7.労働安全・感電・腐食

・水中作業の安全・感電・腐食は、少しのミスが致命的な事故につながってしまいます。
水中では陸上とは異なる認識が必要です。労働安全・衛生管理に関係した事柄を紹介をします。

1.はじめに

 安心・安全に関しては、普段はあまり気にすることはありません。通常は、事故や不幸が起きて初めて気になる事柄です。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震とその後の津波が引き起こした大事故により、安心・安全に関する考え方が大きく変化したように感じています。海洋構造物関係では百年に一度起こる海象(大波・暴風雨など)に耐えられるよう、そのときの波高・周期・風速などを想定し、それに安全係数をかけて設計し、仕上がった設計施工手順が経済的に見合うものであれば建造が始まります。設計・施工に従事する技術者と事業者(経営層)とでは、物事の捉え方が異なりますから、同じ言葉を使っていても頭の中では双方の思い描いていることがまったく違っていることも希ではありません。
 2005年度から、経済産業省の産学連携製造中核人材育成事業「OKINAWA型・実践的高度溶接技術者の育成事業」に参画するという得がたい経験をしました。50歳半ばで退職後の人生を考えるべき時期に、「将来を背負うべき溶接技術者に溶接全般について教育をするための教材を開発する」という仕事に携わることができました。年齢を考えると、離島を隅々まで旅行できたことも含めて人生後半期の人生設計を考え直す機会という観点からも、非常に幸運な出来事でした。プロジェクトでは、溶接プロセス全般と労働安全・衛生管理について取り扱いましたので、労働安全・衛生に関して勉強し直す良い機会でした。
 時代の流れと共に、個別プロセス技術・手法の開発から自動化・知能化へと仕事の中心課題がシフトし、画像処理・知識認識処理とそれに必要な良質の画像を取得するための技術開発が、その当時の仕事内容でした。技能や暗黙知をどのように機械に取り組むのかについて考えていた時期でしたから、現場の技能者や高専の学生さんたちと身近に接して仕事ができたことは非常に有意義でした。
 水中で溶接や切断を実施する際には、人身事故に最も注意しなければなりません。作業現場における安全衛生の重要性は誰しもが認識していますが、水中で大電力を利用する溶接・切断作業では、特に慎重な安全衛生対策が必要になります。電気アークや各種の作業ガスを利用する水中切断作業には、災害や障害が発生する多くの要因が潜んでいます。特に海水中では、いったん発生すると直ちに致命的な災害・障害に至ることが少なくありません。水中溶接・切断作業が完全に自動化されている場合には人身事故の危険はありません。しかし、経済性と技術の成熟度の観点からは、作業現場に人間が関与しなければならないケースが多くを占めます。つまり、常に何らかの故障や事故が致命的な人身事故につながる危険性を含んでいます。陸上においても溶接・切断作業は危険で過酷な仕事です。この章では、労働安全・感電・腐食について、紹介をします。言葉の指し示す範囲や内容がちぐはぐのように感じられることと思いますが、内容は密接に関連しています。
 右図はハインリッヒの法則としてよく知られている労働災害の因果関係を表現した図です。私自身数限りないヒヤリ・ハットをしつづけてきました。大きな身体事故に繋がらなかったのはまったくの幸運としか言えません。地域の極小研究機関の宿命で、高圧チャンバの利用や水中作業などの危険な環境を含めた溶接実験をたった一人で行うのが通常でした。実験装置自体も、所内にあるありあわせの機器類を自分自身で回路設計して組立ていました。危険性は十分認識していたつもりだったので、実験装置はフェールセーフに作っていはいました。自分のしたいことをしていたので、事故につながることがあると好きなことができなくなるという危機感があり、安全には相当気を使って仕事をしていました。しかし、今振り返ってみると、若気の至りでかなり無鉄砲だったなとは感じています。以上の経験を踏まえて、私なりの視点で、労働安全・感電・腐食について取りまとめてみました。

次ページ 2016.03.17作成 2017.04.24改定

全体目次
安全感電・目次
安全規則
 怪我をしない、装置を壊さない、などは仕事をする上での重要事項です。しかし、研究を実施して欲しいデータを得るためには、ぎりぎりの条件での実験が必要になることが多々あります。
 新手法開発や装置改良の研究を実施するうえでは、うまくいかない条件とうまくいく条件とを比較し、何故うまくいき、うまくいかない場合には何故うまくいかないのかを、きちんと理解しておく必要があります。うまくいかない場合の現象をきちんと観察することにより、問題解決の手がかりがつかめることを多く経験してきました。
 ある意味、古きよき時代だったからこそ、自由に思い切った実験ができたように感じています。現在のように安全への意識が高まって、実験装置もブラックボックス化した状況では、何もできないと感じています。