アークの観察手法

1.アーク溶接現象の撮影と計測方法の説明

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溶融池周辺に比べてアークは極端に明るいために、溶融池の大きさや表面での反応を計測するには、特殊な観察技術が必要となります。照明方法やカメラの特性あるいは特殊なフィルターを用いることにより明瞭な映像が取得できます。最近では感度範囲(ダイナミックレンジ)の広いCMOSカメラが一般化し、アーク現象の観察は比較的容易になりました。また、取得した映像を画像処理により改質することで、さらに理解しやすい映像となります。このページでは、通常のビデオレート(毎秒30駒)の映像を中心に、アーク現象の観察手法を紹介します。
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SUS304のGTA溶接を側面からのカラーCCDカメラで撮影。特に外部照明を用いなくても、撮影条件をきちんと調整すればかなり明瞭に撮影できる。周辺領域を明るく撮影すると、アークの部分は飽和してしまう。溶融池と母材との境界や前縁近くの青白い金属蒸気も確認できる。
(gta00a1.avi, 320×240, 30秒)
1)side
SUS304のGTA溶接を側面からのカラー撮影した映像に画像処理を施した例。撮影条件をきちんと調整すればかなり明瞭に撮影できが、映像データが持つ情報量より、人間の目で識別できる範囲はかなり狭く、実際の現象を見過ごしてしまう。表示の仕方を工夫して、溶融池後方の境界線(リップルライン)の形成される様子をわかりやすく表現した例。映像データにはきちんと差が出ているが、通常の表示では見過ごされてしまう。
(gta00a1a.avi, 320×240, 30秒)
2)
SUS304のGTA溶接を前方から高速度カラービデオで撮影(GTA00a1.aviと同時に撮影、200駒/秒)。溶融池前方に発生した直径0.2mm程度のスラグが複雑に動き回る様子と溶融池表面の青白い金属蒸気が観察できる。
(gta00a2.avi, 320×240, 40秒)
3)front
パルス発光照明によるGTA溶接現象のCCDビデオ映像。短時間だけ開くカメラのシャッター時間に、パルス照明を同期させて、コントラストの明瞭な映像が撮影できる。固体表面には微細な凹凸があり光は散乱されるが、溶融金属表面は平滑でありほぼ全反射する。この違いを利用してコントラストが改善できる。
(gta-lght.avi, 320×220, 12秒)
4)light
パルス発光照明によるGTA溶接現象のCCDビデオ映像(GTA-lght.aviの改質表示)。撮影した映像を人間が観察しやすいように画像処理することにより、そのままでは見過ごしてしまいがちな減少を詳細に観察できる。
(ihi030410.avi, 320×220, 12秒)
5)pulse
パルスレーザ発光照明によるGTA溶接現象のCCDビデオ映像(ilv_0.avi)を画像処理して、アーク発光部のみを除去、アークの背後の情報は保護して表示。映像データは非常に多くの情報を有しており、アーク光と背景の特徴の違いを利用すると、背景の特徴を損なわずにアーク光だけをソフトウェアで消去できる。
(ilv_0.avi, 256×240, 4秒)[現在再生できません]
6)pulse
パルスレーザ発光照明によるGTA溶接現象のCCDビデオ映像(ilv_0.avi)を画像処理して、アーク発光部のみを除去、アークの背後の情報は保護して表示。映像データは非常に多くの情報を有しており、アーク光と背景の特徴の違いを利用すると、背景の特徴を損なわずにアーク光だけをソフトウェアで消去できる。
(ilv_0-a.avi, 256×240, 4秒)
6)pulse
SUS304のGTA溶接(Ar)現象。アーク発生直後から裏まで溶け込んだ後までの映像、裏からのスラグと溶融池振動モードの変化を観察。裏まで溶ける場合、裏側をきちんとシールドしないと溶融金属に空気(酸素と窒素)が混入し溶接金属に悪影響を与える。
(ilv_952.avi, 280×220, 25秒)
7)laser
GTA(Arシールド)溶接現象のCCDカメラ映像(955nm)による観察。この近赤外の波長帯にはアークの発光スペクトルは存在せず、熱放射光が十分な強度を持つため、溶融池表面の挙動を観察しやすい。アーク発生直後は母材温度もあまり高くなく、磁気吹きなどでアークが偏向されやすい。スラグの放射率は高いため明るく撮影される。
(gtaccd1.avi, 240×240, 9秒)
8)955nm
GMA溶接現象のCCDカメラ映像(955nm)による溶融金属の挙動観察、絞りを途中で変更しており明るさが変化している。特定波長を選定することにより照明なしでも鮮明な画像が取得できる。GMAのアークは強いが、溶融池温度もGTAより高く、溶融池は明るく撮影される。単色画像であり、温度情報に変換ができる。
(gmaccd0.avi, 256×200, 17秒)
9)955nm
GMA溶接現象のCCDカメラ映像(955nm)による観察、絞りを途中で変更した映像を各駒毎に改質処理して表示。少々不鮮明な画像でも、改質処理により、人間が状態の識別を可能となる。溶融池表面のスラグの挙動やスパッターの発生状況が理解しやすくなる。狭帯域の干渉フィルターを使用すると、ゴーストが出やすくなる。 (gmaccdsqr.avi, 256×200, 17秒) 10)CO2
Ar+CO2ガスによるV開先(裏当なし)のGMA溶接のCCDカメラ映像(955nm)による溶融金属の挙動観察。溶融金属の振動により、時々溶融金属が開先裏面に流失する。鋼管矢板などの現場での補修溶接を目的とした溶接であり、バックシールドがなく、溶融池表面にはスラグが多く発生している。
(gma_atal.avi, 220×220, 30秒)
11)Atal
高ダイナミックレンジのCMOSカメラで撮影したGTA溶接の映像。明度を対数で記録して、明るいところから暗いところまですべてが見渡せるように工夫したカメラである。アーク溶接の撮影にはもっとも適したカメラであるが、プラズマで肝心なところが見えない場合もあり、撮影条件の選定に注意が必要となる。
(gta_wrnd.avi, 256×200, 28秒)
12)Wide
GTA溶接の高ダイナミックレンジCMOSカメラ映像(gta_wrnd.avi)を画像処理して、アーク部のみを除去した映像を表示。ここでは、アーク光の時間周波数と背景部分の時間周波数の違いを利用して、アーク光を消去している。この処理により溶融池表面でのスラグや金属蒸気の挙動が理解しやすくなる。
(gta_wr-dif.avi, 256×200, 17秒)
13)
GMA溶接の高ダイナミックレンジCMOSカメラ映像。明度を対数で記録しているため、明るいところから暗いところまですべてが見渡せ、溶融池近傍のクリーニング領域も識別できる。毎秒30駒の映像であり、高速度で変動する現象は観察できないが、人間の目で見る現象が観察できる。
(gma_wrhnd.avi, 300×160, 8秒)
14)

次ページ 2017.05.13作成 2017.05.13改訂