5章 酸素アーク切断

5.1 中空電極形状

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 通常用いられる中空電極(以下切断棒と称します)は、直径が4.8mmから8mm程度、中空部の直径は1.6mmから3mm程度になります。長さは350mmかもしくは450mmのものが良く用いられます。電極の素材は、軟鋼、セラミックス、カーボンなどがあります。カーボンは、折れやすくまた水を吸収しやすいために、利用されるのは特殊な場合に限定されます。セラミックは、消耗は少ないのですが、アーク電流が弱く切断能力が低い上に、電圧が高めになると言う問題があります。軟鋼の場合には切断能力は高くなりますが、電極の消耗速度も速くなります。効率良く切断するためには、ある程度の技量が必要です。
 電極の周囲にはアークを安定に発生させるためのフラックスが塗布されており、フラックスの種類により切断能力は変化します。このフラックスは水を吸収すると性能が極めて劣化します。水中で実用するには、フラックスが濡れないように周囲にニスなどで防水コーティングをします。この防水被覆は、フラックスの濡れ防止のほかに、切断部に水が浸入するのを防止する効果もあります。しかし、水中切断を実施している時にこの防水被覆部が溶けずにそのまま残ってしまうと、アークが発生しなくなる場合もあり、防水被覆材質の選定がある種のノウハウになっています。また、フラックスと防水皮膜は、通常は電極の消耗より遅く消耗し、結果的に切断棒と母材とを絶縁し、その間隔、つまりアーク長を常に一定に保持する機能があります。
 切断に用いる熱量を増加させるために、中空部にワイヤを入れる場合もあります。中空部は純粋な酸素に満たされていますから、最初に酸化燃焼反応が生じさえすれば、中空部に挿入したワイヤは自然に燃焼し、切断部に熱を与え続けます。このため、点火時のみアークを用いて切断棒先端部で酸化(燃焼)反応を開始させ、実際の切断中は電流を流さずに切断することも可能です。内部の補助金属として細いワイヤを多数用いる場合には、酸素と反応する表面積が大きく、ワイヤの熱容量は小さいため、非常に高温となり消耗も速くなります。断面積の大きい金属を用いると、消耗速度は遅くなります。外枠の金属を酸化反応速度が遅い種類にし、内部の補助金属を炭素量の少ない鉄にするなどの形状を工夫して確実な着火を行い、酸素供給量をアイドリング時と切断時で変更することにより、アークを用いずに連続的に切断が出来ます。長尺の切断棒を用いる酸素槍(ランス)切断が同じ原理です。
 右の表は実験に用いた切断棒の仕様です。一部の実験では、酸素の有無などによる影響の比較を行うために(A)3.2mmφと(B)6mmφの溶接棒を用いた実験も行っています。
 右下の断面図は水深200mまでの高圧条件での切断(鋼管杭の切断)に標準的に使用した切断棒(F:12mmφ)のものです。鋼管の肉厚が30-60mmと厚く内径が1m程度の鋼管の切断を行うために、長さ1m弱の切断棒を4−6本程度で切断する必要がありました。切断棒とほぼ同じ長さの切断線が必要であり、長尺になるため剛性を確保するためにこの直径の電極を用いました。
 右図は使用電流と中空切断棒の消耗速度との関係を示しています。通常の中空切断棒(上の表ではEの記号)を用いて、小形水槽で水深30cmの条件で実験した結果です。切断酸素圧力は全て0.5MPaにし、電極マイナス(正極性)で実験を行っています。切断酸素を使用する場合には、同一条件で切断したつもりでも、消耗速度はかなりばらつきます。大まかには、切断棒の消耗速度は、切断棒の断面を流れる電流密度にほぼ比例し、断面積の小さい小径の切断棒ほど、また、電流が大きいほど、消耗速度は速くなります。簡単な言葉で言い換えると、切断棒の消耗速度が切断電流に比例しています。各切断棒について、単位時間(s)単位電流(A)当りの消耗量(kg)が一つの数字で大まかに表現できるということです。図中の数字をミリグラムあたりの数字にすると、外径12mmの切断棒では8.12、外径8mmの切断棒では8.19とほぼ同じ値となります。外径5mmの切断棒では少し小さい値6.64となっています。5mmΦ切断棒の酸素を噴出する内径は2.1mmであり、外径8mmの1/3、外径12mmの1/4程度の断面積しかありません。棒の消耗速度そのものが早いことと、元圧が同じでも、切断酸素噴出孔出口での圧力は低下し、切断酸素の総量も少ないことなどが影響するものと考えています。
 切断開始時の挙動は穴あけ作業と同一となります。切断を始めたいところに切断棒を持っていき、アークを発生させます。アークの発生と同時に切断酸素の供給を開始すると、切断が開始されます。裏面まで完全に貫通するまでは、高温の溶融金属とスラグ及び切断酸素が上方に吹き上げてきますから、注意が必要です。裏面まで貫通した後は、切断する鋼材の板厚に応じて切断棒を切断進行方向前後に適当な速度で移動することにより、最適な切断速度を選定します。銀行強盗ドラマで金庫の厚い扉を焼き切るシーンなどで用いられている手法です。

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