5.5高水深中の切断手法で観測された圧力影響
1 溶極式ウォータジェット切断
水中切断法では、大気中の切断で問題になる騒音やヒュームがほぼ完全に除去され、さらに切断部近傍が強制冷却されるために熱歪も小さいという特徴があります。逆に、切断部表面の冷却速度が速いため、表面部が硬化するという欠点もあります。
溶極式ウォータジェット切断法はMIG溶接法をもとに開発した切断手法で、内径を小さく絞り込んだノズルから、イナートガスの代わりにジェット水を高速で噴出させています。定電圧電源を用いて、母材と電極ワイヤとの間にアークを発生させ、溶融した金属を高速のジェット水で除去して切断を行います。ジェット水は、溶融金属の除去の他に、アークの緊縮と移動、電極の冷却と言う機能を有し、数千アンペアの大電流を使うにもかかわらず、ノズル部分を非常に小さく出来、操作性に優れています。
右図は雰囲気圧力が変わると切断断面がどのように変化するのかについて示す画像です。切断材料は20mmtのアルミニウム、電極ワイヤにもアルミニウムを用いています。アーク電圧は32V,42V,52Vの3種類の電圧を用いて比較しています。切断電流は電流メータで平均値を読み取り約1000Aですが、本切断法では瞬間的には3000Aを越す大電流が間欠的に流れて、時間的な電流値の変動は非常に大きくなっています。電流値は切断板厚と切断速度により変化します。また、無負荷電圧にくらべて電流が流れているときの実際のアーク電圧は低くなっています。これらの切断実験を行っていた当時は、計測装置も貧弱で変化の早い現象の記録には、オシロスコープの画面を撮影していました。
電極ワイヤと切断材の間に流れるアークを高速ジェット水で底面側へ押し流していますから、切断溝幅は電極ワイヤ直径に両端でのアーク長さを足した値近傍のほぼ一定となります。切断部が切断材内部に入ると若干ジェット水の降下が低くなり、切断溝幅は少し広くなります。アークが滞留する底面では切断溝幅は広くなっています。水深が浅い場合にはアークは比較的長くなり得ますが、高圧ではアーク長を長く保つことが出来ないため、切断溝幅は狭くなります。
右図に雰囲気圧力と限界切断厚さとの関係を示します。2.4mmφ の軟鋼電極を用いてくさび形の試験片を、無負荷電圧45V、電極プラス、電極供給速度 10m/minの条件で切断して最大切断厚さを求めた結果です。横軸はデカルト座標系で示しており、溶極式ウォータジェット切断法では、アーク柱部が高速度のジェット水で直接冷却されて十分緊縮されているために、限界切断板厚への圧力の影響はほとんど認められません。切断電流は約1000Aですが、本切断法では瞬間的には3000Aを越す大電流が間欠的に流れること、電流値は切断板厚で変化すること、さらには、実際のアーク電圧も低下することから、正確な平均電流値と平均アーク電圧値とは厳密には測定できていません。上図の切断面で明らかなように、表面部での切断溝幅も圧力にはほとんど影響されませんが、低面部の切断溝幅には圧力の影響が顕著に現れます。低面部ではジェット水の効果も低下するために、アークが停留し溝幅は末広がり状になりやすい傾向を持ちます。水深が深くなり雰囲気圧力が増加すると。低面部での溝幅の広がりは小さくなります。右図は、上図を対数座標系で示したもので、切断板厚の最も厚い結果を基準にして、各条件での限界切断板厚の割合で示しています。機械的切断では、切断速度が10倍になると切断板厚は1/10になりますが、陽極式ウォータジェット切断法では、切断速度が早くなるほど切断効率が増加しています。
下表に溶接状態を高速度撮影した例を示しています。電極ワイヤは全てが溶融するわけではなく、一定程度のワイヤは見溶融の状態で底面を突き抜けています。限界切断条件ではほぼ全てのワイヤが溶融する状況になりますが、その場合にも若干の未溶融ワイヤが残ります。完全に電極ワイヤが溶融する条件では、底面まで溶け残ったワイヤが到達に切れ残しが生じる確率が高くなります。厚い板を低い速度で切断する場合には、比較的多量の未溶融ワイヤが発生します。薄い板を高速度で切断する場合、未溶融ワイヤが相対的に少なくなるため結果的に切断効率が高く記録されています。また、実際に流れている電流値を精確に測定すると、この関係は異なるものと考えています。
アルミの切断、後方と側面から高速度撮影、クリックして再生 | |||||
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(1) 25mmt 低電圧 | (2) 35mmt 低電圧 | (3) 35mmt 高電圧 | (4) 35mmt 低電圧 | (5) 35mmt 高電圧 | (6) パイプ 切断 |
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