9.GMA溶接現象の解析

9.5 アーク挙動(Underconstruction)

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 この節ではアーク挙動の解析について紹介します。人間は感覚的に全体を見て特性を認識することが出来ます。アーク現象の解析でも、まず全体像を理解して、次に個別の問題点の詳細を明らかにする手順で解析を進めることが好ましいと感じています。ここまでの説明でも、全体的な把握を容易にするために、ある時間での画像と平均値や最大値画像を提示してきました。時間的な変化挙動を理解するためには時間軸に沿った映像を用意する必要があります。まず、現在対象としているGMA現象映像は(320×520)画素のカラー画像が1089枚で構成されています。アークの全体的な時間挙動を把握するために、鉛直方向座標6点(y=70,220,370,400,430,460)について(x,t)[水平方向]×[時間]座標平面で表示します。全体を俯瞰するために縦横座標はについて4画素づつ加算してあわせて16個の画素の平均を表示し、水平方向と時間軸方向の2次元画像に変換しています。
 まず最初に液滴がワイヤ先端から離脱した瞬間の状態をした図に示しておきます。ワイヤ先端領域が溶融すると下方へ液滴がたまります。ワイヤの先端部の方が高温でありワイヤは先細りになり、ワイヤ先端の細いくびれ領域での表面張力が液滴の重量より強い場合には、液滴はワイヤ先端に保持され、重量が表面張力より大きくなるとワイヤから離脱します。詳細については次節で取り扱います。
 アーク領域の抽出に必要な情報として前節で示した累積度数分布の図を再掲します。液滴の抽出の場合には、赤と青が飽和しているため緑を使いました。アークの抽出には青色の輝度情報が使い勝手がよいだろうと考えます。累積度数上の方の変曲点から引いた赤色鎖線がアークと背景とを分ける輝度と考えています。
 右図に再掲した輝度のヒストグラムから、青と赤の液滴領域は飽和していることから輝度値255の度数が急造し、また背景である輝度2以下の度数も非常に多く存在しています。現在実施しているのはアーク現象の解析ですから、無意味データである輝度値2以下も計算からは除去しています。低い輝度値領域では度数が徐々に増加し、ある値で逆に減少する傾向を示しています。この変曲点付近の輝度領域がアーク領域に相当します。さらに輝度値が上昇すると低下傾向が止まり、平行あるいは増加傾向を示し、この領域で液滴の輝度が反映しています。
 右図に鉛直方向の位置と輝度の特徴量の関係を再掲します。右下図に再掲しているのは鉛直位置と閾値132で計数した領域の大きさの関係です。(B1−B4)の範囲が液滴がワイヤから離脱しているアーク領域です。(B5−B6)がワイヤ先端で液滴が成長し離脱を繰り返している領域です。各色の平均値と分散の算出には、計算には無意味な背景である輝度2未満を除外しています。赤色と緑色では平均値(色塗り□印)と中位値(メディアン:色塗り◇印)とはほぼ同じ数値となっており、分散値(色抜き□印)がかなり大きいことから、アーク領域と背景とを分離するのが難しいことが示唆されています。実際右の計数された液滴サイズでは面積の小さい誤差がかなり含まれています。以上の結果から、アーク特性の計算は大まかに上半分と下半分、微細には平均値の異なる領域も考慮し(B1−B5)の分類で考察を行います。
 数字のみ、あるいは局所的に切り出した映像のみで判断すると、考察が間違った方向に進みがちになります。常に複数の視野から抽出した複数の映像と特徴値のグラフとを対比させながら解析を行うことが好ましいと考えています。まず液滴がワイヤ先端から離脱する様子を下に示します。詳細は液滴離脱の章で考察しますので、ここではワイヤや液滴の明るさ分布の様子や液滴内部の明るさ分布と形状の変化に注目してください。
 液滴の落下飛行過程の解析では図中上側の赤色一点鎖線より下方領域を解析することになります。一方、液滴成長過程の解析では下側青色一点鎖線より上方領域を解析することになります。
 下の画像は鉛直方向の各位置における水平線上の輝度を縦軸に、横軸に時間(撮影純の各画像)を用いて高速度ビデオの連続映像を表示しなおしたものです。このように連続映像を時間軸で再構成すると、時間的な変動の様子、特に液滴の存在とアーク存在範囲の関係などが理解しやすくなります。
