7.労働安全・感電・腐食

・水中作業の安全・感電・腐食は、陸上とは異なる認識が必要なので、労働安全・衛生管理に関係した事柄を紹介をします。

3.13 感電事故防止(2)接地と感電

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接地に対する考え方
 危険性の軽重については、(1)通電電流の大きさと周波数、(2)通電時間、(3)通電経路(人体を通過した電流の経路)、(4)電源の種類(交流、直流の別)、(5)心臓脈動の位相の感電位置などが大きく影響し、体の表面のみを流れたときは軽い火傷で済むことがあります。しかし最悪の場合、例えば心臓に集中して流れると、心臓の筋肉が心室細動という振動を起こし、血流が不安定もしくは停止し死に至る危険があります。あるいは、電流が肺を流れると窒息を起こして呼吸停止し、生命を失う危険があります。また、感電のショックで高所から転落・狭隘な場所に体を挟まれ動けなくなるなどの二次災害により被害が大きくなります。回中溶接作業では、行動の制限要因が多いために二次災害の危険性が高く、また、海水という導電性の液体の中での作業であり、陸上とは異なった観点で電気を取り扱うことも重要です。
 陸上では、静電気対策が重要であり、浮遊電位による事故の危険性を防止することを含めてシステム接地が基本です。しかし、海中では静電気による感電事故の危険性はほとんどありません。また、周囲が導電性の海水で充満しているために、接地線だけで長い閉回路をつくり、思わぬ電流ループが生じる危険性も高くなります。この観点から、海中での接地に対して考察します。

閉回路がないと電流は流れない
 雀が電線に鈴なりにとまっている例を右に示します。電線には電圧がかかり、相互の電線間にも電圧がかかっています。電圧がかかっているところにとまっても、電流が流れる通路が無いために、雀の体内はほとんど同じ電圧となり体内に電流は流れません。ただし、空中から電線にとまるときには、雀の持っている電荷量と電線の電位(電荷)の違いで若干の電荷の移動があり、それなりに電流が流れます。この程度の電流値では感電までには至りません。しかし、人間の場合は、通常大地に足を踏みしめており、人体は大地と同じ電位になっています。また、靴や衣服をも含めて人体の抵抗は有限の値を持つので、電圧がかかっているところに触ると、人体に電流が流れます。図1に示すように、絶縁性の高い靴を履くか、あるいは手以外のところが空中浮遊していれば、電気に触っても感電はしません。雀の例と同じです。残念ながら空中浮遊は永久には続かないし、靴の絶縁性もそう高くはありません。
 このため、図2に示すように、漏電したところに触ると体内を電流が流れ感電します。ここで、電流が体内を流れるのはシステムが接地されており、漏電により人体を通過する電気回路が発生しているからです。図3に示すように、システムそのものが接地されてなく、電気機器が大地に対して浮いていれば、漏電した部位に接触しても、人体に定常的な電流は流れません。一見安全なようですが、静電気に対しては非常に不安定で危険な状態です。電気機器のシステムの静電容量は無視できず、大地に対してある程度の電荷が蓄積される危険性は高いのです。大地と電気機器とでコンデンサーとして機能し、人体が接触した瞬間に電荷が大量に移動して、静電気感電を起こす可能性があります。空気が乾燥した冬場に、ドアノブに触れる瞬間に、指先に感じる静電気放電による不快感を経験したことがあると思います。システムが接地されていないと静電気による事故が無視できなくなります。

アース(接地)
 システム接地された電気系統に接続した機器に漏電が生じた場合、図4に示すように機器が確実に接地されていれば、漏電した電流は大地に流れ、漏電した機器に電圧はかかっていません。このため、人体が漏電機器に触れても、人体に電流は流れないので感電はしません。一方、図5に示すように、接地接続部に塗料や錆があり接続が十分でない場合や、接地線の太さが不十分な場合には、漏電したときに大地と漏電機器との間に電圧が生じ、感電します。地面が濡れている場合のように人体の抵抗が小さいときには、この状態でも危険です。
 一方、離れた2点間でアースに接続すると、アース線を介して、ひとつの閉じた電気回路ができます。この閉回路を電磁誘導などで電流が流れることがあります。特に海水中のように導電性の高い海水に構造物が完全に浸かっている場合には、この危険性は非常に高いのです。このため、海中に電気を送る電源は完全に絶縁されるべきですし、作業地点のすぐ近くのみで接地しなければなりません。
 電柱鳥類学(三上修:岩波科学ライブラリー)は一読の価値ありです。

次ページ 2016.4.2作成 2022.2.27改定

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漏洩電流と腐食
 腐食には、水溶液腐食(腐食)と気体腐食(酸化)の2種類があります。気体中での腐食は、金属表面が酸素により酸化されます。このため、ほとんどの金属は酸化物の形で存在しています。これが太古の時代(=地表に岩石が十分堆積するまで)に大気に酸素が少なかった理由の一つになっています。
 苦労して作成した金属製品を長く有効に使用することは重要なことであり、腐食しにくい金属は貴重であることから、ギリシャの神々や王の名前がついています。
"錆と人間/ビール缶から戦艦まで", ジョナサン ・ウォルドマン, 三木直子/訳,築地書館(2016) ISBN 978-4-8067-1521-4
 乾いた環境では電圧が掛かっていても、その表面に存在する電荷が大気中に漏洩することはほとんどありません。また、水中においてもその水に不純物がほとんど存在しない場合には、水中にイオン化された物質がほとんど存在しないために、電位差のある2物体間で漏洩電流が流れることはほとんどありません。
 しかし、水は非常に融和性の高い液体であり、内部に様々な電解質を溶存しています。このため、水中の2物体間に電位差が生じると、漏洩電流が発生します。見かけ上電源に接続されていなくても、異なる性状の金属が存在すると、2種の金属の特徴の違いから異なる金属間で局所電池が形成され、漏洩電流が流れてしまいます。
 1824年デイビーは鉄や亜鉛を用いて海水中での銅の腐食を抑えられることを明示し、駆逐艦コメットで実証実験をし、腐食を抑えました。現在では海中の様々な鋼構造物に対して犠牲陰極として亜鉛電極が付加されています。
 船舶底面部の腐食とともに対応が必要なのは生物付着です。生物が付着すると、抵抗が増加します。付着生物により鋼材が消耗することもあります。