6.アーク切断(暫定版)

6.1 アーク切断原理と各種アーク切断法(暫定版)

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アーク切断の種類  アーク切断はアーク放電により生成する熱を利用して目的物を溶融切断する技術です。酸素と鉄の燃焼反応を利用したガス切断とは異なり、切断に必要な熱エネルギを外部から電気エネルギとして与える切断技術です。このため、高エネルギ密度の電気的な熱源を如何に用意するかが重要なポイントになります。より目的に合致した切断を行うために、多くの手法が開発されてきました。これらの手法は、電極の種類や形状及び用いるガスなどにより分類されています。代表的なアーク切断法を右表に示します。これらのうち、酸素アーク切断やプラズマアーク切断は、非常に良く用いられる有力な切断法ですから別のセクションで紹介します。
 本章ではその他の切断法を紹介します。用いる電極の種類により分類すると、電極が消耗しない切断法と電極が消耗する方式の2種類に大別されます。前者の代表にはプラズマアーク切断があり、後者には酸素アーク切断法や溶極式ウォータジェット法あるいはアークソウ切断法などがあります。アーク切断の原理図
 アーク切断は、アーク熱を熱源として加工物を溶融切断する方法ですから、ガス切断とは異なり、ほとんどの金属材料の切断が可能です。アーク発生部はプラズマ状態(高温の電離状態)になっているために、水深が深くなり周囲圧力が増加すると、アーク放電の状態が変化し、結果的に最適な切断条件は水深により変化してしまいます。このため、アークを利用した切断法の場合には、作業水深に適した切断条件の選定と、電力の供給方法及び漏電や電撃防止方法などが重要な課題となります。
 水中での実用的なアーク切断は、ジェット水を用いる手法となり、この場合アーク放電部はジェット水により緊縮されて、アーク長は短く、また、電位傾度も相当高くなります。このため、例えば溶極式ウォータジェット法の場合には、切断能力に及ぼす水深の影響はさほど大きくはなりません。以下に代表的な各種アーク切断法について簡単に紹介します。
 まず、アークのみを用いる切断法として、以下の2種類があります。
(1)カーボンアーク切断
カーボンアーク切断原理  カーボンアーク切断法は最初に開発された切断法で、ガスを用いずに、カーボン電極から切断材に流す大電流による熱溶融効果だけで母材を溶かし切る方法です。カーボンは大電流を供給可能で、カーボン電極の消耗は比較的少なく、成型も容易です。電池を電源にして切断することが可能なために、持ち運びが容易で20世紀前半に利用されました。この方法は、局所的な大電流アークにより発生するガス圧力と電磁気力と重力を用いての熟練を要する溶断法です。溶融(切断)溝幅が広く、切断面も粗いため、その実用的な価値の低い切断法でした。実用化の過程で、溶融金属を吹き飛ばすためのガスや電極材質の変更、あるいは切断に適した電源と切断法の開発が進められ他結果、現在ではほとんど使われていません。
(2)被覆棒アーク切断
 被覆アーク溶接棒に大電流を流して切断する方法で、原理はカーボンアーク切断と同じです。この方法もほとんど使われませんが、通常の被覆棒によるアーク溶接装置の電圧を高く設定するだけで実行できます。このため、現場での補修溶接作業など、専用の切断装置が手元に無い場合に、部分的に溝堀や穴あけあるいは分離のための溶断をしなければならない事態で、応急措置的に使われることがあります。この方法もカーボンアーク切断と同様、溶融させた金属を強制的に吹き飛ばすための流体がなく、切断には熟練を必要とし切断面の品質が悪く、更に300mm程度の短い電極を使用するため1本の電極で切断できる長さは短く、作業能率も悪い切断法です。
 次にガス流体を用いたアーク切断法を3種類紹介します。
(3)ミグ(マグ)アーク切断
ミグアーク切断の原理図  連続的にワイヤ電極を供給するMIG/MAG溶接機を流用して、大電流を流して切断する方法です。シールドガスを流さなくても切断は可能ですが、不活性ガスを流すほうが切断効率は上がります。大電流アークを用いますから、アークは緊縮し電極の側面と母材の切断溝の間でアークは発生し、瞬間的にワイヤと母材側面は高温で溶融し、その時に発生するガスや電磁気力などの力により切断溝から溶融した金属が排除されます。しかし、切断裏面で溶融金属が再凝固しやすいことや切断面が粗いことなどの欠点があります。
(4)エア−カーボンアーク切断