 この映像を見る限りではアークの広がりと液滴の存在にはかなり強い相関関係がありそうです。液滴が一定速度で飛行しているならば、時間軸波形上での液滴形状は、右が上、左が下に相当し、計測速度の観点からは実際の形状とほぼ同じ形状になるように測定することを推奨します。複数の鉛直位置の時間軸映像を並べて表示しているのは、アークの時間的変動の把握と同時に、液滴の成長離脱と落下速度に関する情報を直感的に把握するためです。成長は比較的ゆっくりとしており、離脱直後は表面張力の影響で液滴の変形がかなり激しく、落下速度は重力加速度の影響で加速されることなどが理解できます。
 以上のことから、アーク挙動の解析としては、まず各鉛直位置におけるアークの平均的な明るさと幅及び中心(重心)位置を求め、それが液滴の存在にどのように関係しているのかを調べることが良さそうです。
 アークの存在範囲は画像を見ると一目瞭然です。しかし、実際にデータとしていくらの値を用いるべきかとなると結構難しい問題です。ここでは、上に上げた各鉛直方向の位置の上下合わせて10画素分のデータを水平方向に走査し、中心画素の値と変化分の値(=各画素の周囲の値の最大値と最小値との差)との相関を調べて、各鉛直位置で閾値を決めることを検討しました。
 右図にその結果を示します。各鉛直位置において輝度と差分(対象画素とその周辺画素の輝度差の最大値)の分布を示しています。輝度は0から255まで、差分は0から15までを示しています。残念ながら今着目している青色は非常に目立ちにくい色なのでその分布の状況は赤と緑に打ち消されてほとんど確認できない状況です。そのため、右下に青色の輝度分布のみを白色で表示しています。
 ワイヤ先端領域(A1)では輝度そのものが低く差分もあまり大きくはありません。溶滴が成長する領域では差分の存在する領域はかなり高輝度領域に広がっています。この領域では青色の輝度分布はかなり高いために差分には、青色の分布はあまり確認できません。
 ワイヤ先端から離れて母材に近づくに伴い差分が出現する輝度範囲は低輝度側に遷移します。これは赤青緑各色の最高輝度が低くなっているために生じている現象です。また、輝度−差分分布が離散的に発現しているのは、デジタルデータ特有の離散化誤差に起因しています。
 右図においてA3からA9における輝度分布で分布が存在する領域の右端近くで際立って明るく表示されている領域が存在します。この領域付近で液滴の境界が存在することがその原因と考えています。
 実はアーク領域の境界を決める閾値をいくらにしようかと思いあぐね大量の計算をして作図しました。どう計算してもうまい値が見つからず、 業をにやしてチェック画像の断面を図示した所、右のような図が現れました。前ページでのピーク値も周辺で0になっていて、奇異には感じていました。輝度値0の画素は背景であり、1以上の輝度の画素は全てアーク領域に含まれると考えてよいことになります。この場合には、アークの直径(D)、重心位置(Gx)、平均輝度(Bmean)などの物理量は以下のように単純に計算できます。
 B=0;Bi=0;Bii=0;(加算演算用の初期値)
 for(i=0;i<nx;i++){B+=d[i];Bi+=d[i]*i;Bii+=d[i]*i*i;}
 Gx=Bi/B;D=2.*sqrt(Bii/B-Gx*Gx);Bmean=B/D;

 アーク領域の物理量を算出するのに問題になるのは、液滴が存在する場合の高輝度領域をどのように処理するかです。これについては一旦全ての画像について、時間領域での最高値、平均値、分散(標準偏差)などを計算し、液滴が存在することによりどの程度輝度が高くなるのかを推定し、測定輝度が本来のアーク輝度より高い場合に補正する処理を行うと、右図と右下の映像に示すように、ある程度液滴による輝度増加を低減することができます。最終的には各画素で全枚数の輝度ヒストグラムを作成し、輝度に相当する度数分布とアークに属する輝度分布を計数し、その結果を反映させることにしました。
 右の元画像と処理画像とを比較するとアーク領域ではほぼ液滴の影響を除去できています。液滴外周領域は輝度自体が標準偏差以下になっているため若干縁の明るい輝度が眼につきます。ワイヤ先端近くの液滴離脱領域では液滴の有無による輝度差が小さいため、液滴の影響ははっきりと残っています。前述したようにこの領域では、異なる処理手法が必要になります。
