7.労働安全・感電・腐食

・水中作業の安全・感電・腐食は、陸上とは異なる認識が必要なので、労働安全・衛生管理に関係した事柄を紹介をします。

3.10 海中での安全方策

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海中での安全方策
海中での電気作業を安全に行うために、以下の確認が要求されています。
−誤動作で電源をオンにしないよう、オフ時にはスィッチをロックすること。
−ケーブルの断面積は十分な大きさとし、電圧降下量を基準値以下に抑えること。
−ケーブル長さは可能な限り短くし、静電容量が大きくならないよう注意すること。
−プラスとマイナスのケーブルを可能な限り近づけ、誘電効果を可能な限り低く抑えること。
−接続端子付近ではケーブルにスリーブをつけて疲労や過負荷による断線がおきにくい構造とすること。
−すべてのケーブル接続部は完全に絶縁すること。
−酸素アーク切断のように、アークとガスを併用する方法では、ガスのバルブは完全に電気的な絶縁が保たれること。
−海水中に電極が長時間暴露した場合あるいは構造物と衝突した場合などにも、絶縁被覆が損傷しない構造であること。

海中作業工程の安全方策
 潜水士の安全は電撃防止のみで保証されるわけではなく、作業工程を安全に作成することも重要です。溶接棒や切断棒の先端は絶縁できないので、その先端部が潜水士の体から十分離すことが必要です。具体的には、長さが100mm程度になったら、使用を中止します。作業安全を確実なものとするために、以下の作業動作確認基準が作られています。
−すべての機器やケーブルは使用前に、資格をもった検査者に点検させなければならない。
−電源の開閉は、命令系統をはっきりとさせて、常に複数の人間で復唱確認して実行すること。
−クランプや溶接ノズルを作業現場に持ち込んだり引き上げるときには、電源を切り電極が取り外されていることを確認して行うこと。
−きちんと防水が確認された電極のみを使用し、長期間海水中に暴露され防水性が危ぶまれるものは使用しないこと。
−溶接・切断作業を開始する前に、溶接・切断実行部付近に可燃性の物質や液体あるいはガスが存在しないことを確認すること。
−作業前に、近辺にガスが溜まる空間が無いことを確認すること。
−溶接・切断作業はSSC(ダイビングベル)の近傍では実施しないこと。
−溶接・切断電源を入れるのは、潜水士が実施場所に安定かつ安全な姿勢でスタンバイし、母材が確実にセットされ、溶接・切断棒が確実にセットされており、電極先端が母材近傍を狙っており、溶接担当者及び僚友及び関連機器が溶接トーチと母材との間に無いことをすべて確認し、潜水士が実行可能とを連絡してきてから、合図をして電源を投入すること。
−潜水士が大きな金属製品を保持しているときには、充電部分に金属製品が触れないよう注意すること。
−電源が入っているときには、電極の交換をしないこと。
−電源が入っているときには、溶接トーチを下に置いたり持ち運びしたりしないこと。
−SSC(ダイビングベル)やlockout submersibleには溶接・切断工具を持ち込まないこと。もし、溶接・切断工具に何らかの異変が認められたら、溶接・切断工具を海上に引き上げ、動作確認をすること。
−実際の作業工程では、溶接士以外の監督者による肉眼若しくは遠隔からのTVモニタリングによる監視の下で、溶接・切断作業を実施すること。
−電極は確実にトーチに差し込み、絶縁が確実になされた状態で実施すること。
−乾式溶接の場合には、有害若しくは可燃性のガスが発生する危険があるため、ワックスやテープを塗布した電極は使用しないこと。

海底設置機器の安全方策
 海底設置電気機器は、変圧器の絶縁と漏電防止装置を完備させて使用するため、使用電圧に制限はありません。電池は安全と思われがちですが、電池に寿命があることや消耗したあとの腐食と短絡事故など、水中使用ではその危険性をきちんと認識しなければなりません。充電式電池の場合には、それに加えて充放電時、特に過充電したときに水素が発生する危険性があり、爆発に対する防護が必要です。また、電池内に海水が浸入すると、爆発あるいは有害ガスの漏洩の危険性があり、水密構造が必要です。また、電池には常に電位差が生じていますから、非常時に強制的に短絡する構造が要求されます。

