7.プラズマ切断

7.1 プラズマ切断の原理

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プラズマ切断の原理図  プラズマ切断は TIG (Tungsten Inert Gas=ティグ) 切断技術の発展した方法です。日本ではティグが普通に用いられています。私自身はGTA(Gas Tungsten Arc)と言う用語を通常使用しています。タングステン等の非消耗性の電極を用い、その電極と加工材との間にアークを発生させてそのアーク熱で切断を行う方法です。通常のGTAアークでは、アーク柱にはシールドガスによる冷却作用と流れる電流による電磁気力が作用する力が主に働き、プラズマアーク柱(流体)を収縮させる力が作用します。しかしプラズマの収縮は少なく、電離気体中の電位傾度とプラズマ温度はあまり高くはなりません。とは言いながら中心部のコア領域では2万度近い高温となっています。プラズマ切断では、アーク柱の周囲を水冷ノズルやジェット水流などで拘束し、アーク柱を強力に冷却します。この強力な冷却に対して、アークプラズマは緊縮し外部への熱損失が最小になるように振る舞います。同一電流を流す場合のGTA溶接と比較して、電位傾度は上がり、電流密度とアークプラズマの温度も上昇し、エネルギー密度も格段に高くなります。プラズマ切断では、この高密度エネルギーを利用して加工物を溶融し、更にプラズマガス気流によりその溶融物を排除して切断を進行させます22,23)。 プラズマ切断の原理図
 アークが被加工材(切断材)まで伸びて、陽極点が切断に有効に作用する移行式と、アーク放電がトーチ内で完結し、熱ガスであるプラズマジェットのみを被加工材に噴出させて非金属なども切断可能な非移行式とがあります。移行式では陽極点が切断材内部に到達するため全エネルギが有効に切断に利用されます。非移行式ではアーク本体は主にトーチ内部に発生するために、エネルギ効率的には不利になります。いずれの方式も、プラズマが切断材に噴出するノズル内径は数ミリと非常に狭く、この火口の耐久性と電極自身の耐久性とが問題となります。
 プラズマ切断を効率的に実施するための、電極や作動ガスあるいは電源の開発が進められてきました。ガス切断では最速切断速度が30cm/min程度にとどまります。これに対して、プラズマ切断では毎分数メートル以上の高速度化が可能であり、産業への応用が進みました。切断による熱歪を防止するために、ウォータインジェクションプラズマ切断方法が開発され、被切断材をウォータベッドに設置して水中で切断する手法を採用している企業も多くありました。米国のエルクリバー原子炉圧力容器の熱遮蔽板の切断や日本原子力研究所の試験用原子炉の部材の水中切断にも使用された実績があり、多くの研究がされてきました。 プラズマトーチ断面
 右にプラズマ切断装置の断面写真を紹介します。写真中央にあるのがタングステン電極とその電極を保持する機構です。その電極の上にある部分が電極へ電気を通電する部品です。電極と通電部分の温度上昇を許容範囲に納めるための冷却方式が最も重要なノウハウになります。この写真ではその最も重要なノウハウがはっきりとは理解できないように断面を削っています。いずれにしろこの中央部分には数十ボルトの電圧が作用し、周囲のノズル部分とは電気的に絶縁されています。外側ノズル領域と中央電極領域とがどのように絶縁されているのかについても判別できないように工夫して田面を切り出し撮影されています。
 写真最下段のプラズマアークを絞る火口部分は消耗品で、一定時間使用すると新しい部品と交換します。この火口部分にアークが一旦経由して切断材に到達すると火口部分が損傷してしまい、アークを効果的に緊縮できなくなります。内径を小さくしないと効果的なアークの緊縮はできません。しかし小さく絞り過ぎるとアークによる損傷が頻繁に起きてしまいます。火口形状と素材の適切な選定が経済性を左右します。
 電極は消耗しにくいように作成されています。しかし、電極自身も一定時間使用すると形状が変形します。電極先端形状の研磨と再装着するときに火口からの距離を一定に保つことが重要で、そのためには電極鋼管工具を精密にかつ合目的的に製作して使用することが重要になります
 プラズマ切断ではアークプラズマは相当緊縮されているために、周囲圧力(水深)の影響はあまり受けないと考えられます。しかし、同一スタンドオフ・同一電流という条件で切断作業を行う場合には、アーク電圧は水深の増加にともなって増加します。
 金属材料の切断では、プラズマアークの熱エネルギーを有効に利用するために、電極と加工材との間にアークを発生させて切断を行います。一方、非金属材料の切断では、電極とノズルとの間でアークを発生させ、その間を通過して高温になった作動ガスを利用します。プラズマ切断では直流の垂下特性電源を用い、アーク電圧は70-150V程度、電流は50-250A程度で使用されます。ちなみに、通常のTIGアーク溶接の電圧は10-17V程度です。
切断面形状  高温プラズマを熱源として切断するため、各種金属の切断が高速度で行えます。この結果、切断変形や熱影響部が少ないという特徴があります。一方、切断板厚に関しては、ガス切断とは異なり、溶融のための熱量がトーチ内の電極から発生し、切断材内部に到達するアークにより与えられているために、切断可能板厚には最高アーク電圧限度からの制約があります。現状の切断装置では150mm程度まで切断可能です。 切断品質検討因子
 切断の熱源はアークであるため、上縁の溶けや切断溝の不整、ドロスの付着、あるいは熱影響が広い範囲に及ぶことなどの問題があります。また、不適切な条件で切断するとノズルが損傷したり、アークを緊縮させるオリフィスの変形など、様々な性能悪化要因があります。右図に切断品質が悪化したときに検討すべき因子を表示します。

次ページ(7.2 プラズマ切断現象)   2013.11.25作成 2016.8.16改定