3.水中切断技術開発の歴史

3 水中切断技術の開発の歴史

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 水中切断技術の利用は、昔は沈没船のサルベージ作業などの分野に限られていました。現在では、寿命のきた海底油田プラットフォームの解体や原子力発電施設の解体にも応用されています。本章では、ガス切断、アーク切断及びその他の水中切断技術開発の歴史を概観します。
 獲物をとる、食事に適した形態に小分けする、道具を作る、構造物を作る、など、切断作業は、先史時代から重要な技術であり続けています。物を切るという行為は、人類が生存するための最重要技術の一つと考えています。先史時代から、世界各地でナイフや鏃あるいは槍の穂先などの石器として、黒曜石が使用されていました。黒曜石は特定の場所でしか取れないために、その成分的な特徴から古代の交易ルートの推測に使われており、非常に広範囲な交易が行われていたことなどが良く知られています。
 日常的な用途としては、食事を作る作業が切断の主要な用途です。その一環としての用途と考えても良いのですが、「獲物をしとめる、戦闘に勝つ」と言う目的が、素材の開発から機能の向上までの技術の推進に大きく作用しています。出張時などの合間に各地の博物館を見学した際には、いつも繊細な加工技術に見とれ、一体どのような道具を使って加工したのかと考え込んでしまいます。
 最近の分析技術の驚異的な進化により、発掘された土器や骨片あるいは排泄物から様々な目新しい情報が取り出されています。昔は炭素年代法についてしか知識はありませんでしたが、最新の書籍には様々な手法で、DNAの抽出のみならず、骨の成分から魚食や肉食の定量的割合を割り出すなど、目新しい情報を大量に取り出しています。技術屋の目からそれらの情報を眺めると、驚異的な精密さで情報が取り出されており、ただただ驚嘆するばかりです。しかし、試料が多量にある場合は別ですが、ホンの僅かな試料から計測した結論に対しては、本当のところどの程度の精度(誤差範囲)なのか少し首を傾げてもいます。
 切断技術には、熱源を利用して切断したい部分を溶融除去する熱切断技術と、機械的に切断したいところを局所的に破砕する非熱切断技術とがあります。歴史的には、機械的な切断がまず用いられ、より効率的な切断を探すうちに、熱を利用することを覚えてきています。熱の利用も、直接炎を利用することから、化学的な反応を利用する方向に進化してきています。
 三国志演義などの中国古典を読むと、バラエティーに富んだ武器・工具が次から次に出てきて、現在の戦闘とあまり変わらない兵器が使われています。本当のところ、実際に使われたものはどの程度だったのかと考え込みますが、あったら便利な器具・兵器への願望は驚異的です。生きるか死ぬかの極限状態では経済性は二の次で、とにかく効果の高いものを作り出さざるを得ません。同時に戦闘により武具は損傷破損し、状況に応じて応急修理を行うと共に、状況に対応してより良い兵器と運用法を考え出さないと敗北してしまいます。作ったら使って効果を確認したいのも技術者のサガなので、戦争が技術を飛躍的に発展させるのだなと、考え込みます。
 各種切断技術の大まかな分類を右表に示します。この表に掲げた個別の切断技術のほとんどは、主に産業革命以降に開発され、第一次と第二次世界大戦を契機として発達した技術です。しかしながら、電気利用以外の大本の原理は古代から理解されており、必要に応じて時間を掛けて利用されてきました。特に熱化学的な現象は戦争に応用されて古代から利用されてきました。第二次世界大戦後には、個々の技術は洗練され、切断能力と制御技術は、1970年代の自動化技術の進展により大きく発展しましたが、基礎となるアイデアは、ほぼ戦中期に提起されています。

次ページ(3.1 水中ガス切断の歴史)   2013.11.25作成 2018.9.5改定

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水中切断項目
お勧め書籍
・氷河期以後, スティ ーヴン・ミズン, 久保儀明/訳, 青土社
・大分岐, K.ポメランツ, 川北稔/監訳, 名古屋大学出版会
玉磨がかざれば
台北の故宮博物館の玉の展示コーナーには加工技術の詳細が説明されていました。
 時間の非常にかかる熟練作業を黙々とこなしてきた結果の玉の美しさには驚きます。失敗作も展示説明してあり、加工技術の工夫と努力が一瞬の気の緩みで無になる結果には、身につまされました。