3.6 溶接・切断作業の基本的な安全対策
アーク溶接や切断作業が引き金になって発生する災害の発生事例を前節に示しました。労働安全衛生法などの諸法規を遵守し、作業現場に即した作業マニュアルの整備と安全教育の徹底により、多くの事故は未然に防止できます。たとえば感電防止には過去の災害事例から少なくとも次の対策が必要です。
(1)分電盤には必ず漏電遮断装置を設置する。(安衛則第333条)
(2)狭あい場所(船舶2重底、タンク内部など導電体に囲まれた場所や高所(2m以上)で交流アーク溶接作業を行う場合に、自働電撃防止装置を使用(安衛則第332条)
(3)溶接用皮製保護手袋(JIS T 8113)など安全保護具を着用
(4)作業用感電防止マニュアルを作成し、安全教育を徹底
施設、設備の安全確保
(1)作業場内の配線等
作業場内の配線及び移動電線で絶縁被覆が劣化しているものについては適切なものに取り替え、部分的に損傷しているものは電気絶縁用ビニル粘着テープ等で確実にテーピングする等、必要な措置を講じる。
(2)アーク溶接機
溶接機の出力側電圧端子、溶接棒ホルダー等について、絶縁被覆が不十分である場合は、絶縁覆いをする等必要な措置を講じる。また、使用する自動電撃防止装置については使用前の点検により作動状況を確認する。
(3)移動式又は可搬式の電動機器
電気ドリル、電気グラインダー等の電動機器については、二重絶縁構造のものを使用し、接地線を取り付ける。当該機器の端子と配線との接続部分の劣化等により、漏電による感電のおそれがある場合には確実に補修する。また、湿潤な場所その他導電性の高い場所で使用する場合は感電防止用漏電遮断装置を接続する等、必要な措置を講じる。
作業の適正化等
作業グループごとに作業の指揮者を配置し、その者に作業を直接指揮させるとともに、適切な絶縁用保護具等の使用、充電電路の絶縁用防具の装着を確認させる等の作業管理が必要です。また、停電時の保守点検作業においては、停電の状態及びしゃ断した電源の開閉器の状態につて安全であることを確認した後に作業開始させます。また、停電に用いた開閉器には作業中は施錠するとともに通電禁止の表示をする等、必要な措置を講じなければなりません。その他、必要に応じて、安全委員会等において感電災害の防止について協議し、取組を推進します。労働災害が発生する直接原因から間接原因に至る因果関係は、(1)個人の能力、素質の欠陥、及び環境により不安全な状態と不安全な行動が生じ、(2)事故はこの結果として発生し、(3)そのうちの一部は災害にまで発展します。多くの事故は、大部分が不完全状態のうえに、不安全行動が重なり合って発生し、どちらか一方の原因だけではまれにしか発生しません。このため、労働災害を防止するためには、(1)不安全状態の安全化と(2)不安全行動の防止に対する対策が重要です。
(1)不安全状態の安全化
作業者の僅かな不安全行動が直接事故や労働災害に結びつかないようなフールプルーフやフェールセーフ化などいわゆる「本質安全化」が、労働災害を防止する為の基本姿勢です。安全軽視や未知による不安全行動を別にすれば、好んで不安全行動をしようとする者はいないはずです。しかし、現実には、つまずいたり、階段で滑ったり、といった経験が誰にでもあるように、錯覚、間違い、失念等々による不安全行動は避けられません。墜落や感電等の重大事故につながるものを、作業者の注意力だけに頼っていたとすれば、いつかは取り返しのつかない結果を招きます。転ばぬ先に杖!です。
(2)不安全行動の防止
不安全行動の防止には徹底した教育訓練に加え、人間の行動特性を踏まえた上での人間工学、行動動科学等を加味した事故防止対策が、また個人の能力、素質を考慮した適性配置が、それぞれ必要です。不安全行動防止の主流となる教育訓練で、第一に注意すべきことは、「知らない、教えていない。」ことを先ず無くすることです。「これぐらい知っているだろう、とか知っていて当然だ。」といったことが、事故を起こした後で確認してみると、意外にも「実は知らなかった」場合が多いという事実を見つめなければなりません。教える方のレベルで、教える内容を決めた為に失敗することが多いことも意識しなければなりません。第二は、教育した後を見る、所謂フォローアップが巧く行わうことが、実施した教育を効果あるものにするために必要です。頭で理解したことが必ずしも行動になって現れるとはかぎらず、むしろ教育したことの、「ごく一部しか行動に現れない」のが普通です。言い放し・教え放しは、教育しないのと同様で、決められた正しい正しい作業を根気よく指導し習慣化させることが肝要です。
次ページ 2016.04.02作成 2017.04.28改定