7.1 メガフロートとは
メガフロートとは、巨大な(メガ)浮体(フロート)式の海洋構造物のことです。人口の密集した地域に、新たに飛行場や公害防止施設あるいは電力発電所を建設する事は、立地的に難しくなってきています。このような公共施設は、人口の密集した地域のすぐ近くに存在して効果を発揮する施設ですが、騒音や汚臭などの問題から、あまり近くにあるのは嫌われる施設でもあります。
この解決策として考えられたのがメガフロートです。浮体式にすることで、周辺の潮の流れや生態系には大きな変化を与えず地震にも強いという特長があり、運用が終了した時点で構造物を解体して撤去すれば、元の状態に復帰できます。しかし、実際に浮体式の飛行場の運用実績が無いために、その経済性や実現性は分かっていないことが多数ありました。そこで、日本国内の鉄鋼企業や造船企業が共同して、メガフロート技術研究組合を設置して、1995年から6年間かけて、建設施工から運用におよぶ多岐の項目について評価研究を実施しました。
水中溶接・切断技術は、メガフロートの建設、補修、改造、解体など、その実現に欠かせない技術の一つです。 私はメガフロート技術研究組合と共同で、メガフロートに適した水中溶接・切断技術の開発を実施する貴重な体験をしました。実際の建設・施工に必要な技術を確立する作業は、責任感が必要なことは確かですが、国立研究所内だけの仕事では味わうことのできない、現場の実務者との緊張感ある楽しい体験でした。
メガフロートは、(Mega-Float)ギリシャ語で大きいという意味のMegaと英語で浮体を表すFloatを合わせた造語です。英語ではVLFS(Very Large Floating Structure)と呼びます。
実際の工程では、各地の造船所や工場で箱型の浮体ユニットを平行して生産し、設置海域まで移送しそこで全体構造に接合する方式の実証試験が行われました。通常の溶接構造では、熱変形を小さくするため、溶接は中心に対して対称に実施します。メガフロートでは、各地で別個に建造した大きな浮体ユニットを順次溶接で組み立てていきます。波浪の影響を少なくするために防波堤を利用することが想定されており、作業工程上、非対称な溶接を実施しました。また、実際の空港の場合には数kmの規模の構造物であり、溶接線の全長も同じ規模となり溶接歪みも相当な規模となります。陸上での溶接では、水平面を出した支持体の上で組立てられるため、自重や摩擦抵抗による拘束力が作用するため、構造物の熱変形はかなり小さくなります。一方、メガフロートの場合には、海の上に浮かんでいるため、全体の構造に対する熱変形を抑止する力は非常に小さくなります。これらの歪みを如何に実用的な規模に低減させるかについても研究が重ねられました。
また、現場での接合では短時間で溶接作業を完了させる必要があります。箱型構造では多くの区画に区切られる構造となるため、この区画を利用して水を排除して溶接を行うさまざまな手法が検討されました。上部から圧縮空気を送風して内部の水を排除する圧気方式(ハイパーバリック法)や、チャンバやボックスを利用して底部をシールし、水を排出する手法(コファーダム法)などの得失などが検討されました。
最初(フェーズ1)に、幅20m長さ100mの浮体ユニット9つを実際に海上で接合して、幅60m長さ300mの浮体を完成させました。この過程で様々な水中溶接法を実験し、個々の溶接接合手法の特徴(優位性と問題点など)を明らかにしました。その知見を基にして、長さ1000mの浮体を建設(フェーズ2)し、実際に飛行場として長期運用する上での基礎技術の開発を行いました。
メガフロートの特長の一つは、不必要になった場合には構造物そのものを解体して、現場海域を元通りの状況に戻せるというところにあります。プロジェクトの最終段階で、長さ1000mの浮体を小さく解体して、海上海釣り公園やスクラップとして利用しました。水中切断総延長が1000m以上の自動海中切断を実施しました。その際に、水中溶接を実施した場所を切り取り、非破壊検査などを行い、水中溶接が良好に行われ、実際の強度も陸上での現場溶接と同等であることを証明しています。
次ページ 2016.03.12作成 2016.06.09改定