12.放電加工


12.2 低電極消耗の原理

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 電極と加工材とは、液体を入れるタンク(加工槽)の中に、基本は上下に向かい合って設置してあります。電極と加工材との間に電圧をかける電源と、電極間の距離を接触しないようにかつ離れ過ぎないように(放電が所定の電圧で起きる距離を保つように)制御する装置が必要となりす。加工液としては水か灯油が使用されます。水は本来絶縁体ですが、不純物が溶けこむと電気を通します。この原理を利用するのが電気分解や電気メッキです。放電加工では、水の絶縁性を維持し続けることが肝要なので、水の絶縁性を維持するためのイオン交換装置が必要になります。
 加工が進むと加工屑が加工液体中に浮遊します。このため、濾過装置で加工屑を除去します。放電加工装置は以上基本構成の他に加工液温度を調節するクーラーと精密な制御を行うための数値制御装置がつきます。

型彫り放電加工機
 放電加工では、きわめて狭い電極−加工材の間隙に放電を発生させす。放電により発生した熱は、電極と加工材双方に影響を与えます。初期の放電加工では、電極選定のための知識が不足していて、電極も侵食されていました。加工材とは融点と比熱及び熱伝導率の異なる金属を電極に使い極性を適切に選定すると、電極は侵食されず加工材のみが多く侵食される現象が発見されました。また、銅と鉄を電極に使うと、銅の表面に液中の炭素が析出しメッキ状に付着する結果、銅はほとんど侵食されず、鉄だけが侵食される現象が発見され、低消耗技術が開発されました。右の2枚の写真は、カーボンを電極とした通常のアーク放電により切削した結果の一例です。切削屑が大量に発生するため、電極とか鋼材との間で切削屑が短絡し、電極も消耗してしまいます。
 放電加工の特徴は、ドリルなどの回転工具を利用せずに、任意形状の電極をそのまま使用することです。例えば、鉄板に三角の穴をあけようと思えば、三角形にした電極を吊るして放電させれば良い訳です。消耗比(侵食のことを消耗と呼びます)が1%以下になる加工条件が発見され、一個のマスター電極で何個もの金型を作成することが可能になりました。複雑な形状が製作可能なやわらかい銅を電極として使用することにより、複雑な形状の金型を繰り返し作成することが可能となりました。金型製造技術の革命です。銅の他には、グラファイトも電極としてよく使用されます。グラファイトは溶融せずに昇華する六方晶系組織の物質で、昇華温度は3,600℃以上と高温で、消耗しにくいことが特徴です。
 金型は金属製品の大量生産技術の根幹をなす技術で、製品により多様な材料が金型に使用されます。焼き入れ処置をした普通の鉄よりも硬い金属や、さらに硬くダイヤモンドに次ぐ硬さの超硬合金などが、丈夫な金型として使われています。金型は機械加工がしにくいため、昔は、金型を生産するのに多大な努力が払われていました。放電加工では、金型のように硬い金属をミクロン(0.001mm)オーダーで、繰り返し作成することができます。型彫り放電加工機は、主に姿彫りと狭くて深い底つきの穴などの加工に利用されます。加工速度は非常に遅く、荒加工で3−5グラム/分、仕上げでは0.005グラム/分程度の除去量です。

ワイヤ放電加工機
 右の写真は、軟鋼中空電極を用いて、中から水を噴出させた状態で157mmtのクラッド鋼をアークピアシングをした結果の一例です。アーク放電の制御を行わない場合には、加工速度は格段に速いのですが、電極の消耗も非常に速く、太い電極が必要となります。
 ワイヤ放電加工機は、型彫り放電の電極部分が細径金属ワイヤになります。真鍮ワイヤの直径は0.2-0.25mmと細く、切断幅の細い切断ができます。切粉として捨てられる部分が非常に少く、効率が高くなります。通常は、ワイヤをコンピュータで制御で上から下へと送り、左右に動くクロステーブルの上にセットされた金属板移動させて、糸鋸のように自由自在の形状に切り抜きます。ワイヤ放電が実用化されるまでは、金型製作には、線を引き、ボール盤で穴をあけ、金属加工用糸鋸で切り抜き、最後ヤスリで仕上げる職人仕事でのみ可能でした。ワイヤ放電の実用化により、金型が自動で製作できるようになり、プレス工場で金型生産が自前で出来るようになりました。ワイヤ放電加工で用いられる電極は消耗品のため、放電特性や引き張り強度が重要なファクターとなります。微細加工の場合には剛性が優先され、直径0.03-0.05mmのタングステンやモリブデンが用いられます。
 ワイヤ放電は、細いワイヤを使うため、エネルギ消費量と必要な水量が少なく、イオン交換などの装置も小さくて済みます。しかも、火災発生の危険がない水を使っています。細い穴も加工可能であり、ノズル製作などにも使われます。また、多品種少量の微小部品製造も可能な用途の広い、新たなマザーマシン、もしくは万能機械と呼べる機械です。
 ワイヤ放電加工機は、数値制御という機械操作手段により実用化できた機械です。直線運動の型彫り放電とは根本的に環境が違い、1970年代の自動化ブームにより、ミクロン単位の数値制御が可能となった時代背景で開発されました。初心者がマニュアルを参考にするだけで、特殊な熟練工に匹敵する部品を製造可能となりました。加工時間だけでなく、熟練工養成期間を含めて生産性を向上させた技術です。ドリルによる孔あけ加工は、直径の10倍の深さの穴をあけるのが限度です。それ以上の深さになると、ガンドリルなどの銃身などに穴をあける特殊加工になります。細穴放電では約100mmの板に直径0.5mmの孔を開けることができます。

次ページ(12.3 実際の加工)   2013.11.25作成 2017.11.11改定

水中技術 目次
水中切断 目次
騎馬民族と伝波
・中央アジアにおいて騎馬の風習がB.C.1000年頃から始まる。遊牧騎馬民族はB.C.700年頃のスキタイ人から
・スキタイ人はB.C.600年頃、中央アジアの黒海・南ロシア・北コーカサスの草原地帯の中心に部族同盟の王国をつくり、黒海北部のギリシャ植民都市と交易した。ギリシャから金銀器・青銅器・オリープ油などを輸入し、南ロシアの森林地帯アルタイ山脈から産出する黄金を輸出。
・蒙古語で、金(きん)をアルタンという。アルタイ山脈は金の産出から命名。
・12世紀中国の女真族金王朝の金の語源も女真語のアルチュフ。領地のアルチュフ河から砂金を産出し、その資産で王国は繁栄した。
電極材料必要条件
・機械加工で簡単に所定の形状を作成できること
・加工材より熱的特性が良いこと(消耗しにくいこと)
・100-200V程度の印可電圧で10μ以下の間隙で単発放電を行い、加工材を除去していきます。放電時間はは毎回異なり、結果的に除去金属量の精確な予測はできません。
・放電時間が長くなると、極間に微細な除去金属粒が残存し、この粉が放電現象に悪影響を及ぼします。
・除去金属量の予測が困難なことから、加工条件は過去の加工実績から決めることになります。