金属蒸気の挙動

7.金属蒸気の挙動

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SUS304の硫黄濃度と金属蒸気発生の関係に焦点を当て、高速度ビデオ(毎秒1000駒)で挙動を調べました。まず、水冷銅板上でアークを発生させ、次にSUS304に移動し、表面にフラックスがない場合とある場合についてアーク溶接の状態がどのように変化するかを、特性の異なる複数のカメラから撮影して比較しています.共通の溶接条件は、ヘリウムシールド(20L/min)、 GTA130A、20cm/min、2.4mm3%ThWです。

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GTA(Heシールド)He発光の強い波長成分のみ高速度撮影。フラックスの無い領域ではヘリウムの発光部は前方は溶融池表面に接近し、後方では表面よりやや上に存在する、後方へ傾いた状況となる。溶融金属表面にも直径約3mmn明るい領域がある。フラックスを塗布した領域に入ると、Heからの発光は強くなり、溶融金属の振動と流れも強くなる。 (030612_6he, 256×160, 34秒) 105)
GTA(Heシールド)金属蒸気の強い波長成分のみ高速度撮影。フラックスが無い領域では、溶融金属表面に直径3mm程度の非常に明るい発光があり、溶融池後方へのこの金属蒸気の流れが認められる。フラックスを塗布した領域に入ると金属蒸気の発生は抑制され、溶融金属の振動と流れは強くなる。 (030612_6cr, 256×160, 34秒) 106)
2枚の高速度映像を合成。Heの発光を赤、Crの発光を空色で表示。フラックスが有ると金属蒸気の発生は抑制され、Heプラズマの発光が強くなる。 (030612_6add, 256×128, 18秒) 107)
GTA(Heシールド)の高速度映像。高硫黄含有率SUS(220ppm)の溶接。上段はフラックスなし、下段はフラックス塗布、左はHeからの発光、右はCrからの発光。フラックスが無い場合には金属蒸気の発光は強く広い領域に及ぶ。フラックスを塗布すると金属蒸気の発光は弱くなる。ヘリウムからの発光は逆に、フラックスを塗布しない場合は弱く、塗布した場合には強くなる。 (030612hs, 320×240, 15秒) 108)
GTA(Heシールド)の高速度映像。低硫黄含有SUS(10ppm)、上段はフラックスなし、下段はフラックス塗布、左はHeからの発光、右はCrからの発光。硫黄濃度が低い場合には、金属蒸気からの発光は弱く発光範囲は広がる。ヘリウムからの発光は逆に強くなる。フラックスを塗布した場合には、硫黄濃度が高い場合とほぼ同様な発光状態を示す。 (030612ls2, 320×240, 15秒) 109)
GTA(Heシールド)の高速度映像。中硫黄含有SUS(30ppm)、上段はフラックスなし、下段はフラックス塗布、左はHeからの発光、右はCrからの発光。硫黄濃度が30ppmの場合には中間的な様相を示す。 (030612nr, 320×240, 15秒) 110)
GTA(Heシールド)の高速度カラー映像。上段は高硫黄(220ppm)、下段は低硫黄(10ppm)、左フラックスなし、右はフラックス塗布。白黒映像と同時に撮影したカラー映像。撮影速度毎秒1000駒。電極上部中央の黒い影は実験装置による影。フラックスを塗布すると溶融池表面の挙動が大きく変化する。 (030612rgb-hl, 320×240, 15秒) 111)
CMOS、431nm干渉フィルタ使用。この波長帯は金属蒸気の発光が主流。電極側面の表面近傍に明るい層があり、温度の高い電極先端にはない。溶融池表面にも明るく発光している薄い層があり、溶接進行方法の明るい層は間欠的な成長と後退を繰り返す。ヘリウムアーク特有の丸い雪洞形のアークの形状は金属蒸気の発光による。下の画像と同時に撮影。 (030612_1cr, 256×160, 34秒) 112)
CMOS、589nm干渉フィルタ使用。この波長帯はヘリウムからの発光が主流。電極先端部近傍では絞られていて、母材に地価ずくに伴い急速に横に広がる。上の画像と同時に撮影。アークは安定している。電極表面近傍と母材表面にはほとんど明るい層が存在しない。 (030612_1he, 256×160, 34秒) 113)
CMOS、431nm干渉フィルタ使用。活性フラックスを塗布した領域の映像。金属蒸気の発生は全体的に抑制されており、溶融池表面の振動が大きいことが観察される。フラックスが無い場合に溶接進行方向で金属蒸気が息継ぎしているが、フラックスと不の場合には進行方向には金属蒸気はほとんど認められない。電極直下より少し後方のアノードが集中していると推定される領域で多く発生し、後方に移動している。 (030612_2cr, 256×160, 34秒) 114)
CMOS、589nm干渉フィルタ使用。ヘリウムアークの形状はフラックスが無い場合とほとんど同じであるが、若干明るくなっている。アーク下部は溶融池の振動に伴い変動する。表面の流れははっきりしないが、スラグが中から外に流れている場合がある。中から外の流れと外から中への流れが繰り返されているようにも観察される。 (030612_2he, 256×160, 34秒) 115)
Phantom-V7。左半分の溶融池後方部分は他のビデオのレンズにより遮られており観察ができていない。電極とプラズマ上部は安定している。溶融池前方の金属蒸気は小刻みに変動している。 (030612_2v, 160×120, 174秒) 116)
CMOS、431nm干渉フィルタ使用。溶融池表面に直径2-4mmの明るい金属蒸気の領域が変動しながら存在する。電極表面とアーク上部はあまり変動しない。溶融池の振動はあまり無く、表面流れは分からない。 (030612_3cr, 256×160, 34秒) 117)
