アーク発生時の挙動(GTA)

4.アーク発生時の挙動

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アーク発生時には、 電極の温度は低くまた母材表面には酸化物が存在しています。 このために、 アークが発生した瞬間は、 電極温度の高い定常状態とは異なる挙動を示します。 きれいに研磨した電極と溶接に使用したままの電極とでは、 アーク発生時の挙動は大きく異なります。 高速度ビデオを用いてアーク発生時の挙動を観察した結果を紹介します。

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純タングステン電極の高周波によるアーク発生時の高速度映像。 タングステンの高周波始動は難しく、 絶縁破壊は側面部で不規則に起こり先端で起きないことが多い。 先端部の尖ったタングステン電極では、 アークが発生すると先端はすぐに溶融離脱する。 溶け落ちたタングステンにアークが集中することが多い。
(0621pw-ignition, 256×256, 22秒)
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GTA溶接アーク起動時の現象の高速度観察結果の擬似カラー表示、 上:新品の電極=表面を研磨した電極、 下:数回使用した電極。 変化を強調するために、 前の駒より明るくなった領域を赤色で強調し、 暗くなった領域を青色で強調表示している。 新品の電極では比較的短時間で陰極点は電極先端部に集中し、 陽極点も電極先端部直下に出来る。 使用した電極では陰極点は電極上部側面を移動し、 先端部に固着するのに時間がかかる。 陽極部が溶融すると電極先端部に固着する。
(ignition, 256×256, 25秒)
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GTA溶接(Heシールド)のアーク発生直後のジルコニア粒子挙動の高速度観察(高硫黄=220ppm)。 硫黄濃度の高いSUS304のヘリウムアーク溶接ではアークは中央に集中し、 内向きの流れが強く溶け込みも深くなる傾向を持つ。 SUS304の表面に0.1mmのジルコニア粒子を置きアークを発生させ挙動を観察すると、 ジルコニア粒子が中央に集中し、 金属蒸気も中央部に集中する傾向を示す。
(hehs150-khi, 256×256, 20秒)
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GTA溶接(Heシールド)のアーク発生直後のジルコニア粒子挙動の高速度観察(低硫黄=10ppm)。 硫黄濃度が低い場合には、 ジルコニア粒子は中央部には異動できず溶融池周辺にとどまる。 金属蒸気も幅広く発生しており、 アークが分散し溶融金属は外向きに流れる傾向が認められる。 この場合には幅広く溶け込みの浅いビードとなりやすい。
(hels150-khi, 256×256, 30秒)
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2%ThWの200Aアーク発生状況と電極表面の挙動(高精細画像のはめ合わせ)。 シールドガス中に酸素がある程度存在すると電極表面では酸化反応が生じ、 タングステンやトリウムなどが電極表面で酸化反応が進行し、 タングステンより溶融/蒸発温度の低い酸化物が出来る。 酸化タングステンは電極の側面で蒸発し、 高温雰囲気中で乖離したタングステンは電極先端部近傍で再結晶し、 傘状のデンドライトが成長する。 表面温度に応じて様々な反応が進行している。
(px200a5pb, 480×320, 6秒)
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2%ThWの200A短絡時の電極表面の挙動(高精細画像の縮小全体版)。 短絡時には電極は内部を通電する電流によりジュール加熱される。 電子放出による冷却はないが、 周辺のガス温度は低い。 このためアーク発生時とは少し異なる挙動となる。
(px200a6_b, 240×180, 6秒)
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2%ThWの200A短絡時の電極表面の湯流れ挙動(高精細画像) 。 溶融温度の低いトリウムが表面に溶出し酸化トリウムの溶融層が電極表面上を移動する。 一部内部で気化したガスにより風船状に膜が膨張し破裂する様子も撮影されている。
(px200a6_c, 400×220, 6秒)
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2%ThWの200Aアーク発生状況と電極表面の挙動(高精細画像)。 1240x1024画素12ビットの高精細画像として撮影された単色(955nm)動画は多くの情報を含んでおり、 様々な画像処理により電極表面の温度分布や物質輸送現象及びプラズマの温度情報などの有用な情報が導き出せる。
(px200a7_a, 320×256, 6秒)
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次ページ 2017.05.13作成 2017.05.13改訂