海中での受動的感電防止策
 海水が導電性を持つため、海中では陸上より絶縁は難しくなります。導電性スクリーン(防護柵)の両面を絶縁して充電部を覆い、スクリーンの電圧を日常的にチェックすれば、漏電対策の安全性は高まります。電源や変圧器を完全に絶縁して使用すれば、うっかり充電部に接触しても、電流経路が存在しないために人体を通電する危険性は非常に低くなります。充電部の構造により静電気ショックを受けることもあります。このため、電気機器の静電気容量は可能な限り小さくしておきます。防護柵の導電性は可能な限り高くし、接続部での電圧降下も可能な限り小さくして、防護柵にかかる電圧を安全な低い電圧に保つことができます。人体に安全なケーブルの長さは、流す電流I(mA)、周波数f(Hz)、電圧V(V)と単位長さあたりのケーブルの静電容量C(nF/m)を用いて、次式で規定されます。
ケーブル長さ(m) = I×106/2πfVC

海中での能動的感電防止策
 漏電遮断器を用いることが、感電に対する積極的な防止策です。感知電流30ミリアンペア、作動時間20ミリ秒が推奨されています。犠牲電極など電圧がかかっている部材周辺には、非金属・非導電性の物質で防護壁を作る必要があります。電源ケーブルやモーターの故障による漏電では、大電流が漏洩する危険性があります。このような場合に人体が安全な距離は次式で与えられます(*4)。この関係式は、線電極から海水(淡水)中に電流が流れ込むとき、どこまで近づいたら人体内を危険な電流(Ib=10mA)流れるかを与えます。潜水士の体の抵抗と海水(0.25Ωm)及び淡水(100Ωm)の抵抗とから導出されています。アース側の位置は無限遠としてしています。実際にはアースが近くに存在する場合が多く、電場が作用する所、すなわち電極とアースとの間に入ればより危険な状況になり、逆に反対側では非常に安全になります。
  Lsafe(m) = sqrt(1+10-4Io/Ib) −1 (in sea water)
  Lsafe(m) = sqrt(1+Io/40Ib) −1 (in fresh water)
   Io:電源から供給される電流、Ib:人体に流れても安全な電流=10mA
 これらの関係式から求めた、電源から供給される電流と安全距離の関係を、図に示しています。人体内を電流が流れないように工夫することが大切で、電気作業では絶縁性のゴム手袋は必須で、袖口をつけることも有効です。

火災への注意
 不幸にして火災や過熱が生じたとき、有害なガスが発生しない材質を利用していることが重要です。有機絶縁材料は、素材により差はありますが、高温で分解し有害な成分を放出する危険性があります。このため、電気的絶縁材料の選定には特別の注意が必要です。ある程度過熱しても煙が出たり有害ガスを発生する危険性の少ないものを選定する必要があります。素材の選定に考慮すべき項目は、使用電流、最大電流及び時間、周辺温度と圧力、作業空間の容積とガス組成、可能性のある汚染、ケーブル長さ、製品サイズと終端処理方法、証明書添付の有無と要求される機械的強度などです。接続端末、回路基盤、ケーブル名票などは高温になる危険性があり、有害なガスを発生しない素材を用いる必要があります。温度上昇を低く抑えるために、熱容量が大きく、熱伝導の良い素材の選定が重要です。配線長さを短くし、絶縁材の厚みを極力薄くすれば、有害物資の発生量は減少できます。電気器具は、呼吸ガスに影響を及ぼさない部位に配置することが好ましく、有害ガスが発生しても呼吸気系にガスが噴出しない構造に設計することも好ましい。高湿度状態も有害物質が蒸気に付着する危険性が高いために好ましくない。
 作業領域は通常では爆発の恐れはないが、作業あるいは加圧により酸素分圧が異常に増加し、アークやスパークあるいは高温金属により爆発する危険性が出てくることもあります。溶接・切断作業の実行により、作業ガスの充満、作業ガスの解離、分解あるいは有機物がガス化して、局所的に爆発性雰囲気若しくは有害雰囲気が充満し、アークやスパークにより爆発事故を起こす可能性があります。これらのガスは局所排気して、作業空間を常に安全に保持しなければなりません。水の電気分解により発生する酸素と水素も爆発危険性があります。混合ガスの使用も問題を引き起こす可能性があります。水中の限られた容積の空間で、溶接・切断作業を行う場合には、可能性のある危険はすべて考慮して最悪の事態が発生しても、作業士の安全が確保できるよう念には念をいれて作業計画を立案しなければなりません。まず電気器具は実用上可能な限り作業空間の外に設置するのが安全です。作業空間内部に設置しなければならないときには、アークやスパークの影響を受けない構造にします。また、湿気による影響を受けにくい構造も必要です。

