5.7 高水深中における切断(2)直線切断
右の表に示してあるのが、横置き式圧力チャンバでの実験に用いた電極の仕様です。予備知識のない状態で、いきなり高圧状態で酸素アーク切断を実施するのは無謀と思い、まず、(A)3.2mmφと(B)6mmφの手溶接棒を防水仕様にし、実験手順の確認を兼ねて水中及び加圧空気中でビード置き溶接を行い、棒の消耗速度に雰囲気圧力がどのように影響するのかについて検討しました。直線式高圧チャンバの実験では、主に(C)5mmφと(D)8mmφの切断棒を使用しました。
右の写真は簡易スライダ方式の重力式切断装置です。この実験を行っていた当時はサイリスタ式の電源が一般的で、写真左側に二つ並んでいる電源で分かるように電圧は手回し式のハンドルを回して、変圧器の漏洩磁束の変更をする形式でした。重量も相当重く移動に苦労していたことを覚えています。単にトランスがあるだけの電源だったので、直列につないでアーク電圧を高くするのが容易で、高圧実験には重宝していました。最近のトランジスタ電源で非常に高い電圧を必要とする実験が可能かどうか少し心配しています。
右図に6mmΦの被覆溶接棒を用いて水中と大気中とで雰囲気圧力が消耗速度にどのように影響するのかについて検討した結果を示しています。参考のために、3.2mmΦの小径溶接棒を水中で使用した結果についても破線で示しています。横軸は雰囲気圧力、縦軸は単位電流・単位時間当たりの切断棒消耗量です。6mmφの溶接棒には300Aを流して消耗速度を測定しました。全て雰囲気圧力が増加すると比溶融量は減少しています。
加圧空気中での消耗速度は水中での消耗速度より遅い結果が得られています。3.2mmΦの小径としては250Aの過大電流を使用しているため、水中のみで実験をしています。大気中に比較して水中では同一電流ではアーク電圧が高くなります。消費電力は電流×電圧なので、水中の方が電力量を多く消費しているので水中の比溶融量が高くなることはすんなりと納得できます。
雰囲気圧力が増加した場合にもアーク電圧は増加し、電極自体の消耗速度は低下する傾向を示します。右図に雰囲気圧力とアーク電圧との関係を示します。アーク電圧は、水深の増加と共に若干増加していく傾向を示し、水深70m相当の圧力0.8MPaでは大気圧より約10%アーク電圧は高くなります。
雰囲気圧力で比較すると圧力の増加と共に消費電力は増加していますが、比溶融量は減少しています。この結果の解釈は色々提案されていますが、私自身が納得できる解釈は未だ見つかっていません。
切断酸素が存在すると圧力と比溶融量の関係は逆転します。右図に示すように水深が深くなると比。溶融量は増加する傾向を示します。切断酸素圧としては、雰囲気圧力+一定圧力で比較していますので、水深が深くなると切断酸素の切断棒出口での噴出速度は若干低下します。しかし、酸素密度は水深相当圧力より高いため、水深の増加とともに切断棒出口付近の切断酸素密度は高くなります。このことが比溶融量が水深に応じて増加する理由だと考えています。
右図は切断酸素の影響を確認するために、切断酸素の代わりにアルゴンを噴出させて比用有料を調べた結果です。この場合、水中でも大気中でも中空棒の比溶融量には大きな隔たりは見られませんでした。この場合にも、比溶融量は水深の増加とともに低下する傾向を示しています。水を張らずに加圧して酸素アーク切断を実施するのはやはり危険と判断して、比較の可能なアルゴンを流して見ました。空気を使用しても良かったのですが、コンプレッサの要領が不足していたため、安全サイドのアルゴンガスを使用して実験を行いました。
右図は下向き直線切断のまとめ的な図です。切断可能な長さと板厚との関係を、水深をパラメータとして表示しています。下向き姿勢の切断では、水頭圧の関係で横向姿勢に比べて切断能力は劣る傾向を示します。5mmφの切断棒に電流を200A(DCSP)、切断酸素圧を+0.5MPAにした結果です。水深が深くなるほど切断能力が低下する傾向を示していたため、一事は高水深での切断に悲観的になっていました。しかし、次節で明らかにしますが、太径切断棒に大きな切断酸素圧を用いる場合には、高水深中ほど切断能力が高くなるという結果が得られて安堵した記憶があります。
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