1.3 焦点と倍率
焦点距離とはレンズに平行に光を当てたときに、光がレンズを通過後、光軸上のある一点に集中するところ(焦点)から光軸上のレンズの中心部までの距離のことです。この距離が短ければ短いほど広い範囲を撮影でき、「広角レンズ」と呼ばれます。焦点距離が長ければ長いほど遠くのものを大きく映せ、「望遠レンズ」と呼ばれます。
理想的な単焦点レンズの焦点距離と像を結ぶ位置および倍率について考えます。レンズ中央から被写体までの距離をL、像を結ぶ距離をl(これは撮像素子からレンズの中央までの距離になります)、レンズの焦点をfとした時、実際の像の長さHと結像した像の長さh及び倍率m(m=h/H)との間には、上図に示した関係があります。これらの関係は、レンズの中央を中心にひっくり返しても同じ関係になりますから、レンズの光学系ではmと1/mが同時に式の中に現れる(双対)ことになります。
実際にアーク現象を撮影する時に注意すべき事項は、Hで代表される被写体の大きさ、hで代表される用いるカメラの撮像素子の大きさ、D(=l+L)で代表される撮影場所・条件の制約による大きさ制限の3つの因子です。この3因子から、実際に用いるべきレンズの焦点距離が決まります。撮影場所の大きさ制限は、撮影場所の大きさによる制限がある場合と、機械に搭載する場合の大きさ制限及び溶接部からレンズまでの距離による制限などがあります。
表1に撮像素子の大きさと撮影対象の大きさと撮影倍率mとの大まかな関係を示します。等倍(m=1)での撮影では、被写体から撮像素子までの距離Dと用いるべきレンズの焦点距離とはD=4fという関係になります。この関係を目安にして、実際に用いるレンズと接写リングを決めていきます。現実問題としては、撮影する場所や装置の制約から、撮影で使用できる距離Dがある程度決まり、用いるカメラの撮像素子のサイズと被写体の大きさとカメラ倍率mが決まります。右図に示した被写体とレンズの幾何学的関係を用いて使用すべきレンズの焦点距離を決めるという手順になります。
さて、被写体が前後にdLずれた場合には結像する位置はdlずれます。実際の撮影では、結像する面に撮像素子があり、入ってくる光の量に応じた電荷が蓄積されることにより、画像データが作成されます。ピントがぴったり合っている場合には、1点に集中して結像されます。実際の撮影では、被写体が奥行き方向に広がり、撮像素子平面から奥行き方向にずれて結像します。
例えば溶接中の溶融池部分を撮影するには、右図に示すように斜め後方から撮影するか、側面上方から撮影することになります。このように、焦点位置からずれた部分は、実際に撮像素子が存在する平面では1点に集中せず、結果として撮影した像がぼやけます。
実際にピントを合わせた位置よりカメラ側にある部分は撮像素子より後方に、遠方側にある部分は撮像素子の手前で結像します。右図に示すような関係にあるとき、被写体からの光はレンズのさまざまな所を通過して結像位置で焦点を結びます。この結像位置と実際の撮像素子とがずれているわけですから、撮像素子表面ではある広がりを持ちます。絞りとぼけの量との関係を簡単に考えるために、右下図のように結像位置は撮像素子の奥にあり、光がレンズの中心線から入ってくる状況を考えます。
この図の場合には、ボケの大きさは絞りの開口(c)に比例し、その形状は絞りの形状が円形なら真円になり、カメラの世界ではこのぼけのことを錯乱円と言います。実際にはレンズの中心軸からずれた位置で結像するものがほとんどですから、真円ではなく楕円と液滴の中間的な形状となります。いずれにせよ、絞りを小さくするとぼける範囲は小さくなります。このボケの大きさが、撮像素子上の1画素の大きさを超えなければ、撮影された映像からぼけているのかどうかは分かりません。また、撮影された画像を見る際に、錯乱円の大きさが人間の目で見て点と区別がつかないほどに小さければ、その位置でもピントが合っていると判断します。実際のレンズでは、収差などにより1点に集中しない場合も多くありますが、実用上は仮想的な点光源からの光がフィルム面上でもっとも強く収束するような条件を持って、ピントが合っていると考えます。感光して電荷を発生する素子は有限の大きさを持ち、センササイズを素子数で割った面積より小さい面となりますから、光源が非常に小さい点の場合に、完全にピントが合った状態では、素子と素子との境界の不感帯に像が来た場合には逆に光を感じない場合が生じるなどの不具合が生じることもあります。
このように、実際には光源やレンズおよび撮像素子の関係で複雑な状況が発生します。絞りを開けた状態では撮像素子に入ってくる光の量は多いのですがボケが目立ちます。絞りを小さくすると光は減りますがピントが合っているように見えます。そして、このピントが合っているように見える領域の広さ(深さ)を、被写界深度(DOF =Depth of field)と言います。一般的に、絞りを大きく(F値が小さい)と深度が浅くなり、小さくする(F値が大きい)と深度が深くなります。被写界深度が浅いと、背景をぼかして被写体を浮き上がらせるような撮影が容易になり、被写界深度が深いと隅々までシャープに撮影しやすくなります。
効果的な撮影手順としては、絞りを開放にした状態でピントを合わせ、実際の撮影では絞りをできるだき小さくして全体にピントが合う状態にするのが好ましいと考えています。絞りの効果については後節で詳細に紹介します。
解像度を上げる為には、(1)受光素子のサイズを大きくすること、(2)受光素子の数を増やすこと、二つの方法が有ります。素子数(画素数)が同じなら、受光素子のサイズが大きい方が解像度は上がります。逆の言い方をすれば、受光素子の密集度をどんどん上げても、結果的に受光素子の1個あたりのサイズが極小化した場合、解像度を上げることが出来なくなります。同じ画素数の場合、受光素子のサイズが大きい程蓄えられる電荷が多くなり、相対的にノイズが小さくなるため、画質が向上します。受光素子のサイズを極小化した場合、ノイズの影響が相対的に大きくなり、特に光量の少ない暗部でその影響が顕著になります。 これが解像度を上げる上での制限となります。
「ビッグデータの正体 Big data / 情報の産業革命が世界のすべてを変える」ビクター・マイヤー・ショーンベルガー, ケネス・クキエ, 斎藤栄一郎/訳, 講談社(201305), ISBN 978-4-06-218061-0
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