3.光波長と色 3.3 カメラ撮影

3.3 カメラ撮影

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 アーク現象のカメラ撮影では、用いる機材や撮影条件が通常の風景撮影とは少し異なります。常識的な話ですが、何を目的として、どのような撮影をして、いかなる解析を行って、その結果を理解してもらうべく表示する、の一連の内容を吟味して撮影する必要があります。右図に撮影手法の概略を示します。撮影目的(何を見たいのか)によって、用いるべきカメラの種類や性質が決まります。同時に、用いるべき照明およびフィルタの性質や種類も決まります。さらには解析手段を何にするのかによって、トレーサーなどの用意が必要になる場合もあります。撮影目的によっては、X線カメラが必要なこともあります。
 右図に撮影機材から出力までの一連の過程と照明効果の例について示します。実際に生起している事象は種種雑多な情報を有しています。その光がレンズを通過する時点で、紫外や赤外の情報が除去され、レンズによる歪も生じます。撮像素子に到達した光は、各素子で光の強度に応じた電荷を発生します。カラー撮影の場合には、素子のBayer配列などによる色フィルターを通過して所定の色情報に応じた光が到達します。フィルターによる減衰と波長帯に依存した電荷発生効率により、色情報は大きく変形します。発生した電荷を意味のあるデジタル信号に変換するために、アンプでAD変換可能な電圧まで増幅します。この過程で光強度が弱い場合には雑音の影響が大きく、光強度が強すぎる場合には増幅しにくくなります。アナログ式のカメラの場合には、データ転送過程で減衰とノイズの付与があります。デジタル信号に変換された場合には、雑音の影響は少なくなります。データは記録され、モニタで出力されますが、一般的にモニタは信号に比例して明るくはならないために、ガンマ変換などの強度変換を行って自然な色合いに調整されます。
 右図はアーク溶接を撮影する場合の特徴を表しています。照明に使用する光源の性質と、撮影する物体表面の性質により、カメラに入る光量が決まります。問題はアークの光が通常の照明光より格段に大きい点にあります。この結果、散乱や減衰によりカメラに到達する光が所定の品質に達しない場合もあります。撮影したい事象が水中にある場合には、カメラを水中に設置する場合もあります。あるいは外部に設置したカメラで撮影する場合もあります。
 同じ事象を撮影する場合でも、カメラと撮影対象との距離により、カメラに到達する光強度が異なり、周辺(背景)からの光の量も異なります。上図に示すように、カメラ位置と画角により得られる画像は大きく異なります。この結果、高品質撮影を行うために必要な照明も、それぞれの条件により異なってきます。
 アーク現象の撮影の場合、(1)アークが発生している領域と(2)溶融池の領域および(3)母材などの背景部分とでは、光の強度とその周波数成分とが大きく異なり、通常のカメラでの撮影は困難となります。図17は対数表示をしてあるため、3領域の強度分布ははっきりと分かれているように見えます。図18は直線で表示した例で、溶融池領域と背景領域両者とも、アーク光に比べて格段に強度が弱いために、普通にアークを撮影すると上図右のように背景部は真っ黒に撮影されます。絞りを極端に絞って、溶融池部分が明瞭に観察できるようにすると、アーク部は完全に飽和してしまい、アーク領域内部の相違は観察不可能になります。
 溶融池領域と背景領域およびアーク領域をすべて高品質な映像として撮影したい場合には、高強度の外部照明を用いる必要があります。一般にはアークに匹敵する外部光源を用意することは困難です。溶融池とアーク部とを高品質に撮影する効果的な方法は、狭い帯域の波長のみを通過させる干渉フィルターを用いる方法です。溶融池部分からの光波長成分を含んだ波長帯域で、アークからの発光成分があまり強くない帯域でかつカメラに感度がある帯域として900-1500nmの波長帯があります。例えば950nm近傍の光のみを透過する干渉フィルターを用いて撮影すれば、 アークと溶融池とが明瞭に撮影できます。この場合、可視光とピントの合う距離が異なるため、ピントあわせが難しくなります。幸い、テレビのリモコンなどはこの波長のLEDを用いていますので、リモコンのLEDを被写体におくことであらかじめピントあわせを行うことができます。
 通常のアーク溶接で発生するアーク光強度は、1-10kW程度になります。アーク光に匹敵する強力な光源を用意することは、容易ではありません。昔は、カーボンアークなどを用いて撮影することもありました。1990年代からアーク溶接中に溶接線を検出するためにレーザを利用することが行われていました。特定波長のレーザを照明することで、現象の観察が容易になります。アークからの光は特定波長の離散的なスペクトルと再結合などで生じる連続波長の光です。
 アーク光の強い波長帯を含んで撮影すると、レーザ照明でも効果はありません。しかし、レーザ照明の波長にあわせた狭帯域の干渉フィルタをカメラに装着すれば、、鮮明な映像を撮影することができます。この場合には、レーザのパルスが発生している瞬間に、カメラのシャッターが開いていること、なおかつ、シャッターが開いている時間幅がレーザのパルス幅より大きいが、連続的に蓄積されるアークからの光より強いことが必要です。高速度ビデオのほとんどは、パルス照明に同期する機能があります。レーザ自体は単色のコヒーレントな光ですから、例えば、緑色のレーザを照明に使用した場合には、アークから発生している赤や青そして緑の光も同時に撮影します。現在では、デジタル化が進展し、NTSC方式のカメラを用いて撮影する機会(カメラ)は減少してしまいましたが、NTSC方式のカメラは、1/60秒の時間間隔で、奇数ラインと偶数ラインとを交互に撮影していました。このため、映像を奇数ラインと偶数ラインとに分離してしまえば、照明で明るく撮影された背景領域と、照明されていないくらい背景の写真を得ることができます。この両者の映像を利用して、アークは金属蒸気の影響の少ない映像を抽出することができます。白黒画像の撮影の場合には、レーザの波長のみを透過させる干渉フィルタをカメラに装着することで、連続発振の半導体レーザを照明に使用できます。
 右図に、明るさ(画像素子に入射する光量)と得られる輝度との関係を示します。図15が両対数表示をした関係、図16が通常の座標系です。両対数表示のグラフには、比較のためにCCDとCMSの感度を記載しています。実際の画像データは8ビットで取り扱いますから、計測目的でリニアーな関係で撮影する場合には、データ品質には実質的な影響はほとんどありません。高速度カメラが取り扱うデータは12ビットからよりダイナミックレンジの大きい16ビットにシフトする傾向があり、CMOSの特性が有効に活用できる傾向となっています。右図に、溶接現象の撮影のときに知っておいたほうが好ましい、大まかな明るさの関係を示しておきます。

