GTA溶接後の電極状態

4.電極表面形状の比較(Normal)

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 右図は、初期のCCD素子を用いた高速度カメラ撮影を時刻暦画像として再構成し、アーク発生後に電極が徐々に加熱され、定常的な熱陰極として安定に動作するまでの大まかな挙動を示しています。全ての熱的現象は定常状態に達するまでに、素材特性と構造に応じた時定数を持っています。プラズマなどの電離再結合に関する時定数は非常に短いのですが、電子の放出機能は電子を放出する電極領域の温度に大きく依存し、その温度の上昇速度は電極構造と流す電流値に決定されます。電極先端領域を円錐状に尖らすことにより電極放出領域の温度をすばやく上昇させ、なおかつ長時間安定して電子放出を持続させることを可能としています。
 上図の場合にはプラズマが定常状態に近くなるまでに、約0.5秒経過しています。プラズマが定常状態に近くなるということは、電子放出領域の温度がほぼ定常状態の値に近づくことを意味します。電極については、この場合5秒程度を必要とします。電気を供給するコレット部から電極径のまま伸びている電極本体部分が定常状態になるのは15秒程度かかります。この映像は水冷銅板上のアークの場合で、SUS304などの鋼材にアークを発生させる場合には、溶融池が安定になるまでの時間が必要となります。但し、アークの状態に関してのみの時定数としては、1秒程度と考えています。
 下図は20秒間アークを発生させた電極表面の画像です。アークを発生させる前に十分研磨した電極表面に多くの放電痕が生じていることが分かります。

2%ThW(Normal) after 80A, Ar20 arcing for 20sec.
x30, point06.gif x100, point06.gif x800, point05.gif x1000, point04.gif x100, point06.gif
2%ThW(Normal) after 80A, Ar20 arcing for 20sec.x10times
x100, point06.gif x1000, point05.gif x500, point01.gif x1000, point01.gif x2000, point01.gif
2%ThW(Normal) after 200A, Ar20 arcing for 20sec.
x50, point06.gif x100, point06.gif x100, point06.gif x100, point06.gif x35, point06.gif
x2000, point05.gif x1500, point04.gif x2000, point04.gif x2000, point02.gif x1000, point01.gif

 下図は30分間連続して200Aのアークを持続させた電極表面です。電極内部の温度分布と外部プラズマ(高温ガス)領域の温度分布及び酸素などの不純物分圧構造により、電極表面では様々な物理・化学的反応が生じていることが分かります。通常のトリア入りタングステン電極では、微細なトリア粉末をタングステン粉末に練りこんで焼結させているという製造上の問題で、タングステン内部でのトリア分布はある意味離散的になっています。高温の熱が作用しない場合には何も問題はありませんが、一旦アークを発生させると、電極は先端からの距離に応じてかなり高温度に熱せられます。また、高温度のプラズマガス分子の電極側面への衝突によっても加熱されます。本来のトリア粉末領域ではこの加熱により下のSEM写真に見られるように外部へと析出してきています。
2%ThW(normal) after 200A, Ar10 arcing for 30min.
x80, point06.gif x100, point06.gif x35, point06.gif x500, point05.gif x150, point04.gif
x500, point04.gif x2000, point04.gif x2000, point04.gif x2000, point04.gif
x2000, point03.gif x4000, point01.gif x1000, point01.gif x1000, point01.gif
2%ThW(normal) 30°3.2mm grinded Ar20 arcing many times
x30, point06.gif x50, point06.gif x50, point06.gif x100, point06.gif x50, point03.gif
x150, point03.gif x500, point03.gif x500, point03.gif x500, point05.gif
x200, point02.gif x2000, point02.gif x4000, point02.gif
2%ThW(normal) 30°2.4mm grinded 200A, Ar10 arcing 30min
x50, point06.gif x50, point06.gif x60, point06.gif x500, point05.gif
2%ThW(normal) 30°3.2mm grinded1500# 200A, Ar10 arcing 5min
x50, point06.gif x1000, point01.gif x3000, point01.gif
2%ThW(normal) 30°3.2mm grinded 200A, Ar10 arcing 5min
x1000, point01.gif x3000, point01.gif x3000, point01.gif x3000, point01.gif
2%ThW(normal) 30°2.4mm grinded 200A, Ar10 arcing 30min
x25, point06.gif x25, point06.gif x500, point04.gif
2%ThW(normal) 30°2.4mm grinded 200A, Ar20 arcing 1min on SUS304
x30, point06.gif x60, point06.gif x100, point06.gif x1000, point03.gif
2%ThW(normal) 30°2.4mm polished 80A, Ar20 arcing 20sec.x10times
x100, point06.gif x2500, point05.gif x3000, point04.gif x3000, point04.gif x1000, point03.gif
2%ThW2.4mm after 200A, Ar10 arcing for 60min.
x800, point05.gif

 トリアから酸素を取り込んで酸化した電極表面に存在するタングステンは、高温により昇華・蒸発し外部のプラズマ空間へと飛び去って行きます。プラズマ空間領域の温度は電極表面よりかなり高く、このプラズマ空間で蒸発した酸化タングステンの一部はより高温のプラズマ領域内へと飛行し、解離します。解離したタングステン電子の一部はプラズマ空間より温度の低い電極表面へ衝突します。弾性衝突で反射して再度プラズマ空間内へ反跳する原子もありますが、多くのタングステン原子は電極表面へ付着する非弾性衝突となり、結晶化します。最初は上図に示すような微細な種結晶です。時間の経過と共に結晶は成長し樹枝状の綺麗なデンドライト構造になります。下図にアークが出ている最中にデンドライト結晶が成長する様子を示します。プラズマの状態は割りに早い時期に定常状態になり、それより少し時間的に遅れて陰極領域の状態が定常的になります。円錐状に検索した電極先端領域が定常的になった時点から特定の領域で酸化タングステンの蒸発が始まり、陰極領域より少し上の領域でプラズマ中のタングステン蒸気分圧が飽和するプラズマ温度帯でタングステンのデンドライト結晶が成長します。
 右図にアルゴンに空気成分を若干混入するとアーク形状と電極表面状況がどのように影響を受けるのかを調べた例を示します。陰極領域とアークが発生する状況にはあまり大きな影響は見当たりません。デンドライト結晶が成長する領域は、空気混入率が増加すると電極先端に近づくと共に領域の幅が広がる傾向を示しています。電極上方のトリアが析出し、酸化タングステンが蒸発する領域にも空気混入率が影響しているようで、表面に生成する物質の分布が異なる傾向を示します。

次ページ 2017.05.19作成 2017.05.23改訂