 最近ほとんどアーク現象画像のデータ処理を行っていなかったことと、年のせいでなかなか作業がはかどりません。また、このURLの文章を書きながら解析プログラムを作っており、前の方の章で書いては見たものの作業を続けるうちに、前とは異なる処理手法の方が良さそうに見えてきて、違う手順を試みてもいます。大まかな流れとしては、高速度ビデオ映像を全て読み込み、右下図に示しているように、対象となるある瞬間の画像、全データの最高輝度を集めた画像及び平均値画像の3者を比較しながらプログラム作りをしています。この章の最初の映像と右の映像は全体的な感覚と特徴を理解するために全ての領域を含んだ画像を示しています。右下の画像はアーク下半分(A7−A9)領域の映像です。上段(a1−3)はある瞬間の映像 [320,120]で、この映像が1088枚積み重なったブロックデータとして演算を行う予定です。中段(b1−3)は積み重なった映像を串刺しにして、その中の最高輝度をプロットしています。下段(c1−3)は1088枚全ての輝度の平均値を示した画像です。解析手順を考える段階では、このほかに前述したボクセルデータの水平断面図(水平軸と時間軸の映像)及び鉛直断面図(水平軸と時間軸の映像)も見比べながらの作業を行っています。
 実際には右に示した、対象のある時刻の画面と全体像を示す最大輝度と平均値画像で、それらの輝度の特性を眼に見える形にして下図のように作成しています。下に示した輝度分布の横軸は鉛直方向の位置で、左端が横軸に示した画像の最下部、右端が最上部になります。左に示したある時刻の画像では液滴の存在する位置で輝度が255となっていて、実際の液滴の輝度は背景の輝度値160前後の2倍程度と推測できます。画像の左側のグラフが液滴が存在しない左側の領域で黒色で表示、中央が液滴が存在する領域で赤色で表示、右側が液滴が存在しない右側の領域で黒色で表示しています。

 この章では、アーク領域の解析が主目的なのでアーク領域の輝度が最も高い青色を利用しています。そのため、この図に示したような低い領域でも液滴の輝度は最大値(オーバフロー)となっています。液滴が存在しない左側の最大輝度が約180となっています。液滴が存在しない領域での背景領域の最大輝度は約150となっています。この結果、輝度180以上を全て180に置換して計算を行うと、簡単に液滴の影響を除去してアークの特徴を計算できそうです。アークや液滴の輝度は高さ(ワイヤ先端からの距離)により大きく変化します。しかし、ここで示しているように、アーク下半分に限定して解析する場合には、簡単な処理で液滴の影響を排除できます。具体的な処理法としては、液滴が存在する範囲についてのみ、映像開始から終了まで値をチェックし、輝度が閾値180を超えた場合には、その前の時刻の輝度で置き換える方法を採用しています。ここでは、最初に試みた結果を示していますが、最終的には各画素の度数分布を利用した手法に変更しています。
 右の図は時間の経過と共にアークの幅がどのように変化するのかを算出した例です。アークの幅はパルスと同期して変動していることが分かります。また、その変動はアークほぼ全域で同じように生じていることも分かります。
 アーク幅は中央付近(L202)と下端付近(L90)とで比較すると、上側に存在するアーク幅の方は狭く、下方のアーク幅が広くなっており、時間軸波形を目視した状況と良く一致していて、計算はあまり変な結果は出していないと考えられます。
 右図は、中央付近のアーク幅と下側のアーク幅とがどのような関係を持つのかを検討した例です。時間軸波形で見られるとおりほぼ線形に比例しており、一部ばらつきが存在します。時間軸波形でパルスがうまく作動していない時期がある程度あり、その変動により線形関係が壊れたものと考えています。
 右図は時間軸方向に20データを合算してパルス変動の影響を除去して表示した例です。パルスによる横幅の変動は上側が小さく、下側が大きい結果が得られていました。20データを用いた平滑化をした場合には、上側と下側のアーク幅はほぼ同じ値となっています。
 上下幅の関係をもう少し詳細に見るために、両者の対応関係を右図に表示して検討したところ、アーク幅が広い場合には上側(L202)より下側(L90)が若干広く、逆にアーク幅が狭いときには下側がより狭くなっていることが分かります。
 右下図はアークの明るさが時間的に変動する様子を示しています。ワイヤ先端に近いほうが明るく、母材に近づくと暗くなる傾向を示しています。パルスの有無による明るさの違いも相当大きいことが分かります。パルスの影響と溶滴の離脱現象を考察するには、この撮影速度は若干不足しています。縦軸に平均輝度と記述しているのは、鉛直方向12画素の平均値を用いてグラフを作成しているからです。
