7.労働安全・感電・腐食

・水中作業の安全・感電・腐食は、陸上とは異なる認識が必要なので、労働安全・衛生管理に関係した事柄を紹介をします。

3.8 人体の電気抵抗

前ページ

人体の電気抵抗
 電撃を受けた場合の危険度は、人体を流れる電流の大きさによります。人体を流れる電流の大きさは、人体の電気抵抗によって決まります。人体の抵抗の測定値は、電源の種類、電圧の大きさ、 接触部位、接触圧力、接触面の湿度、皮膚の温度や汚れ具合、湿度などによって変化し、また個人差もあります。人体の抵抗は人体内部組織の抵抗と皮膚の抵抗とで決まります。皮膚の抵抗は、半絶縁性の層と小さな導電性組織(気孔)とでできています。人体抵抗は乾燥している時は数千〜数万Ωと大きく、この大部分が皮膚の抵抗です。内部組織の抵抗は500〜1,000Ωでほとんど一定です。皮膚が濡れている場合は、乾いている場合の1/10〜1/25にも抵抗が低下して電気が流れやすくなります。電流は抵抗の小さい部位を選択的に流れますから、条件が悪ければ35V程度でも死亡します。心臓を集中して電流が流れることが致命的なため、うっかり電気に触れても電流が心臓を流れにくい状況を保持することが大切です。つまり、作業服、安全靴、手袋、ヘルメットなど絶縁性が高い装備をきちんと着用し、心臓に近いほうの左手からそのほかの手足に電気が流れる状況にならないよう意識して作業することが大切です。

電圧の影響
 電圧が人体に及ぼす影響の度合いは右の表の通りです。これは大まかな目安で、実際に人体を流れる電流の大きさは、接地の状態や、電気に触れる部分の状態、あるいは電気が実際に流れる通路(電気回路)がどのようになっているのかに、大きく影響されます。両手または手足の間の通電では、全電流の約2〜10%が心臓に流れ、両足通電でも0.4%が心臓へ流れるとされています。
 感電による人体への影響としては、火傷が良く知られています。この場合は、特に人体の深部がおかされることが多いので注意が必要です。接触部面積が狭く皮膚の抵抗が大きいに場合は、人体を流れる電流による発熱で、接触部に電流痕・電流斑が残ります。この電流痕・電流斑の形状は、電極(接触物)の形状を反映しています。特に高電圧に接触した場合に顕著です。しかし、逆の場合、たとえば風呂の中で感電した時には接触面積が広く、電流痕・電流斑は生じにくくなります。女性の感電死は、自殺、事故、他殺の順と言われています。
 落雷落雷(Lightning)による感電は、極めて短時間(0.1mse以下)に、数千万Vの高電圧がかかり、数十万Aもの電流が流れることがあり、即死です。木のそばなどに立っていた場合、木に落雷した電気は木より抵抗の低い人体を流れやすくなる。避雷針のある構造物に退避している場合にも、金属などに触っていると、危険な場合があります。落雷の経路は不規則で、人体の場合には、頭から足に抜ける場合が多く、脳の損傷の危険性も高くなります。また、高電圧による電撃傷の場合などは、日をおいて生体組織が壊死する局所損傷が起こりやすいことにも注意が必要です。

電源特性の影響
 電源の性質(特徴)も人体の安全性に大きく関係します。通常の電源は内部抵抗を持ち、電流が流れると端子にかかる電圧が下がります。感電した場合に人体を流れる電流は、人体の抵抗と電源の内部抵抗により決まります。雷は本来電気を通しにくい大気の層を突き抜けて落ちてきます。雷を流す通路全体の抵抗に対して人体の抵抗は小さく、流れる電流値が一定の定電流特性をもつ電源とみなせます。このために、人体には非常に大きな電流が流れ、誘起される電圧も高くなります。海洋作業に使用する電源で定電流特性のものはほとんど用いられません。電流が流れたときに大きく電圧を下げて、回路に一定の電流が流れるような特性を垂下特性と言い、湿式水中溶接やアーク切断ではこの垂下特性の電源を用いています。電流容量は大きく作業時には100A以上の電流が流れますが、アーク電流が流れているときの電圧は10-30V程度とあまり高くはありません。しかし、アークが流れていない無負荷状態での電圧が高く、この無負荷電圧には注意が必要です。

次ページ 2016.04.02作成 2017.12.01改定

全体目次
安全感電・目次
AED
AED(Automated External Defibrillator 自動体外式除細動器)は、心停止状態の心臓に対して、電気ショックを与え、心臓を正常なリズムに戻すための医療機器
・突然心停止の一般的原因である心室細動や心室頻拍に使用される
・心筋の不規則な震えである心室細動・心室頻拍がおこると心臓から全身に血液を送ることができなくなり、回復しなければ死に至る。脳や臓器に血液が届かなくなる時間が長いほど、死亡と後遺症のリスクが高くなる
・突然心停止発症後、直ちに心肺蘇生と除細動電気ショックを実施することが非常に重要