次章   2014.10.10作成 2019.8.5改定

小川技研サイト
知覚の正体
 古賀一男氏の"知覚の正体/どこまでが知覚でどこからが創造か"(河出書房新社)には今まで知らなかった情報が満載でした。それなりに多くの本を読んできたつもりでしたが、まだまだ知らないことが非常に多く残っていると改めて感じました。
 現役時代に専門分野のまったく異なる様々な技術開発に携わる機会に恵まれ、読書好きであったこともあり、それなりに多様を読んできたつもりでした。観点が変わると情報の質と踏み込み方がこんなに違うものかと痛感しました。
 研究に対する心構えなどへの言及もあり、大学初年度に一度目を通しておくべき本だと感じています。
可視光レーザ照明
・最近の半導体レーザでは可視光のものが多く市販されています。可視光レーザを調べるにはこのサイトが便利です。
・半導体レーザー(LD)はレーザー発振の条件を満たしたLEDです。LDは波長と移送とが揃ったコヒーレントな光です。
・LDの帯域幅が約1nmなのに対して、LEDのは約70nmと広く、アーク現象観察用光源としては適していません。
ネコの目
・くるくると状況に応じて急変するものの例えですが、大阪大学蛋白質研究所が作成した "どうして心臓は動き続けるの? 生命をささえるタンパク質のなぞにせまる, 化学同人, ISBN 978-4-7598-1981-6" には視覚に関する基礎的な説明が、非常に分かりやすく記述されています。タンパク質に関する包括的な説明書で工学系の視点とはかなり変わった観点から分かりやすく説明がなされています。
・基礎的な知識がないとミスリーディングしそうな部分もありますが、通常の分かっている人にしかわからないマニュアルより相当理解しやすい良書です。
人間の目
・人間の臨界融合周波数(光の明滅を感じなくなる周波数)は25-30Hzです。NTSC方式のビデオカメラが30Hzなのもこの周波数に関係しています。画面を奇数と偶数に分離し、60Hzで奇数ラインと偶数ライトを交互に撮影し、モニタにも同じように送り、表示し、見た目のちらつきが無いようにしています。
・ハエの臨界融合周波数は約200Hzであり、モニタや蛍光灯(50-60Hz)のちらつきを感じているとのことです。
・物体の反射スペクトルは、物体の分光反射率(波長ごとに反射する光の割合)と光源スペクトルによって決まります。物体の分光反射率は環境によっては変化しませんが、光源スペクトルは環境(季節、日時、天候、周囲物体)によって大きく変化します。薄暗い環境では、赤色を認識する能力は低下します。しかし、ある程度明るい環境では、周囲光の色調がある程度変化しても、もともとの色の違いを難なく認識します。人間の色調に対する補正機能は、なかなか機械では実現できません。
・電子の巨人たち, リオーダン・マイケル, 鶴岡雄二,ディーン・マツシゲ/訳, ソフトバンク, ISBN 4-7973-0533-9
紫外線
・哺乳類は角膜で反射と吸収と言う二重の防衛線で紫外線の進入を抑えている。
・角膜を構成するコラーゲンの微細構造が紫外線を反射しやすくする。
・角膜のALDH3A1と呼ばれるたんぱく質が紫外線を直接吸収する。鳥類は角膜にALDH3A1は無い。紫外線は角膜の脂質を酸化するが、酸化した脂質は豊富に含まれるアポリタンパクが速やかに除去する。
・哺乳類の祖先は進化の途上で夜行性となり、紫外線の無い夜間活動で紫外線感受性を失った。2色型色覚になった真獣類の内一部の例虫類が再び昼行性となり3色色覚を獲得したが、紫外線感受性は再獲得しなかった。
・電子の巨人たち Crystal fire, リオーダン マイケル, 鶴岡雄二,ディーン・マツシゲ/訳, ソフトバンク, ISBN 4-7973-0533-9