8.高速度ビデオを用いたアーク現象の観察 8.2 映像の特徴

8.2 アーク映像の特徴

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 カラーの映像は赤緑青(RGB)の画面を重ねたものになります。データの内、赤のデータのみを印刷したものが左下、その右が緑、左上が青の映像です。これら3色を重ね合わせた映像が右上の映像になります。実際の撮像素子は、各画素の上にRGBのフィルタを積層した構造をしており、フィルタの配置はBayer構造が主流です。これらの情報から各画素に(RGB)の値をどのように割り振るのかについては、製造会社のノウハウになっており、公開されていません。デジタルカメラなどでは、自然の映像を撮影する際のセールスポイントになっていますが、カラーデータから温度を類推したい場合には、どのように補正すべきか不明となり困惑します。
 RGBの各フィルタの透過特性も、公開されているもの、あるいは非公開のもの、と多様です。公開されているものについても、素子の感度特性を含んだものか、フィルタ本体のみの感度特性かははっきりしない場合が多いと感じています。
 右図に波長532nmのレーザ照明を用いて撮影したカラー映像の一例を示します。532nmは緑色ですから、G画像に背景が明瞭に撮影されているのは当然です。R画像にも背景がある程度写りこんでいるのが理解できます。これは、赤のフィルタを532nmの波長の光が透過していることを示します。B画像には背景が全然写っているようには見えません。
 右図は、GTA溶接をSUS304および軟鋼に対して行っている状況を、露光時間を変化させて撮影した結果です。絞りを絞り、NDフィルタを使用しての撮影結果です。電極の状態を観察するには、露光量が多い方が良いのですが、アーク領域は完全に飽和しており、アーク内部の観察には不適となります。右側の写真は、露光時間が短い例です。この場合は、アーク内部の状態や母材表面の金属蒸気の状況は観察できますが、電極上部は観察できません。中央の写真は両者の中間的な露光時間での撮影結果です。この映像からはほぼ全体的な状況特に溶融池表面の状況が観察できます。しかし、アーク内部の変化は観察できません。一般的には少し絞り気味(若干暗い感じ)の映像の方が、暗い領域は目に見えなくてもデータとしては存在していることと、明るい領域でのデータの飽和がないので、計測目的では好ましいと感じています。
 光波長と光放射(輻射=発光)強度の関係を右図に示します。溶接現象を理解する上で有用な関係式を図の上側に示しておきます。ちょうど溶融金属からの光波長が最高強度になる温度範囲は、近赤外領域に存在します。その波長範囲は、通常のデジタルカメラ感度が存在する範囲となっていること、また、アークからの発光スペクトルがあまり強くないことから、溶接現象の観察に適していると考えています。
 通常アークの映像は、用いるフィルタや絞り及びシャッター速度などにより、極めて大きく変化します。右図に、アークと溶融池部分のコントラストを良好に撮影した映像の輝度ヒストグラムの一例を示します。アーク領域の輝度範囲と溶融池領域の輝度範囲が離れた、双峰性のヒストグラムになっています。最高輝度が飽和しない条件に撮影条件を抑えているため、撮影時間を短くしても、ヒストグラムの形状は相似となります。
 一方、右のヒストグラムは露光時間が長くなりすぎ、カメラ感度に比べてアーク光が強すぎる場合の一例です。最高輝度に近い値の分布確率が大きくなっています。市販されている通常のカメラは、感度以上の光が来ても自然な映像に見えるように感度調整をしています。一般に人間の目には強い光を見極めることは難しく、ある程度以上の強さの光はほぼ同じように感じます。このため、輝度値が約240程度になるとそれ以上の光には増幅率が低くなるようにして、明るいところの差を少なくしています。この結果、約240の輝度値以上の個数は増加します。輝度を計測したい場合には、このような感度特性は困りもので、絞りを適切に絞り、直線性のある領域で撮影を刷る必要があります。

次ページ   2014.10.10作成 2019.5.22改定

小川技研サイト
アーク映像の好み

・人の好みとは難しいもので、右に示した映像の内、右端の映像は暗すぎると嫌われ、中ほどもしくは左端の映像が好まれます。

・計測と言う観点からは右端以外の映像はアーク領域が飽和し本来は微妙な輝度差が存在するにもかかわらず、輝度値としてはほぼ最高値に変換されてしまっており、アーク領域の解析に必要な情報を入手できません。

・また、モニタの出力特性と人間の色強度識別能力との問題で、暗い領域のモニタ表示からは内部の情報の違いをがはっきりとは識別できません。そのため、筆者は輝度差を識別しやすくするために、擬似カラー表示を多用しています。

知識の起源

 自動化・知能化を考えていると、心の問題を考えざるを得ません。個別に多くの書籍を読み込み過去の常識が如何に間違っていたのかを学んできました。
 最近は総合的に解説した良書も多く、下記の4点は読んで損は無い書籍です。
・ジャン=フランソワ・ドルティエ著「ヒト、この奇妙な動物/言語、芸術、社会の起源」新曜社(2018)
・デイヴィッド・W.アンソニー著「馬・車輪・言語/文明はどこで誕生したのか」筑摩書房(2018)
・ジェニファー・アッカーマン著「鳥!驚異の知能/道具をつくり、心を読み、確率を理解する」講談社ブルー バックス(2018)
 人間中心、西欧中心に凝り固まった考え方への警鐘となっているほか、原典の紹介もふんだんにあり、非常によく出来た入門書となっています。
・マリー=クレール・フレデリック著「発酵食の歴史」原書房(2019) 衣食住の歴史や文化に関する書籍には、ハッとしてエッと考えさせられる内容のものが多く、いつも新鮮な驚きを感じています。現役時代痛切に感じていたのは、歴史のある研究所には過去からの多くの知恵が伝承されており、実験中に機械が故障して途方にくれても、何かしら応用可能な機器が存在し、少し手を加えれば実験が継続できることでした。良い仕事をするためには、一見無駄に思える雑多な装置類が保管されていることが重要だと感じていました。