3.1 太陽光のスペクトル分布
太陽から放出された光は、地球軌道付近で約1.37kW/m2(太陽定数)のエネルギーを持ちます。生物の生存に有害なエックス線は殆どが大気で遮断され、紫外線も成層圏のオゾン層で90%以上がカットされます。地上の各地点で受光できるエネルギー密度は、緯度や季節、時刻により大気を通過する距離変化に応じて、変動します。下図は、米国エネルギー省再利用可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory) のデータと、暗所比視感度の数値データ及びカメラ感度はソニーやハマホトのHPからの数値の平均的な値から作成しています。日本付近では最大約1kW/m2のエネルギーです。普通の強さの可視光線は害にはなりませんが、溶接アークの様に紫外線も含む強い光が目に入ると網膜が火傷する危険性があります。このため、日差しの強い海辺や溶接作業では、光の強度や特性に応じたサングラス(保護メガネ)が必要です。
人の五感の一つである視覚は、可視光を物理的入力とした感覚です。物体の色、形、運動、物体のカテゴリー、あるいは位置関係のような外界の空間的情報を認識しています。アーク現象の撮影と解析においては、撮像素子から入力された光情報をもとにして処理を行います。プラズマ温度の計測などの物理計測では、特定の波長の光分布や分散などを精密に測定します。一方、現象の計測や技能の定量化などでは、人の五感との対応が重要になります。
スペクトル表示は通常対数軸を用いて表示しますが、上図は通常の座標軸表示なので、人の感じる色波長領域が小さく見えますが、実際には紫や赤をきちんと認識します。一般的なカメラの波長感度の例も示していますが、人の色感覚より近紫外および近赤外領域の感度が高いものが一般的で、それらの光を減衰させるフィルタを用いないと、青味がかったり赤みがかったりします。
光は物体に当たり、物の性質により部分的に吸収されます。 吸収されない光は、反射されて、目の網膜で色受容体に当たり符号化されます。つまり、入射光線が刺激に変換されます。次に、刺激は神経を通して大脳皮質へと送られ、刺激を解釈して色として認識されます。日頃目にするものの大まかな輝度値を参考のために表示します。蛍光灯に比較して、太陽やフィラメントの明るさが分かります。
表2に明るさと輝度などの定義を示します。照度、ルクス、輝度、ルーメンなどの定義とその関係は、あまり正確には覚えていない用語なので、記載しました。
人間の錐体細胞(S,M,L)と桿体細胞(R)が含む視物質の吸収スペクトル視覚系の感度は、光の波長によって異なります。人は明るいところでは555nmの波長の光を最も強く感じます。この時の感度を基準として他の波長の光に対する感度を求めたものを比視感度と言います。
明るい所では色が知覚され、分光感度の異なる3種類の光受容器(錐体)が存在すると考えられています (三色説)。これらは、短波長領域(青のスペクトル)で敏感なもの、中くらいの波長領域(緑のスペクトル)で敏感なもの、および長波長領域(赤のスペクトル)で敏感なものの3種類です。3つのタイプの受容体からの刺激は、脳で結合されて、色の認知につながります。色彩を知覚できるのは視野の中心付近なので、実際の色彩の知覚には錐体細胞の分布が大きく影響するはずです。赤、緑、青を感知する各錐体の分布密度はほぼ 40:20:1と言われています。これが明るい場所では赤を強く感じ青が黒ずんで感じられる理由とされています。
一方、暗い場所での光受容器(桿体)は1種類しかありませんが細胞数が最も多く、広い波長帯にわたって明るさに反応します。暗い状態では507nmの光に対して最も感度が良く、感度曲線が短波長側にシフトしており、これをプルキンエシフトと言います。具体的には、暗い場所では青が鮮やかに遠くまで見え、赤は黒ずんで見えます。心理的影響として、夕暮時は人間の心理が不安定になりやすくなり、統計学上でもこの時間帯に衝動買いする人が多いと言われます。逆に青色街路灯に防犯効果があるともいわれています。
次ページ 2014.10.10作成 2017.1.23改定