フィルム時代からカメラには光学機械電器などの広範な技術分野において裾の広い技術の支えを必要とし、高度な最新技術に満ち溢れていました。多くの最新技術の集大成であることから、カメラは、産業見本市とみなされていました。デジタル化で、電器電子部品の比率が高まるとともに、通信との連携による新しい画像文化の波による大きな文化的な変化に直面しています。スマホはカメラを標準装備としたことから、カメラやビデオ関連のアプリが急増し、使い勝手も格段によくなったこともあり、ネット時代の寵児となっています。携帯電話カメラ用のCMOSイメージセンサは、出荷数が2013年には20億個を超え、イメージセンサの出荷個数ベースで全体の約7割を占めています。
 超小型が必須の携帯電話は、画像素子微細化技術を後押する最大のドライビングフォースとなっています。最近の携帯電話カメラにおける多画素化への要求は高く、2014年は1,300万画素のカメラが多く搭載されています。超高速撮影、ナノフォトニクス、バイオ計測、赤外線、X線などの用途に用いられる画像入力デバイス・機器においても、飛躍的な技術的進展が見られています。
 急速な需要の拡大にともない、撮像系や画像処理系のようなデジタル系の比重が著しく増大しています。しかし、交換レンズ群やオートフォーカスあるいは自撮り棒等アナログ性の高い領域のウェイトも一層高くなっています。画像入力機器の目となる撮像素子は、200万画素以上ではCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサの優位が決定的になったことから、ここ10年でCCD(Charge Coupled Device)素子から、CMOS素子へと転換されました。
 CCDセンサとCMOSセンサでは、受光部(フォトダイオード)で光電変換された信号電荷を出力回路まで読み出す方法が異なります。CCDではフォトダイオードに蓄積された信号電荷は転送トランジスタを用いて垂直転送CCD(V−CCD)に読み出され、最終的に出力部にある増幅器で増幅されて出力されます。CMOSではフォトダイオードに蓄積された信号電荷は画素ごとに設置された増幅器で増幅され、水平ラインごとに一斉にAD変換してデジタル信号で後処理ができるため、画素数が増加すると高速化の優位性が高まります。また、CCDでは3種類の異なる電圧が必要なのに対して、CMOSでは1種類の電源で動作できます。更に、CMOSは低消費電力であり、ディジタル信号処理を行うための演算処理装置(DSP=Digital Signal Processor)などの周辺周辺回路も素子内に組み込めます。これらのことから、携帯電話搭載の高精細デジタルカメラとして広く使用されるています。また、読み出し時間の優位性から、高速処理が必要な車載カメラに採用され、高速度ビデオの撮像素子としても利用されるようになりました。
 撮像素子に求められる機能は、色、光量、空間、時間の分離抽出及び合焦点の情報提供です。デジタルカメラの撮像素子における色情報は、原色系の赤緑青(RGB)のオンチップカラーフィルターをベイヤー(Bayer)配列にして画素上に設け、可視光を3色に分離しています。最近の技術向上で量子効率はほぼ100%になり、カラーフィルターの光吸収が入射光量ロスの主原因となっています。一時3CCDとして宣伝されたダイクロイックミラーを利用する3板技術を使用すると、入射光量ロスを無くすことができますが、大きさ・重さ・コスト増の問題があり、最近の小型軽量化傾向に反していることから、需要は急速にしぼみました。
 ビデオカメラ技術の開発の歴史に関しては、国立科学博物館技術の系統化調査報告 第18集、武村裕夫「ビデオカメラ技術の系統化」が詳しく、カメラに関する理解を深めるには、電子情報通信学会知識ベース「知識の森、8群 情報入出力・記憶装置と電源」の解説が分かりやすく参考になります。コラムは、”一岡芳樹, 光学情報処理−いままで,いま,これから−光学43巻1号,p.214(2014).”を参考にしています。

次ページ   2014.10.10作成 2017.1.24改定

小川技研サイト
ビジョンチップ

・CMOSイメージセンサの各画素内にさまざまな機能を持つ処理回路を集積化し、画像処理の高速化・高機能化を目指した素子。
・画素内にビットシリアル演算回路を集積化し完全並列デジタル処理を目指したチップも開発されています。
・パルス周波数変調方式のイメージセンサを利用した人工視覚への応用も検討されています。

テクノロジー

・テクノロジーと言う言葉には、知識の実践的応用と言う意味があるそうです。
・社会が必要としているものが有用な技術として活用されてきました。如何に優れたものでも、周辺技術が伴わず経済的に量産できない場合には、ほとんど役に立たない状況になります。
・如何に必要な事象でも、基礎的な知識と技術を応用できる社会基盤とが集積して(土台がきちんとできて)いないと、真に役立つ技術にはならないと思っています。