 カーボン電極と母材との間で発生するアークにより母材を溶融し、空気を溶融部に高速度で吹きつけて切断や溝堀(ガウジング)をする方法です。カーボン電極は比較的消耗しにくく、大電流を流せます。このため、酸化反応に依存せずに安定した切断とガウジングが可能です。中空電極にして内部から空気を吹き付ける方法と、カーボン電極の周囲に別の空気噴出し口を設置する方法があります。また、水中では、圧縮空気の代わりにジェット水を噴出させる場合もあります。酸素アーク切断やガス切断に比べると、母材の温度上昇は少なくなります。カーボン電極が折れやすく、短い電極しか使えないことも欠点となっています。
(5)ガスタングステンアーク(GTA)切断
 ガスタングステンアーク溶接装置を用いて、大電流にしてシールドガスも多く流す方法です。カーボンアーク切断や被覆棒アーク切断と同様に、周囲に適当な切断器具が無い場合のほかには用いられることはありません。特に水中では、水が電極に触れる危険性が高く、水中で用いられることはありません。
 GTA溶接ノズルのように、ガスを流す開口部が広い場合には、ガスが溶融金属を吹き飛ばす効果が小さく、切断には不向きです。開口部を狭くしたプラズマ切断法が開発され、広く使用されています。
 一般的にガスを用いるのは効率が悪いために、水を用いて溶融金属を効率的に吹き飛ばす方法が多く開発されています。代表的な水を用いるアーク切断法を2種類以下に示します。
(6)溶極式ウォータジェットアーク切断 溶極式ウォータジェットアーク切断の原理図
 ミグ切断では、作動流体としてガスを使用しているために、水中ではシールドガスの勢いが急速に衰えてしまい、良好な切断結果が得られません。溶極式ウォータジェット法はミグ切断のこの欠点を改良して、シールドガスの代わりにジェット水を用いています。連続的に供給する細径電極(ワイヤ)と母材との間でアークを発生させ、溶融した金属をジェット水で除去しながら切断します。ジェット水がアークを緊縮し、切断材の下方にアークを押し流すのと同時に溶融金属をも吹き飛ばすために、溝幅の狭い切断が可能です。ジェット水は消耗電極に電力を供給するチップを冷却する効果もあるために大電流アークを用いるにも関わらず、トーチ自体は非常に小型化できます。
 十分な電流容量を有する電源を用いて、ワイヤ送りを早く、電圧を低く設定することにより、電極直径の2倍程度の切断幅の切断が可能です。ジェット水でアークを緊縮させると同時に溶融した金属を吹き飛ばすため、多くの場合アークは上側から下側に移動します。右画像は、軟鋼12mmtをアーク電圧22Vで切断している状況を後方から白黒高速度撮影した映像です。画像もしくは下線部の着いた文章をクリックすると別タブで映像を再生します。電圧が低い場合には、裏面部でアークは早めに消滅するため裏面の溝幅は広がりにくくなります。電極ワイヤ速度がかなり速いことが理解できると思います。ドロスやアークがジェット水により下方に押し流されている状況も感じ取ることは可能です。
 電圧が29Vと高い場合には、アークは裏面に近づくほど広がる傾向を持ちます。この映像のように薄い板を切断する場合には可能性は低いのですが、上側で溶融した切断屑は下方に移動する過程で再度ワイヤと母材との間で短絡して再溶融する場合も多くあり、肉厚が厚くなるほど切断効率は低下します。電圧が低すぎると短絡する危険性は高くなります。
 アーク放電は切断部と消耗電極の側面部とで生じ、短いアーク長、すなわち狭い溝幅での切断が可能となります。板厚に応じた適切な太さの電極を用いて、電極の送給速度を適正に調節することにより、厚板でも比較的低い電圧で切断ができます。ジェット水の噴出圧力は0.4-0.8MPa程度が適当で、ノズルの内径は電極径より3-5mm程度広いものが使用されます。電源には定電圧特性の電源が用いられますが、作業性を上げるために上昇特性の電源が用いられることもあります。電極の極性はプラスでもマイナスでも良く、また交流でも切断は可能です。次節以下でこの切断法の詳細を紹介します。
アークソウ切断の原理図 (7)アークソウ切断
 アークソー切断は毎分1000-1500回転程度の高速度で回転している円盤電極と加工材との間でアークを発生させて母材を溶融させ、同時に切断部に噴射するウォータジェットで溶融した金属を連続的に排除する切断法です。円盤電極はマイナスに接続しており、アーク電圧は25-30V程度の電圧が用いられます。実際に流れる電流は板厚により異なりますが、1万A以上の大電流が流れることもあります。この切断法は切断速度が速く、厚板の切断が可能であるという特徴があります。切断溝幅は狭いのですが、切断面と円盤電極側面部で、除去された金属が接触し放電してしまうことがあり、円盤電極損傷と余分なエネルギ消費が問題になります。

次ページ(6.2 溶極式ウォータジェット切断)  2013.11.25作成 2016.8.4改定