3.2 色の定量化
カラー画像を定量化する場合には、色に対する共通の認識と理解を持たせる必要があります。各々の人は、異なって色を「経験」し結果として色の解釈に個性が生じます。また同じ人でも、 異なる時間や雰囲気によって、本来同一の物体を違う色として色覚することもあります。しかし、多くの人々が光の色に個性を感じ、暖かい色冷たい色など同じような感覚を共有していることも事実です。
赤緑青の3原色は波長が短いものから長いものへと上図に示すように、数直線上で表現されます。一方、右図に示すように、色は円環構造となっており、個人的には少し違和感を覚えています。最近の生理学的な研究では、錐体細胞で物理的に円環構造に意味があることや、視覚認識処理がFFTのように周波数解析を実行しているらしいことなどが報告されています。
そこで、光の波長と色との関係です。単一の波長の光を見てその色が何色に相当するかというのが本節の主題です。上図に示した光波長と色との対応を見てみると、紫は400nm程度の短い波長の光ですが、人はこの波長帯の色を青に少し赤が入った色と感じます。波長の長い光 (赤) に反応する錐体は, 実は可視光の中で波長の最も短い光 (紫) にも反応するそうです。 このために「赤と青を混ぜた光」が「紫色」とみなされるということです。
色の定量化のためには、色の定義が重要となり色相(Hue)、彩度(Chroma)、明度(Lightness)の3つの値が良く使用されています。詳細は次節で紹介しますが、あらゆる色はこれら3つの値と光の種類を考慮に入れて表現できます。白は無彩色ですが色の1つです。理想的な白は400−700nmの範囲の中のすべての入射光線(太陽光が仮定されています)が反射された色であり、この「理想的な白」は純粋に理論上のものです。かつての白標準であった硫酸バリウムの平均反射率は可視スペクトルの98%です。人の感じる白らしい白色は本当の白とは少し違い、青色成分が少し多めに入っています。このため、蛍光発光を利用して白く感じさせている衣類やタオルが多数存在します。と言うより、洗剤の中にこの成分の粉末が含まれていて、洗濯により繊維に付着させているものがあると言った方が分かりやすいかもしれません。
色の感じ方ですが、色を感じる3種の受容体が受け持つ波長範囲にはある程度の幅があり、最終的には脳の中で色を判別するために、異なるスペクトル分布を持った光であっても、同じ色の感覚を生じる現象(条件等色=メタメリズム:metamerism)が存在します。逆に隣り合う色の影響で同じ色でも違って認識する場合もあります。
上述したように色に対する知覚は主観的なものがあり、また、異なるスペクトル分布の組み合わさった色を同じ色として知覚する場合もあります。しかし、最近の研究では、色を感じる受容体の構成比は人により数十倍の違いがあるが、日常生活での学習によりほぼ共通の認識を持つようになるといわれています。つまり、色を知覚する為に重要なのは、光の受容体である目の錐体ではなく脳らしい=生育環境内で周囲との感覚の相違を学習し、周囲にあわせる無意識の努力により、自己の属する集団に合致する感覚を学習するらしいとのことで、網膜は脳の一部だと主張する科学者もいます。このことに関しては、7章の「人の目と機械の目」に、錯視などに関する項目を含めて記述しています。
実は人が感じる色はRGBの3原色だけでは表わすことができず、500nm前後の光では赤の成分がマイナスになるような色を感じています。しかし、カメラのセンサにそのような機能を望むのは現実的ではなく、右図に示すように各波長帯域を透過させるようなフィルタを用いてRGBの3原色で色を表現するのが実用的となります。このように3原色に分解して撮影した画像データを用いて、人の感覚に近い色をどう表現するのかが、次章で紹介する表色系です。
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