7.労働安全・感電・腐食

・水中作業の安全・感電・腐食は、陸上とは異なる認識が必要なので、労働安全・衛生管理に関係した事柄を紹介をします。

3.7 感電への知覚

前ページ

感電の恐ろしさ
 感電による被害の程度は、電圧の大きさ、通電経路と流れた電流の大きさ及び通電した時間に大きく影響されます。また、個人差とその時の服装などによっても差が大きくなります。人間を形容する言葉には、みずみずしい、干からびた、油がのりきっているあるいは脂ぎったなど、電気の通りやすさ(あるいは通りにくさ=抵抗)に関係する言葉が多く用いられています。テレビ番組などで心電図のモニタ映像を見る機会が非常に増えました。蘇生術としてAEDや心臓マッサージのほかに電気的なショックを与えること、あるいは防犯グッヅのスタンガンなどから、人体活動に電気信号が大きな働きをしているということは理解しやすいと思います。このごろ一般的になっている体脂肪を測定する機械は、人体の電気の通りやすさを目安にして測定しています。また、銀行のATMなどタッチパネルによる入力でも人間を抵抗として考えて、電気変化を利用しています。これらの機械では、人間が感知できず、且つ、安全が完全に保障された範囲の電流しか流れない構造になっています。
 人間の皮膚の抵抗の大まかな値は、乾燥時で約100kΩ(オーム)から1MΩ、湿潤時は約500から1kΩ、体の抵抗は約5kΩ弱です。体内で最も電気を通しやすいのは血液で、抵抗値は約100Ωです。電流は抵抗の小さいところにより多く流れる性質を持っており、血液が集まる心臓は電流が最も流れ易い部位です。感電によって心臓に障害が生じると、自然に回復することはほとんどなく、感電をしないように予防することが特に重要です。また肺も表面積が極めて大きく湿っているため、肺にも電流は流れやすくなります。組織の内部に電流が流れると、流れる電流の強弱により以下の症状が発生します。例えば、100Vに触れた時、皮膚が湿っていると人体に約20mAの電流が流れ、自力では離脱しにくくなります。この大半が心臓に集中すると致命的です。
 表1に、女性の人体を流れる電流の大きさとその反応との関係を示します。一般的に女性は男性より電気に関する感覚が鋭敏であり、男性が感じる電流値はこの表に示した値の1.5倍程度になると言われています。これらの数値に見られるように、感電事故においては直流より交流のほうが危険に見えます。交流の場合、危険な周波数域は40〜300Hzであり、その中でも一般に用いられている商用周波数(50〜60Hz)が最も危険とされています。周波数がさらに高くなると、人体内を流れる電流は逆に低くなり、商用の交流電流よりは安全になります。また、直流は交流より刺激が少なく、約5倍の電流が流れないと感知しないようです。

感電知覚の電流区分
 電流値により、人体の感じ方が違い、以下のように呼ばれています。
(1)感知電流
 人体に電流を流したとき、通電感を覚える(少しちくちくする)電流を感知電流といい、交流60Hzで女性の平均は0.7mA、直流では約3.5mAです。
(2)可随電流(離脱電流)と不随電流(膠着電流)
 感知電流を増して行くと筋肉のけいれんと神経の麻痺により運動の自由がきかなくなり、我慢はできるものの苦痛を感じてきます。さらに電流が増えると、意識がはっきりしていても、耐えがたい苦痛を感じ、自力で充電部から離脱出来なくなります。この状態では、筋肉が痙攣したり神経が麻痺します。この電流値を不随電流または膠着電流、あるいは運動の自由を失わない最大限度の電流を可随電流または離脱電流と言います。離脱電流の平均値は男子16mA、女子で10.5mAとなっていますが、個人差と汗がどの程度出ているのかなどその時々の体の状態による違いがあります。大部分の人が自力で離脱出来る電流値は、安全をみて、男子で9mA、女子で6mAとなっています。
(3)心室細動電流
 不随電流より一段大きい電流を流すと、心臓部に流れる電流が更に増え、心臓の機能が低下し呼吸が困難になり、たとえ電源から離れても数分以内で死亡する確率が高くなります。心臓が痙攣を起こし、心臓内部の心室が正常な拍動が打てなくなり細動を起こす現象を心室細動と言います。心室細動を起こすと、血液循環機能がそう失します。心室細動がいったん起こると、たとえ電源から離脱しても、自然には回復できないため、数分以内に死に至ります。50-80mAが数秒あるいは100mAが1秒ほど、心臓を流れると心室細動を起こし致命的です。2Aが瞬間的にでも流れると 心停止します。感電死の大部分は、感電発生時点における心臓停止の一種である、心室細動による即死とされています。ただし、ただちに電流が遮断されれば、拍動を再開することもまれにはあります。心臓が最も収縮したある期間、心電図でいえばP波のPeakより少し前の30msの期間に通電を受けると、わずかな電流でも心室細動が発生する危険性が高いとされています。心室細動にいたる電撃時間と電流との関係から、短時間であれば大電流にも耐えられ、通電時間が長くなると筋肉の痙攣による呼吸困難などが生じやすく、小電流で致命的となること、10mA以下であれば、致命的ではないとされています(*1)。しかし、この電流値は自力で脱出できる(離脱電流)ぎりぎりの値であり、通常腕の筋肉がしびれてしまい危険な状況に陥ることに変わりはありません。直流より50/60Hzの交流のほうが危険とされています。
*1) IEC479, Effects of current passing through the human body, IEC Technical Committee No.64, Pub.471-1(1984).

次ページ 2016.04.02作成 2016.07.24改定