 右上図で黒線で示した下側(L90)輝度と赤線で示した上側(L202)輝度との相関を示したのが右図です。ワイヤ先端に近い上側の方が明るく、多くの画素はほぼ線形の対応をしています。右上の時間軸波形を見る限りでは、上側の明るくなるタイミングより下側が明るくなるタイミングが若干遅れているように見えます。アーク自体の緩和時間はきわめて速いので、この遅延には液滴の存在が影響していると考えています。このビデオの5倍程度の撮影速度の映像があればある程度遅延の理由が分かると思います。ある個数の輝度がばらついているのは、パルスによる応答の影響と考えています。このため、時間軸方向に20枚分の画像データを平均化して求めた関係を以下に示します。
 平滑化した結果パルス応答の影響がほぼ除去できたグラフを右に示します。上側アークの明るさが確実に下側アークより強くなり、シミュレーションなどで指摘されている温度分布に一致する結果となっています。
 パルス周波数より長い時間の平均値を用いるとパルスによるばらつきが抑えられ、そのデータを見ると、上下の明るさの違いはアークの温度による違いでほぼ線形に対応することが分かります。データ自体がばらついているように見えますが、これは上に示したグラフと縮尺が異なるためです。どの程度のばらつきがあるのかを確認したいために、このように拡大して表示しています。
 この章の冒頭に示した写真では、アークが母材付近で左側に偏向していました。母材近傍でのアークの重心位置がアークの明るさによりどのように変化しているのかを右図に示しています。
 アークの明るさは電流の強弱に対応しており、電流が大きいときにはアークの重心位置は右側のワイヤ直下に引き戻され、電流が低い場合には左側に吹き流されていることがこの図より理解できます。
 右下の図にアークの重心位置の変動する様子を示します。大電流を流した瞬間に右側の座標に重心が移動している様子が分かります。パルス時の挙動を明確にすることを目的として、この図の下に時間軸を引き伸ばして表示しました。
 時間軸を拡大して表示すると上側と下側とでの時間遅れはほとんど気にする必要の無い程度短いことが分かります。しかしこの図では撮影速度が不足しているため、時間的な変動挙動がはっきりとは分かりません。
 パルスの影響を除去するために平滑化したグラフを右に表示します。上側アークの重心座標が常に下側より大きい値を保っており、下側アークが中心線より左側に偏向していることが良く分かります。
 右図は下側アーク領域の重心位置と上側アーク領域の重心位置との相関関係を示した例で、ほぼ完璧な線形関係を有していることが分かります。
 下に示した図は、アーク領域の幅(アークの広がり)とアークの明るさとの関係を示した例であり、下側が平滑化していない原データから求めた関係で、上側の図は20個のデータの平均値を用いて図示した関係です。パルス周期に応答した速い速度でのアーク幅の変動とゆっくりとした時間応答が混在していることが分かります。
 以上定量的な話が続きましたが、定量的な解析では実際のアークの輝度分布を常に頭に描きながら解析を行うことが重要です。視覚的にアークの輝度分布を意識しながら解析作業を行うためには、右図のような画像の擬似カラー表示が有効です。以上の話は右の図で色のついている全体について解析をした結果です。アークを理解するうえで重要なのは、全体的な形状とコアの高温領域の挙動の双方を押さえておくことです。以下では右図で赤色で表示されている領域について調べていくことにします。
 赤色の境界線の輝度は192です。これより一つ上の境界線の輝度は224、下側の境界線の輝度は160で、これらの両者より赤色の境界線について検討したほうが好ましいように直感的に感じます。念のためにきりの良い数値である190と220について検討を行うことにします。数値自体には特に意味はなく、撮影器材や撮影条件によりこれらの値は大きく変動します。
 右図に二つの閾値を使用したときの対象アーク領域を示します。以後の解析ではアークの傾きのデータとして計算するために、傾きの計算が容易に行えるように座標系を図に示すようにします。また対象とするアーク領域内に溶滴が存在する場合の計算誤差を回避するために、個々の画素について全時刻の輝度分布を計算して、上位20%(輝度の低いほうから数えて80%目)の輝度以上の値になった画素については、上位20%のところの輝度に差し替えて計算を行います。
