アーク放電による電極状態の変化について

電極状態の変化 目次

 水中溶接・切断技術を開発する過程で、アーク放電とその重要な因子である電極の振る舞いについて理解する必要に迫られていました。
 物理の書籍を色々調べては見ましたが、ほとんどは真空状態での低電流密度にのみ当てはまる理論に関するものでした。まじめに考えれば考えるほど分からないことが増え、正直お手上げ状態です。それでも、結果的に多くの幸運に恵まれて、それなりに多くのデータを蓄積してきました。
 20世紀の後半から、高速度ビデオや商用周波数のビデオ撮影を用いてアーク現象の観察を行い、終了後に電極をSEM及びEDX観察して実際に生じている過程を考える作業を行ってきました。個々の実験はそれなりに必要性に迫られて実施したものが多く、ある意味遊び心優先で実施した実験も多くあります。個別プロジェクトの報告書は作成していますが、全体的なデータ整理自体はまだほとんど手付かずの状態です。おいおいきちんと整理して公開する予定で予備的にSEM写真集を公開します。
 番外編でユニークなSEM映像を一覧表示しています。

西安交通大学の楊教授の撮影したSEM映像をまとめた一覧です。
1.EDX写真の一覧  電極表面や内部に存在するタングステンやトリウムの分布を測定し、温度領域の違いによりそのような反応が生じているのかを考察するための映像です。左がタングステン、右がトリウムです。 x1000, point01.gif
2.結晶Ar200A15min  200Aのアークを15分間流した後に電極がどのようになっているのかを観察した結果です。
3.2%ThW(Nano-1B)Ar  結晶構造を稠密化したトリア入り電極の消耗特性を調べた結果です。
4.2%ThW(Normal)Ar  普通の2%トリア入りタングステン電極のアルゴンシールドでの消耗状況です。
5.2%ThW(Normal)He  普通の2%トリア入りタングステン電極のヘリウムシールドでの消耗状況です。
6.pureW_Ar  純タングステン電極ではアークに必要な密度の電子を放出できる温度は溶融温度以上なので、陰極領域は溶融しています。
7.2%CeW_Ar  セリア入り電極の電子放出領域は独特の形状を示します。
8.2%ThW(Normal)He  ヘリウムシールドでは、電極温度が広い範囲で上昇し、トリアが独特の形状で析出します。
9.2%ThW(Nrml2)He  ヘリウムシールドでは広い範囲で独特な形状のリムが生成されます。
10.2%CeW_He  シールド条件が適切で無いと、電極は極端に腐食し、密集したリムが生成されることもあります。
11.2%ThW(Nrml)Ar+He  電極先端を研磨せずに何度も繰り返して使用すると、リムが溶融する場合があります。アークを
12.2%ThW(Normal)Ne  ネオンシールドはアルゴンとヘリウムの中間的な感じになります。

次ページ 2017.05.19作成 2017.05.21改訂

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A.SEM一覧
Prof.Zhimao Yang
電極表面等を電子顕微鏡観察する必要性は強く感じていました。しかし、日々の研究に追われ、なかなか手をつける余裕がありませんでした。
溶接学会の「溶接技術高度化」研究プロジェクトに参画した頃、文科省STAフェローとして西安交通大学のProf.Zhimao Yangが私の研究室で研究を開始し、優れた多くの映像を観察出来ました。彼の仕事に多大な感謝をささげます。
彼からSEMやEDXを教わり、必要に応じて多くの写真を撮影しました。それらの映像は今後順次公開する予定です。