CMOS、589nm干渉フィルタ使用。アノード領域がかなり明るく、その上部にも明るい層がある。中間部は暗く、電極先端部のアーク部も明るく観察される。溶融池の動揺はほとんど無く、周辺をスラグが行ったりきたりしている。 (030612_3he, 256×160, 34秒) 118)
Phantom-V7。比較的安定したアークが持続している。アノード部は明るく、この領域にアークが集中していることが分かる。溶融金属の動きはほとんど観察されない。 (030612_3v, 160×120, 303秒) 119)
CMOS、431nm干渉フィルタ使用。フラックス塗布部の状況。金属蒸気の発生は抑制され、溶融金属は激しく動揺。フラックス領域に入った初期の段階では金属蒸気は後方に吹き流されているようであり、安定した段階でアノード中心部で発生する金属蒸気は時計方向に回転しているようにも見える。前方固体部でフラックスからの発光も認められる。 (030612_4cr, 256×160, 34秒) 120)
CMOS、589nm干渉フィルタ使用。電極とアーク上部は安定している。溶融池は動揺し、この動揺によりアーク下部の進行方向後部のアークは変動している。溶融池の縁の部分に多くスラグが発生し、前から後ろに流されている。 (030612_4he, 256×160, 34秒) 121)
Phantom-V7。フラックスが無い状態からフラックスを塗布した状態までの映像。金属蒸気の発生が少ない条件であり、フラックスの無い領域では溶融金属はあまり動揺しない。フラックスを塗布した領域にかかるとフラックスが溶けて溶融池表面に浸透し蒸気の発生が抑制されるように観察される。 (030612_4v, 160×120, 303秒) 122)
CMOS、589nm干渉フィルタ使用。フラックスの無い領域からフラックスのある領域への角状態の撮影。アークは安定しており、溶融池表面に直径3mm程度のスポットが観察される。周辺部は明るいが中央部が暗い場合も多い。 (030612_5he, 256×160, 34秒) 123)
CMOS、431nm干渉フィルタ使用。フラックスの無い領域からフラックスのある領域への過度状態の撮影。フラックスの有無に関わらず、溶融池表面は前から後ろへガスが流れているように観察される。フラックス領域に入ると蒸気の発生は前から順に少なくなり、中心線に帯状の細い領域が観察され、前から後ろに移動しているように観察される。溶融池表面の振動は大きくなる。 (030612_6cr, 256×160, 34秒) 124)
CMOS、589nm干渉フィルタ使用。フラックスの無い領域からフラックスのある領域への過度状態の撮影。ヘリウムの発光状態には大きな変化は無いが、溶融池表面の動揺に伴う動揺は存在する。溶融池表面は大きく異なる。フラックスが無い領域では直径3mm程度の明るい円形の領域が観察されるが、フラックス塗布領域に入るとこの領域は不明瞭となり、溶融池全体が明るくなる。溶融池表面が薄いフラックスの層に覆われるとも考えられる。同時に、溶融池の周辺部にスラグが多く発生し、前から後ろに流れる。 (030612_6he, 256×160, 34秒) 125)
Phantom-V7、1000fps。フラックスの無い領域からフラックスのある領域への過度状態の撮影。溶融池表面の発光が少ない条件であり、フラックス領域に入ったときの明瞭な状態変化はあまりはっきりしない。 (030612_6v, 160×120, 303秒) 126)
Phantom-V7、100fps。溶融池前側の金属蒸気の息つき現象の観察。毎秒100駒の速度に対応させるために、撮影駒を間引いて表示。前方部が間欠的に変動する様子が理解できる。前方向へのガスの流れははっきりしない。 (030612a1f100, 160×120, 12秒) 127)
Phantom-V7、100fps。フラックスの無い領域からフラックスのある領域への過度状態の撮影。フラックスが溶融して溶融池の中に入り、周辺部を通って後方に流れる様子が観察される。 (030612a2f100, 160×120, 9秒) 128)
Phantom-V7、100fps。フラックスが無い場合の映像。溶融池表面の流れははっきりしない。円形の輝度の明るい領域の変動が分かる。 (030612a3f100, 160×120, 15秒) 129)
Phantom-V7、100fps。フラックスの無い領域からフラックスのある領域への過度状態の撮影。フラックスの無い領域では中央のアノード領域は明るく輝き、フラックスの一部が溶融池にはいるとその明るさが低下する。さらに溶接が進行しフラックスが多量に溶融池に侵入すると明るさはさらに低下し、溶融池の動揺が増す。フラックスの層が溶融池を覆っているように観察される。 (030612a4f100, 160×120, 15秒) 130)
Phantom-V7、100fps。フラックスの無い領域からフラックスのある領域への過度状態の撮影。硫黄濃度が低い場合には、フラックスの無い領域では中央のアノード領域はあまり明るくない。フラックスの一部が溶融池にはいるとその明るさが低下する。さらに溶接が進行しフラックスが多量に溶融池に侵入すると明るさはさらに低下し、溶融池の動揺が増す。フラックスの層が溶融池を覆っているように観察される。 (030612a6f100, 160×120, 15秒) 131)
フラックスの無い領域からフラックスのある領域への過度状態の撮影。フラックスの一部が溶融池にはいるとフラックスが溶融池表面に拡散し、金属蒸気の発生量が低下する。さらに溶接が進行しフラックスが多量に溶融池に侵入すると明るさはさらに低下し、溶融池の動揺が増す。フラックスの層が溶融池を覆っているように観察される。 (he150-nf, 1256×200, 42秒) 131)

次ページ 2017.05.13作成 2017.05.13改訂