8.ウォータジェット切断

8.ウォータジェット切断

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 高速で流れるウォータジェットで加速されたアブレーシブ(数μから数十ミクロンの微細砥粒)を小径ノズル(内径0.1- 1mm)から噴射させ、硬脆材料に高速かつ高密度で衝突させることによりその衝撃力を利用して材料除去を行います。レーザ加工や放電加工などの熱加工では、表面に加工熱によるマイクロクラックが発生しやすく、チッピングや強度低下が起こる問題があります。アブレーシブウォータジェットでは、熱発生が極めて少ない微細な脆性掘削加工の集積として切断が進展します。このため、チッピングやクラックはほとんど発生しません。軟らかい材料に対しては水だけを用いて切断し、金属など硬い材料に対してはジェット水にアブレーシブと称する研磨材を混入して切断効率を高くします。熱エネルギーを用いないので発火事故の危険性が少なく、またエネルギー密度が非常に高くジェット水が集中しているため切断溝幅も狭いこと、及び、ノズルが小さいために自動化に適した切断技術として多くの研究が実施されています。噴出する水の幅を広げて、海洋構造物の表面に付着する生物などの除去作業等にも良く利用されています。
 ウォータジェット切断の利用としては、従来は数百気圧の圧力でウォータジェットを噴出させて、バリ取りや岩石の切断あるいはクリーニングに多く利用されていました。1960年代に入り超高圧ポンプやシーリング技術の発展により、高速度のウォータジェットを用いることが可能になり、各種材料への切断が試みられました75)。
 ウォータジェット切断では、金属材料、岩石、コンクリート、ガラスあるいは複合材料などの切断が可能です。切断には水や研磨材のみを使用するため、環境を汚染する危険性が小さいという特長があります。また、切断している部分には熱がかからないために応力の発生も少ないと言う特長があります。バリの発生が少なく切断面もきれいである事や、被切断材とは非接触で、流体を使用して切断を行うためにロボットアームへの搭載も非常に簡単である事などから、非常に有望な切断技術として捉えられています。しかし、実際の水中切断に使う場合には大掛かりな装置が必要となります。
 使用する圧力と流速を適切に選定することにより、さまざまな対象の切断が可能となります。使用圧力により、ポンプやノズルも変わってきます。水を切断工具として使用しますが、非常に細いノズルから噴射しますので、その総量は非常に少なく被切断材料が濡れることは少なく、海苔巻やキャベツ或いはケーキなど各種の食品の切断に用いられています。ウォータジェット切断の利点の一つは加工材に応力と熱が生じないことで、熱により変質したり或いは環境を汚染する物質が生じる恐れのある複合材料や、脆性材料であるガラスの切断、特殊なところでは不発弾の解体などに積極的に用いられています。
 高圧ジェット水にアブレーシブを吸引させる高圧ジェット方式と、あらかじめアブレーシブを水中に混入しておき中程度の圧力でアブレーシブ入りのジェット水を吐出して切断する中圧方式が存在します。表面洗浄の場合の特殊なアブレーシブとしては、氷の粒を利用することがあり、アイスジェットとも呼ばれています。この洗浄法は放射化された部材の洗浄技術として有望視されています。また、原子力施設の解体技術の一つとしても有力な方法です。 アブレーシブジェットの原理図
 海洋構造物の鋼管杭の切断などでは、コンクリートのグラウト工事が実施されてアーク切断が適用しにくい部材の切断に、アブレーシブジェットが有効であるという特徴があり、これらの切断への本格的な適用が期待されます。噴射圧力とアブレーシブを適切に選定することにより、コンクリート部のみの切断や、コンクリートと鉄鋼製の構造部材を同時に切断することが可能です。適用水深に応じたノズルを用いれば、水深1100m程度まで良好な切断が可能であり、水中構造物の補修作業の自動化に適しているとしていると言う報告もありますが、高圧雰囲気中では切断能力が低下するとの報告もあり、今後の研究が必要です。 高水深での使用
 ウォータジェットの加工材への衝突速度が300m/s程度以上になると、研磨効果が明らかになって来ます。この衝突速度は大気中の音速並ですが、この速度を越えると、比較的硬い岩石の穿孔や切削が可能になります。衝突速度が速ければ速いほど、切削効果は顕著で、軟質材料の切断が容易に行えます。鉄鋼などの切断にはウォータジェットだけでは効率的ではないために、研磨材をウォータジェット中に混入したアブレシブ・ウォータジェット切断が適用されます76)。アブレシブ・ジェットは原子炉の解体や爆発性雰囲気中での鋼構造材料の切断を目的として、研究されました。
 高圧ポンプなどの設備が高価であるために、ウォータジェット切断の適用は特定の用途に限定されています。しかし、以下の特徴を有しており今後の実用化が期待されます。
(1)ノズル直径が小さいために、少ない所要電力で、大きな単位面積当りの加工エネルギーが得られる。
(2)水を利用するために維持費が安く、加工材料に作用する力は局所的であり、かつ、横方向へはほとんど力が作用せず、切断による変形が少ない。
(3)加工時の発熱がなく、発火・爆発の危険のある加工材も安全に切断できる。
(4)粉塵が発生せず、振動や振動による騒音が少ない。
(5)使用する水量は毎分数リットル程度であり、水を使用するのにもかかわらず、切断面の湿潤はわずかである。
(6)流体を使用しているために、反力が小さく、任意の位置から切断を開始できる16)。
 ウォータジェットは水中では急速に減衰するために、水中で使用する場合には、スタンドオフを小さくするか、ジェットの周囲に圧縮空気などを噴出させて摩擦によるウォータジェットの減衰を小さくさせる必要があります。アブレシブウォータジェットの場合には、研磨剤の処理をも考慮する必要があります。
 流体の運動エネルギーを利用して切断を行うために、加工材に対して非接触で切断を行えます。このため、工具の破損の恐れは小さく、加工材の完全な固定が困難なことの多い現場での作業に適しています。また、加工材が不連続に重なりあっている場合にも切断が可能であり、これが、熱切断技術に対しての大きな利点になっています。

次ページ(9.爆破切断)   2013.11.25作成 2018.9.7改定

水中技術 目次
水中切断 目次
雨だれ石を穿つ
 人類が針と糸を発明したのが5万年前だとか。この時点で糸を通す穴が存在したのか、あるいは鈎針上のフックに糸をかけて利用したのかは知りませんが偉大な発明だと思います。獣皮の衣服を縫って身に纏うことにより寒冷地で生き抜けたとか。
 以前から古代のビーズなどに綺麗な微小孔が空けてあるのには感嘆すると共に、どのように加工したのかが想像できずに首をひねっていました。
 古代の重要な交易品として黒曜石の他穴あきビーズが博物館に展示してあります。ビーズは装飾品として紐を通して利用するほか、穴あき銭と同様に持ち運びと保管をしていたはずです。
 金属棒を利用できる時代になると、穴あけ加工はそれなりに楽になったと思います。しかし石器時代にどのように加工していたのかは思いつかず、各地の博物館詣でヒントを探しています。最近読んだ本(村松貞次郎, 大工道具の歴史, 岩波新書)には、最初は尖った石で窪ませた後、湿った砂を載せて細い木をドリルのように用いて磨耗させたのでは?と書いてありました。
 ラスコー展には絵の具を入れた石の皿が展示されており、はるか昔から気の遠くなるような時間を必要とする研磨作業が行われたに違いなく、古代人の加工能力(あるいは奴隷労働の過酷さ)に驚嘆しています。