 右図に補正処理をした効果を示します。左端が元データの画像です。中央が補正処理をした結果です。右端の画像は、比較検証用の画像を赤色で、元データを青色で、補正した結果の画像を緑色で表示しています。右端の画像で青色で表示されている領域が、基準となる輝度値より高いために補正された領域を示しています。黄色く表示されている領域では、元データの輝度値が基準値以下であり補正をされていない領域を示しています。(c)補正処理結果を注意してみれば補正処理の領域を識別できます。
 しかし、右に示した補正効果結果図を見る限りでは、アーク全体の領域の特性を計算するのに特に問題になる状況は見当たらず、補正処理効果は適切だと考えています。右図は水平軸上の最大値を高さを変数にして表示しています。黒印で示した輝度が液滴を含んだ元画像の輝度分布です。高さ200付近に液滴が存在し、その領域の輝度が非常に高くなっています。赤印で示した分布が補正処理をした画像の水平軸上の最高輝度です。青線が各高さにおける補正基準となる輝度を示しています。
 右図は輝度値が丁度全画像の中位(メディアン)となる輝度について、表示した例です。特定時刻の画像で輝度値を特定して色付けした画像では輝度のばらつきが目立ちますが、全画像の中位値(メディアン)をプロットした場合にはばらつきはほとんど目立たなくなります。輝度値220以上の画素を赤色で、輝度値190以上230未満の画素を緑で表示し、それ以下の画素は青色で輝度に応じた表示をしています。計算する座標系は上に示した座標系を選定し、計測を開始するX方向の座標i0は輝度値220の画素が存在する最初の位置としました。測定終了座標は、この中位値(メディアン)画像において輝度値190の画素が存在しなくなった座標から5画素右の座標としました。Y座標の開始と終了座標も同様に、輝度値190の画素の5画素広げた座標範囲について計測しました。
 測定した画像の輝度値は本来的にアーク温度に起因した数字です。しかし、ここで用いている輝度値は物理量と明確に対応した数字ではありません。時間的な変動については、この中位数画像を基準とし、輝度値220の時刻的変動では、この基準画像で計測した輝度値220以上の画素数(アーク領域面積)S、左右の幅(アーク長さ)L、及び上下の幅(アーク幅)Wを基準として、各時刻画像で計測したそれらの指標(s,l,w)との比率(s/S,l/L,w/W)を用いることとします。上で各時刻の画像を示しているように特定時刻の画像においては輝度のばらつきが大きく、画素数や平均輝度は容易に計量できますが、長さや幅を厳密に測定するのは容易ではありません。
 画像個数の測定に関しては、基準輝度以上の画素については1、未満であれば0を与える関数を用い、上に示した全領域を走査して個数を求めます。輝度に関しても同様に基準輝度値未満の画素には輝度0を与える関数を用いて輝度総数を求め、面積で除して平均輝度を求めます。重心や幅に関しても同様な関数を用いて右図に示す様式で統計的に値を用います。この操作によりデータのばらつきによる領域の特定の困難さを排除しています。
 右図に同様にアーク領域の走査で記録するデータの種類を紹介しています。全ての配列要素をこの段階で使用するわけではありませんが、後ほどのアークの偏向角度を計算する作業を行う時点でのデータ配列の並びを統一するためにこのようにしています。sx[i][0] にはとりあえずj列にアークが存在しない場合には0、存在する場合には1を入れます。次のj+1列を操作し終えた時点で左の列の記録があれば同じ数値を入れてグループ分けの参考にします。アークの計測では孤立点も含め領域内の全ての画素をまとめて計測するため、今回の計数では特に意味はありません。
 上図はこの手法で計測した高輝度アーク領域の時間的変動の様子を示しています。アーク領域の面積(画素個数)と輝度の総和はほぼ一致して変動しています。緑色の実線がここで取り上げたアーク領域平均輝度の時間的変動の様子を示しています。平均アーク輝度は総輝度を総画素個数で除した量ですから、変動が大きくないことは当然の結果です。しかし、右図に相対的な関係を示した分布図を示した結果からはアーク領域が増加すると平均輝度は若干低下する傾向を示しています。計算プログラムはまだ開発途上なので、詳細については今後の検討課題です。
 下図に様々な高さにおける水平軸上緑色画素の輝度分布を示します。緑色画素は液滴ピーク値が飽和していないため、計算対象として最適な対象と判断しています。しかし、アーク領域の計算では輝度の最も高い青色画素を対象にしていままで計算を実施ています。このため、ここまで示してきた輝度の数値とこれ以降の輝度の数値は異なります。緑色輝度は青色輝度の1/4程度の値となります。