感電と雰囲気圧力
 電撃に対する雰囲気圧力の効果は確認されていません。50mまでは圧縮空気による潜水が用いられ、それ以上深いところではHe/O2による飽和潜水が採用されています。電撃に対して、He/O2の雰囲気は通常の大気とほとんど差が認められていません(*5)。ポリウレタンなどを用いた潜水服は、内部に多くの気泡が存在し、断熱と絶縁に役立ちます。しかし、水深が深くなると、気泡が圧縮されて服の厚みは薄くなり、断熱性と絶縁性(導電性)も水深が深い状態で使用すると浅水域より小さくなります。また、潜水服は裂けやすく、一旦裂け目ができると、この裂け目部で海水と体表面が直通し絶縁材としてはほとんど機能しなくなります。また、潜水服内部の温度変化を少なくする目的もあり、海水が潜水服と体表面の間に入る構造となっている服が多く、この点からも通常用いる潜水服には絶縁機能は無いとみなします。

水中での安全策
 水中での安全には3つの基本方策があります。まず、電撃に対しては離脱電流が目安となります。離脱電流以上の電流が流れると、水中での呼吸に問題が生じます。手が自由に動かせなくなるという物理的な問題と、心理的な要因とが、重なって危機的な状況に陥ります。このため、電気機器の電圧は24V以下にします。この電圧では、直接電源に触れても体内を流れる電流は離脱電流以下になり、感電しても致命的な事故は起き難くなります。24V以上の電圧で作動させなければならない機器がある場合には、20ms以内に作動する漏電遮断器を用いて、感電時間が20ms以内で終了するよう設定します。この場合には心室細動を起こす可能性がある電流500mA-ACまで許容できます。電圧としては250Vまでの電圧を利用する機器が使用可能です。ただし、漏電遮断器を利用する場合は、漏電していない時の誤動作による遮断のリスクと漏電しているにもかかわらず検知できずに遮断しない時のリスク及び急激な遮断でシステム全体が不安定になる可能性など、設計時に考慮しなければならない要素が多くあります。誤動作で遮断したときなどは、船上から迅速に復旧措置が取れる構造にしておかなければなりません。特に深い海底で作業しているときに、突然照明がすべて消失した場合、潜水士は真っ暗闇の中で停電の原因を究明し、どのような行動をするのが最善かと言う判断を即刻下さなければなりません。判断を間違えると危険な状態に陥ります。このような場合、直ちに船上から必要な情報と指示が潜水士に連絡できるシステムが必要です。3つ目はユニークな考え方で、海水中では海水のほうが人体より抵抗が少ないため、ある程度充電部分に近づいても電圧がかかっている部分に直接手を触れさえしなければ、人体は安全を保てることを利用します。金属の露出部分を無くして、充電部分近辺に絶縁物で防護壁を設けることにより潜水作業士の安全が確保できます。海中で危険な場所に近づかないようにするひとつの方策として、潜水士に呼吸ガスを供給するホースを短くして行動範囲を制限することがあります。
[*参考文献]
1) Code of practice for the safe use of electricity under water, association of offshore diving contrctors, london, 1985.
2) IEC479, Effects of current passing through the human body, IEC Technical Committee No.64, Pub.471-1,1984.
3) K.Schmidt, et.al., "Safety of wet welding with increased open circuit voltages up to 150V d.c.", GKSS91/E/30, 50p.,(1991).
4) G.Mole, "Shock risk to swimmers and divers from electric fields in the water", ERA report 0367-TC-65, Jan (1981).
5) C.W.Logan, "The safe use of Electricity under water", Trans.I.Mar.E., Vol.100, pp.75-86(1988).

次ページ 2016.4.2作成 2018.2.12改定

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安全感電・目次
水中非破壊検査
 パイプラインの検査機器は通常ピグと呼ばれています。頭文字をとったPIG(Pipeline Inspect- ion Gauge)と誤解されていますが、実際にはこのような電子機器が存在しなかった20世紀初頭からパイプライン内面の清掃に使用されていた装置をピグと呼んでいました。
"錆と人間/ビール缶から戦艦まで", ジョナサン ・ウォルドマン, 三木直子/訳,築地書館(2016) ISBN 978-4-8067-1521-4
によると、20世紀初頭にテキサス州でパイプライン清掃に針金とわらを束にして使用したところ、パイプの反対側でごわごわとした塊がどろどろの汚物に覆われて出てきてこの清掃道具の形状が豚を連想させたことから、この名ピグがついたとされています。
 私たちが通常眼にする油はガソリンなどのさらさらした液体です。油田から汲み上げられる油には様々な成分が混じっていて、パイプラインの内面に油脂がへばりつくことが多くあり、人間の動脈硬化と同様油がパイプラインをスムーズに流れることを阻害することがあります。
 更には、内面もしくは外面が腐食され、肉厚が薄くなりあるいは亀裂が発生し、事故を起こす危険性があります。この危険性を的確に察知しパイプラインを安全に保つために、現在では清掃や腐食検査などに様々な賢いピグが活躍しています。