3.水中切断技術開発の歴史

3.4 プラズマ切断技術開発の歴史

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 第二次世界大戦を契機にしてアルミニウムやステンレス鋼などの利用が急増し、ガス切断を適用できないこれらの鋼材の高速な切断技術を経済的かつ迅速に溶接する必要が生じました。同時に戦争終了(1941年)時には不要になった戦闘機をスクラップする必要が生じ、効率的な溶接切断技術にGTAなどプラズマを利用する技術の開発が促進されました。鉄粉末や特殊なフラックスを添加してガス切断を行う方法や、プラズマ切断あるいはMIG切断などの様々な手法が提案され、研究開発が活発に行われました。日常的に使用しているアルミホイールは戦闘機アルミの再利用として開発されています。
 1921年に現在のプラズマ切断トーチとほぼ同一の原理のトーチがヒメ(Himes)により開発されました。翌1922年には、ゴーディエン(Gordien)とロッツ(Lots)により、水安定化プラズマアークトーチが開発されました。1934年にはジーメンス社で金属溶解用のプラズマトーチが用いられ、また、ライネッケ(Reinecke)により耐食被覆用のプラズマアークスプレー装置が開発されています。1943年にアークで溶融した加工物に圧縮空気を)吹き付けて溝堀や切断を行う技術が開発され、ノズル径を絞りプラズマ周辺に高速のガスを噴出することにより、アークが緊縮されて高温になることが理解され、1950年以降プラズマ溶接切断技術が実用化されました。
 通常のドライアークプラズマ切断技術は1957年にユニオンカーバイドにより開発され、Dr.Robert Gageが特許を申請し、その後17年間ユニオンカーバイドがこの技術を占有しました。1000Aの切断電流で250mmまでの金属が切断できる。通常の切断はほぼ50mm以下の板厚となっていました。厚板切断を実施する場合に、アークが切断材とノズルの両者に同時に発生するダブルアークが解決すべき問題としてあり、1950年代に問題解決に向けて多くの研究開発が実施されました。アルゴンと水素の混合など高価格のガスを利用する技術が解決策として利用されていました。
 1955年に、リンデ(Linde)社で近代的なプラズマ切断トーチが開発されました。プラズマ切断技術は、高速度での切断が可能であり自動化に向いていたために、工業の合理化の波に乗り急速に利用されるようになり、現在でも主要な切断技術の一つとなっています。
 1960年の後半には、水中切断への適用が各国で試みられています。一つは、原子炉の改修や撤去のための切断に適用しようという試みです。イタリアの原子炉の設計変更にともなう熱遮蔽板の水中切断に適用できるか否かが検討され、技術的には可能であるとされました。その頃、モス(Moss)とヤング(Young)は、水中と大気中でのプラズマ切断能力の差異を系統的に調べ、水中では30%程度高い電力が必要であるとしました。更に、ウドケ(Wodtke)らは原子炉の解体にプラズマ切断を適用するために、各種の自動化技術を研究し、エルクリバー(Elk River)原子炉の解体に応用し、水深3.7mの水中で板厚37mmのステンレス製熱遮蔽板を切断しました。
 日本では、1985年から日本原子力研究所の研究用原子炉JPDR解体プロジェクトが始まり、圧力容器やパイプなどの構造材料が、ロボットアームに装着されたプラズマ切断トーチを用いて水中切断されています。最近では、制御棒の減量化などを目的として、切断能力を向上させた多くの装置が使用されています。
 ソ連のマダトフ(Madatov)らは、海洋で潜水夫が手動で水中プラズマ切断を行う、OPDR-1水中プラズマ切断システムを開発しています。電極の冷却水は循環せずに海中に放出し、アークを緊縮させる目的も持たせています。冷却水を介した漏電によるプラズマトーチの損傷も重要な開発事項でした。その後、バイデル(Beider)により、海水がトーチに逆流する危険性を排除するために高圧空気を利用し、さらに冷却水も循環して再利用するトーチに、改良されました。水をプラズマの緊縮に利用する方法は、ウォータインジェクションプラズマと呼ばれており、加工材の熱変形の防止や窒素酸化物の捕集及び騒音の低減化を目的として、発展し産業化されています。
 活動を停止した原子力発電所の解体も同様に大きな課題であり、環境保全と安全性と経済性をいかにして満足させるかという問題があります。日本では日本原子力研究所が実験用原子炉の解体計画を実施しており、プラズマ切断、アークソウ切断、アブレーシブウォータジェット切断など、多くの水中切断技術が用いられました。米国やドイツにおいては数件の実績があり、1979年に事故を起こしたスリーマイル島の2号炉の解体には水中プラズマ切断、グラインダー切断及びアブレーシブウォータジェット切断等が利用されました。
 プラズマ切断の場合ノズル部の消耗あるいは損傷等による部品の交換作業が作業効率のネックになりました。また、この場合は単なる解体撤去ではなく、事故時にどの様な現象が起こったのかを冶金学的に考察するための試験片採取の必要があり、試験片の採取には放電加工技術が用いられています。原子炉関連装置の解体の場合には放射能による被爆の恐れがあるために、切断工具をマニピュレータの先端に取り付けた遠隔操作が採用されてます。また、放射能の拡散を極力低く押さえるために、切断時にガスがあまり出ない手法が好まれるようになってきています。

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水中切断項目
お勧め書籍
・岩波講座*物理の世界 さまざまな物質系4/さまざまなプラズマ, 佐藤文隆, 岩波書店
・プラズマプロセス技術/ナノ材料作製・加工のためのアトムテクノロジー, プラズマ・核融合学会/編, 森北出版
・そこにはすべて「誤差」がある, 矢野宏, 技術評論社
・危険不可視社会, 畑村洋太郎, 講談社
・失敗の効用, 外山滋比古, みすず書房
・問題解決プロフェッショナル「思考と技術」, 齋藤嘉則, ダイヤモンド社
・技術開発のマネジメント, 田口玄一,矢野宏, 日本規格協会