2. 水中作業の特殊性

2.3 潜水作業の特徴

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 潜水士による水中作業は、高水圧が及ぼす物理的及び心理的な要因により、300-500m程度が作業深度の限度とされています。高水深域で能率的に作業を行う為には、ロボットの使用も含めて積極的な自動化・機械化の推進が必要となります。
 しかし、潜水士に代わる海中ロボットの作業には、陸上ロボットに比べはるかに難しい技術課題があります。例えば、潮流や波浪によってロボット本体や作業対象物には時間的に変動する外力が作用し、作業環境デ−タが変化します。これらの動的な外力の存在下で、安定な静止作業を実施するためのポジショニング技術が必要です。更に、対象物は海中生物や泥、腐食によって外見及び物理的性質が変化していることも予想しておく必要があります。作業の仕方についても、陸上ロボットとは異なり教示に要する時間が確保できない場合も多く、また現場固有の非繰返し作業が基本となります。
 指令する人間及び作業動力とロボットの働く場所が離れている遠隔性も技術開発が難しい要因となっています。エネルギー供給と通信のためのケーブルは、ロボットの操縦性と行動範囲への悪要因です。自律性の高い無索の海洋ロボットは、超音波などのような通信速度・容量に限界がある通信手段に依存せざるを得ません。また、エネルギー源の制約も大きいため、今すぐ水中熱加工作業の実用に供しうる段階にはありません。
 自動化と言う用語は、単純なものから、人間に代わって判断をも行い得る自律的なものまで、非常に幅の広い概念を含みます。人により想い描く自動化の概念が異なるため、誤解しやすいことも問題を複雑にしています。また、海中作業自体も非常に多くの作業要素を含むため、同様な誤解を起こしやすくなっています。
 実際の作業は熟練した専門家である潜水士がその場その場で的確に判断して作業を行うことが最善の状況が未だ多く存在しています。この節に示している海中作業の写真は、仕事上付き合いのあったアジア海洋(OWA)から提供されたものです。比較的良い状況の綺麗な写真しか外部には出しませんから、パイプ表面に大量の生物付着が存在しても、検査を行う溶接部などは非常に綺麗に撮影されています。
 海洋開発は、海象、気象、海底地形、地質あるいは人体に係わる基礎知識と、海洋工学、システム工学などの高度応用技術を、共に必要とする典型的な知識集約産業です。また、産業という観点からみると、鉄鋼、窯業、化学などの素材産業、機械、電子機器、造船などの機器製造産業、更に土木建設、海洋調査などの広範な産業分野から構成される、典型的なシステム産業でもあります。
 人間の作業性に関する点からみると、水深50mまでは圧縮空気を用いる通常の潜水作業が可能です。この水深より深くなると、圧縮空気中に高濃度で含まれる窒素により潜水作業士に麻酔作用が働き長時間の作業には支障が生じます。この問題の解決のためにヘリウム−酸素の混合ガスを利用する飽和潜水技術が開発され、潜水作業が可能な水深は500m程度までと深くなっています。しかし、高圧ガスの影響で音声が不明瞭(ドナルドダックボイス)になる事や、熱伝導度が高くなり人体の温度保持に注意を要する事、あるいは体内特に血液中に溶込むガス分圧が高くなり減圧に適正な時間をかけないと血行障害に起因する疾病の危険性が生じる事、などの新たな問題点も生じています。これらの物理的・肉体的な問題のみでなく、圧迫感・脅迫感・孤独感などの心理的な作業阻害要因も多く存在しています。
 作業機器を運用する場合には、耐圧能力、耐腐食能力、海洋生物の付着、運動時に起こる水の抵抗、光や音波の散乱や減衰等、さまざまな問題が生じ、これらは作業環境固有の独自性があります。作業対象や要求される作業の質により解決すべき問題点は異なりますが、基本的にはこれらの問題点は全て相互に密接に関連しており、総合的な見地で対応しなければなりません。

次ページ(3.技術開発の歴史)   2013.11.25作成 2018.9.5改定

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水中溶接目次
お勧め書籍
・潜水の世界, 池田知純, 大修館書店
・ダイバー列伝, トレヴァー・ノートン, 関口篤/訳, 青土社
・シャドウ・ダイバー, ロバート・カーソン, 上野元美/訳, 早川書房
・深海と地球の事典, 深海と地球の事典編集委員会/編, 丸善出版
・進化する魚型ロボットが僕らに教えてくれること, ジョン・H.ロング, 松浦俊輔/訳, 青土社
・水族館の歴史, ベアント・ブルンナー, 山川純子/訳, 白水社
・超ディープな深海生物学, 長沼毅,倉持卓司, 祥伝社
・海の極限生物, S・パルンビ, A・R・パルンビ, 片岡夏実/訳, 築地書館
・美しい海の浮遊生物図鑑, 若林香織, 田中祐志, 阿部秀樹, 文一総合出版
・魚だって考える/キンギョの好奇心、ハゼの空間認知, 吉田将之, 築地書館
・知られざる地下微生物の世界/極限環境に生命の起源と地球外生命を探る, タリス・オンストット, 松浦俊輔/訳, 青土社