 ワイヤ先端領域であまり溶滴が大きくは成長しない場合には左端のように溶滴の存在ははっきりとはしていません。液滴が比較的大きく成長し長い時間液滴がその位置に留まっている場合には、赤色画素素で輝度値60から128程度の間ほぼ同じ量存在し、その後増加して極大となった後、減少し更に輝度が高いところ(液滴が存在し始めるところ)で極小値となり、増加に転じるカーブとなります。右側二つの輝度分布はワイヤ先端部から液滴が完全に離脱した領域の輝度分布で、明白な二峰分布となり、ピーク輝度はワイヤから離れるほど低下し、その度数も低下しています。データの分布自体はかなりばらついているため、極大極小の位置を計算する場合には6ビット64階調で計算することが好ましいとは感じています。現在はそのままのデータを使用して計算しています。

 下図に上で示した度数分布を高輝度側からの累積度数分布にしたものです。累積度数のカーブが変曲している点がアークと液滴を分離する輝度で、ワイヤ先端から離れるほど低輝度側に遷移し、その個数も低下していることが明らかに観察できます。なお、これらの分布度数の計算では、輝度値0を除いて度数分布を示しています。

 上に示した図は、鉛直方向座標それぞれの輝度−度数分布を示しています。右図はその結果をまとめて鉛直座標を横軸にして示しています。上図のアーク領域でピークとなる輝度を、右図では赤印でプロットしています。緑色でプロットしているのは液滴領域度数のピークを示している輝度、青色はその両者の中間の最小値をプロットしています。ワイヤ先端からの距離により、輝度がどのように変化するのかがこの図で分かります。
 下の図は上の図で青色で示した輝度より高い輝度を持つ画素の個数が全体画素に占める割合です。この上下2枚の図からアークと液滴の状態を推定することができます。黒色一点鎖線より右(ワイヤ先端から離れた下側になります)は全ての液滴がワイヤ先端から離脱して自由落下している領域になります。度数の低下は飛行速度が増加し、各水平軸上に液滴が存在する確率が低下することを示しています。液滴領域の最高輝度とアーク領域の最大輝度の差が液滴自体の輝度を推定する指標となり、落下途中で液滴輝度が増加していることを示唆しています。
 以上の計算結果は輝度の最も低い緑色を対象にしています。輝度が飽和している青色や赤色の輝度分布に対しても同様な計算は実施しています。右図は右上に示した液滴存在頻度を書く色について計算した結果を重畳させて表示しています。同じ対象について計算しているため、結果は完全に一致するべきですが、輝度が飽和している青色画素に関しては計算誤差がかなり発生しています。

 青色画素に関して計算誤差が頻発しているのは最高輝度が飽和しておりアーク領域と液滴領域とがほとんど区別できないほど近接していることがまずあげられます。しかし、上図に見られるように、計算誤差の本当の原因は輝度値のばらつきと考えています。特定輝度のみの個数が他輝度より数倍高い状態でデータが保存されているため、このばらつきにより最高頻度が特定の輝度値に偏ってしまったことが計算誤差の主原因と考えています。
 アークの解析からは横道に逸れてしまった感はありますが、現在行っている検討はアークの計算から液滴の影響をどのように排除するのかについての基礎的調査です。上の頻度グラフでは輝度値0を除いて頻度を計算していますので、液滴度数の値は少し低めに出ています。結論的には、各画素においてその画素の上位10%の輝度以上であれば中位値に変換し、それ以下の値はそのまま用いることにすれば液滴による計算結果の変動を押さえられると考えました。
 右図に輝度値230以上のアーク領域サイズの時間的変動を示します。傾向は上で記述した結果と同様になっています。
 右図は、このアーク領域の重心とアークの幅及び長さの時間挙動の例です。アーク長さ方向の変動は横方向の変動より大きく、アーク長さとアーク幅も同じような傾向を示しています。
 右図に示しているのは、アークの大きさ(領域サイズ:画素数)とアークコアの重心位置との関係です。アークサイズが大きくなると長さ方向の重心位置は下方に伸びる傾向を示します。アークサイズが小さいときには重心位置はかなりばらつく傾向を示しています。水平方向の重心はアークサイズが大きい場合にはばらつきは小さく、サイズが小さい場合はかなり左右に広がった分布となっています。若干中心方向へと移動をしています。上下方向の変動は約30ピクセル強、水平方向の変動は鉛直方向より少ない約20ピクセルとなっています。
