7.プラズマ切断

7.3 水中プラズマ切断

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 プラズマ切断は、装置にほとんど変更を加えることなしに、水中に適用できます。切断の場合には、アークが電極と加工材との間で発生する移行式の切断トーチが採用されることが多く、この形式のトーチでは、トーチと加工材との間に数10−数100Vの電位差が生じます。特に海水中ではこの電位差による腐食を防止する措置が必要であり、各種の手法が実行されてきており38)、研究の主流は遠隔操作や自動化技術となっています。
 JPDRの解体では、7関節7自由度を有するマニピュレータ式ロボットを用いた水中プラズマ切断装置と、5自由度を有するマスト型水中プラズマ切断装置が用いられました。H2とArの混合ガスを用いて、1000Aトーチで130mmまでの厚さのステンレス鋼の切断が可能でした。
 アークプラズマの収縮を助長しプラズマ温度を高めることを目的として、水を用いたウォータインジェクションプラズマという方法があります39-48)。陸上でプラズマ切断作業を行う際、環境に対して配慮すべき項目に、(1)騒音,(2)粉塵,(3)アーク光,(4)窒素酸化物があります。ウォータインジェクションプラズマ切断法は、これらの対策に有効であり、加工材を完全に水中に没して切断を行う施設も実用化されています。
 プラズマ切断は、非接触切断法であり、多くの制御パラメータやノズルが損傷し易いという問題点はあるものの、陸上においては多用されている技術であり、機械化の経験も豊富で、原子炉関連構造物の解体にも多く使用されています。海洋構造物への適用としては、手動によるもの以外にも、実際に5kWのプラズマ切断機をROVに搭載し、構造物の切断に実用した例も報告されており、今後の使用の増加が望まれます。
 右の写真左側は、1990年代半ばのプラズマ切断装置の電源と、駆動台車です。当時はまだ、3相全波整流の大きなトランスを内蔵した電源が主流で、重くて大きな装置でした。写真右側は、開先切断用に2台のプラズマトーチを組み込んだ実験用トーチのセットです。高水深での実験用に必要な無負荷電圧を稼ぐために2台の電源を直列につないで使用していた古き良き時代の記念品的な写真を紹介しています。 プラズマ切断水槽
 右の写真は、水中プラズマ切断実験用の水槽と、その水槽の中で実際に10mmtの軟鋼を水中切断している状況の例です。切断している軟鋼の側面は、同じ切断条件で水中切断した結果です。ドラグラインと裏面に噴出しているプラズマの角度とがほぼ同じ程度に後方に傾いている(ドラグライン)のが分かります。この映像で実際に水中プラズマ切断が可能だということを納得していただけると思います。
 右下図に水中プラズマ切断の切断能力が水深によりどのように影響されるのかを示します。アーク電流(400A)と切断速度(25cm/min)及びガス流量(80L/min)を一定にして、環境圧力を変化させて切断能力を調べ、比較した例です。図中には水深30cmでの実験結果との比をプロットしています。高水深での実験で使用するガス量は、正直なところ、「本当にこの数値でよいのかな?」と心配する値となっています。流量計の出口圧力は、実験に使用する高圧チャンバ内の環境圧力とほぼ等しくなり、流量計の指し示す数値の信頼性が低下します。圧縮性の気体を用いて高圧環境で実験をする場合のジレンマとなっています。
 まず、圧力が増加するとプラズマアーク電圧が増加します。使用したプラズマトーチのオリフィス(プラズマアークが加工材の方へとトーチから噴出する孔)が4.2mmと十分小さく、切断ガスは十分圧縮されてトーチ内部の圧力も高くなっているため、水深の影響はあまり受けないのではと考える方も多いかと思います。切断に使用するのは主に移行式アークのトーチで、上の映像を見ても分かるように、アーク(陽極点)は切断溝の内部に発生します。結果的にアーク長がかなり長いために、環境圧力の影響を強く受けます。
 最大切断板厚は水深が増加すると減少します。アーク長が長くなりうる限界が水圧の増加と共に短くなると考えるのが単純です。水中とは言いながら、アークの周辺は高温のガスであり、切断部近傍には水は存在しません。しかし、水深圧力によりプラズマ部分全体は大きく緊縮されます。

次ページ(7.4 プラズマ切断動画)   2013.11.25作成 2017.5.6改定