13.微小重力中の挙動
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アーク溶接は非常に複雑な加工法であり、表面張力や電磁気力あるいは浮力などが相互に影響しあいます。溶接現象のメカニズムを明らかにする目的で、溶接現象に影響する重要な要素のひとつである重力の影響を、落下施設を用いて調査しました。
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表面張力と重力。ガラス瓶の中に水銀と水を入れて、落下中の挙動を高速度で撮影。重力が働いていると、重たい水銀は底部にたまる。自然落下させて重力の力を取り除くと、水銀に作用する重力の影響が無くなり、主に表面張力が働き、丸くなる。丸くなる過程で水銀全体には上向きの運動モーメントが発生し、そのまま上昇していきます。これは、水銀と水の質量と表面張力が違うことで起きる。 (0gsurftnsn, 256×256, 9秒) |
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炎の浮力と拡散。通常は、アルコールランプの炎は温められて上昇する。このとき下部から常に新しい空気が供給されて燃焼反応が持続する。無重力状態では拡散だけが働き炎は丸くなる。また、新しい空気(酸素)が効果的には流入しなくなり、炎は弱くなり、消えることが多い。消える寸前の弱い炎を表示するために、擬似カラー表示をしてある。落下が終了し、制動領域にかかると大きな加速度が作用し浮力が発生する。この浮力で弱い炎が上のほうに吹き飛ばされる。 (0g_flame, 256×256, 9秒) |
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炎の浮力と拡散。無重力状態では拡散だけが働き炎は丸くなる。炎の中の煤は炎に比べて重く、浮力が作用しなくなっても、1Gの時の慣性でそのままの運動を続ける。また、新しい空気(酸素)が効果的には流入しなくなり、炎は弱くなり、より酸素が多くある部分で燃焼を続ける。 (0g_flam1, 256×256, 9秒) |
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横向き下進溶接と重力。アーク長を0近くにし、落下前にアークを発生させて溶接を開始し、途中で落下させる。重力があると、周辺ガスには対流が発生し電極は冷却される。無重力になると熱拡散のみの対流となり、電極の温度は増加し輝度が高くなる(周辺ガスによる冷却なし)。溶融金属に重力が作用しなくなると、全体は表面張力で上のほうに上がる。青枠表示=1G、赤枠表示=0G、緑枠表示=1G以上=制動過程)。 (0g_dn015, 256×256, 17秒) |
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アークスタート直後からの映像。1Gの状態で、溶融金属がどのように成長していくかを観察。溶融部の成長とともに、全体の温度場も変わり、溶融金属上のスラグの挙動が変化する。 (0g_istrt, 256×256, 17秒) |
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水平下向き溶接の溶融金属形状と流れの観察。1G(青枠)では重力と表面張力のバランスで、アーク直下部とビード頂点の高さの差は少ない。0G(赤枠)になると、表面張力で左に輸送された金属を右に押し戻す力がなくなり、ビード頂点は高くなる。制動状態(緑枠)になると、溶融金属は下に流れ落ちる。 (0g_nrm210, 256×256, 17秒) |
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水平上向き溶接の溶融金属形状と流れの観察。1G(青枠)では溶融金属に下向きの重力が作用し、アーク後方部(左側)で若干垂れ下がる。0G(赤枠)になると、重力がなくなり、垂れ下がっていた金属は元に戻り(上に上がり)差は小さくなる。制動状態(緑枠)になると、溶融金属は左後方部で下に流れ落ちる。 (0g_ovhd, 256×256, 17秒) |
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横向き上進溶接の溶融金属形状と流れの観察。1G(青枠)では溶融金属は重力とにより下方に押し下げられる。0G(赤枠)になると、重力がなくなり、表面張力のみになり、上方に溶融金属が押し上げられる。一定時間経過して定常状態になると、表面張力による対流がはっきり確認できる。制動状態(緑枠)になると、溶融金属は下に流れ落ちる。 (0g_up08, 256×256, 17秒) |
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横向き下進溶接の流れ(オリジナル画像)。本来の画像データでは、溶融金属の部分と溶けていない領域での明るさの差はあまり大きくなく、肉眼では差を見分けるのは難しい。 (0gd08-raw, 256×256, 17秒) |