 右図はアークサイズとアーク領域の半値幅との関係を示しています。こちらは長さ方向の変動が幅方向の変動の約1.5倍となっており、重心位置の変動より大きくなっています。これはより輝度の低い下側の領域が長く延びていることを示しています。通常の画像処理では2値化処理をして幾何学的な重心を求めることが普通ですが、アークの解析では輝度が重要な情報を保持しているため、2値化処理はせずに輝度情報と位置との関係から重心や長さを計量することにしています。
 右図に高輝度アーク領域の重心座標(Gx,Gy)がどのように変動しているのかを示します。重心のx座標(上下方向)は約40画素の幅で変動し、y座標(水平方向)はほぼ半分の20画素の変動幅を有しています。座標位置の分布を見るとその変動は特には規則性は無いように見えます。鉛直方向の重心位置が100ピクセル近傍、水平方向の位置が80−90ピクセル付近で分布が密集しているように見えるのは、アークサイズが大きいときの重心位置がこの付近になるためです。
 右図は高輝度アーク領域の面積(サイズ)とその領域での平均輝度との関係を示しています。面積は4000画素から9000画素の範囲でほぼ2倍の大きさの変動があります。平均輝度は238から243までの範囲で輝度にして5の違いしかありません。正直なところ輝度値5の差はこの映像の輝度の誤差程度しかありません。しかし、図を見ると明らかなように面積が増大すると平均輝度は低下し、面積が小さくなると平均輝度は上昇しています。本当はアーク領域サイズと最高輝度との関係も図示しなければならないのですが、現在取り扱っている青画素は最高値に飽和しており有意な値を求めることが出来ません。輝度の低い緑色画素で計量しなければならないところですが、時間的な余裕がなく実施していません。

 右の図は重心のx座標(鉛直方向)とアーク領域の長さの半値幅との関係です。両者の関係としては重心が30画素下に移動するとアークの長さは30画素長くなることを示しています。重心はほぼアーク長さの中央に位置していると考えるのが普通なので、何となく釈然としない計算結果となっています。実際の映像と計算結果の各点とを照合してどのようにアークが変動しているのかを対比しておく必要があります。
 右図は重心のy座標(水平方向)とアーク領域の幅の半値幅です。水平方向に重心の移動はアークの偏向なので、アーク領域の幅との連動性は薄くなります。この場合には、水平方向12画素分の変動でアーク幅は4画素弱移動しています。アーク自体は左側(y座標の数値の少ない方向)に[偏向しているため、アーク重心座標が右側に移動するとアーク幅は増加する傾向を持つことになります。偏向が減少するのは、原理的には電流値が増加すると、アークがワイヤ先端方向へまっすぐになる傾向を持ちます。

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離散化誤差

・アーク現象の定量的解析には、元データの離散化誤差が解析結果に大きく影響します。
・データ数が多いときには離散化誤差はあまり大きくは影響しませんが、数が少ない場合には大きく影響します。私がアーク現象の画像処理によるデータ解析を開始した時期は、計算機環境は貧弱であったため8ビットの輝度を4−5ビット程度に圧縮して計算していたことと、その当時は直接A/D変換して計算していたため数値化する際の離散化誤差はほとんど影響していませんでした。
・デジタル式の高速度ビデオが利用できるようになった頃、そのデータを解析した結果、論理的には間違いない計算式で数値を算出しても、思うような結果が得られないことに悩んでいました。
・当初はその原因が分からず相当悩みました。きちんと輝度分布そのものを詳細に見直して、離散化誤差に起因していることに気づき、対処できるようになりました。

閾値判別法

・画像処理を実施する場合、画像に写っている物体はその物体に応じて色や明るさの同じようなグループに分けることが出来ます。RGB色空間で輝度の分布を表示すると、様々な色のブロックに分けられます。それらのグループの重心座標と分散範囲が決まり、ある輝度の点(Ir,Ig,Ib)がどのグループに属することが自然かを決める場合、一番近い重心位置のグループを探すのではなく、分散値で設定した各グループの境界範囲の内、最も近い境界のグループに入ります。
・しかし、その境界範囲が重複している場合には、どちらに属すべきかを決めるのが閾値判別法です。大津の閾値判別法が有名です。