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横向き下進溶接時の溶融金属の流れ(擬似カラー表示)。本来の画像データに対して、適当な擬似カラー表示をすると、溶融金属の部分の明度差と溶けていない領域の違いなど、肉眼では見落としがちな現象を簡単に見分けることができる。 (0gd08_b, 256×256, 17秒) |
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スラグの運動を追跡。スラグの明るさは周囲より明るく、画像処理によりスラグの中心(+印)を求めることができる。赤色で擬似カラー表示をして、溶融金属内部出スラグがどのように運動するかを表示。この重心位置の各時刻での座標を時間軸方向にプロットすればスラグの変動が分かる。また、各瞬間の速度も分かる。 (0gd08_slag, 128×256, 17秒) |
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微小重力での溶融金属の流れの観察。元の画像とスラグの中心(+印)を求めた画像を並べて表示。特徴的な点の追跡は、画像処理により自動的に行える。 (0g_slag, 256×256, 17秒) |
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横向き下進(フラックス塗布:途中でアーク止める)。フラックスを塗布した場合には1G(青枠)での垂れ下がりは小さく、0G(赤枠)ではより上方に移行する。溶融金属部は全体的に明るく、表面をスラグが覆っていると考えられる。また、振動も起こりやすい。 (0g_dn012, 256×256, 17秒) |
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横向き下進(フラックスなし:途中でアーク止める)。フラックスがない場合には1G(青枠)での垂れ下がり大きく、0G(赤枠)でも上への移動は小さい。これは、活性フラックスを塗布していない方が、表面張力が強いことを示す。 (0g_dn013, 256×256, 17秒) |
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無重力下で錆びた軟鋼板へ溶接。内部の気泡の発生と外部への放出=スパッタの発生は無重力でも起こる。気泡部で熱の流れが大きく変化し、気泡はより温度の高い方に移動し、最終的に表面に放出される場合もある。 (0g_nrm26, 256×256, 17秒) |
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1GでのArが流れなくなった状態の観察。シールドが悪化すると、ステンレス部は酸化反応によりスパッタが多くなる。1Gでは対流により周辺の空気が溶接部に大量に流入し、異常な酸化反応が生じるとそれを加速する方向に作用する。 (0gair01, 256×256, 17秒) |
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0Gにおける静止アーク、Arを止めた後のアークと溶融金属の挙動。Arの供給を止めても、無重力状態ではアーク周辺のArはそのままその周辺にとどまる。対流作用がなく拡散のみとなり、周辺空気の混入には強い力が作用しないため電極酸化速度は若干遅くなる。1Gでは異常アークが発生しやすいが、0Gではアーク遮断が起き易い。 (0gdrp208, 256×256, 9秒) |
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0Gでの下向きの被覆アーク溶接。0Gでも溶融金属は母材に移動し、スパッタも発生する。スパッタの飛行軌跡はほぼ一直線となる(=重力がない) 。溶融金属内のガスには滞留は作用しないが、膨張は大気中と同じであり、スパッタは1Gと同じように発生する。(0gdrp304, 256×256, 9秒) |
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0Gでの下向きの被覆アーク溶接。0Gでも溶融金属は母材に移動し、スパッタも発生する。スパッタの飛行軌跡は一直線(=重力がない)。溶融金属の離脱には重力波作用せず、ピンチ力と温度差による表面張力とが作用する。 (0gdrp312, 256×256, 9秒) |
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0Gでの下向きの被覆アーク溶接。0Gでも溶融金属は母材に移動し、スパッタも発生する。スパッタの飛行軌跡は一直線(=重力がない)。被覆アークではヒュームを多く発生する。 (0gdrp404, 256×256, 9秒) |
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動画トップページ 2017.05.13作成 2017.05.13改訂