水中溶接 6. GMA溶接(現在作成中です)

6.1 GMA溶接の基礎

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 GMA(Gas Metal Arc)溶接は、ワイヤを連続的に溶接部に一定速度で送給し、ワイヤ先端はアークにより溶融して小さな液滴となってアークプラズマ中を母材に向かって飛行し、溶融池に到達して溶接金属となります。アークの電力は銅製のコンタクトチップより供給し、ワイヤ先端はアークにより高熱になり溶融しています。溶接ワイヤは一定の速い速度で送られますが、コンタクトチップのところではほぼ室温に保たれており特には冷却する必要もありません。これらのことから、トーチは非常に小形であり、操作性がよいためロボット化・自動化に適しています。
 シールドガスは、アルゴンなどの不活性ガス(ミグ溶接:Metal Inert Gas)、炭酸ガス(炭酸ガス溶接)、アルゴンに炭酸ガスや酸素を混ぜたガス(マグ溶接:Metal Active Gas)を使用します。ガスの組成によりワイヤ先端部での溶けかたなど溶接現象が相当変化します。
 「3章 基礎知識1の 3.10 溶接用電源の特徴」で説明していますが、GMA溶接では定電圧電源を使用します。定電圧特性電源ではアーク長の変化によって電流値が変動し、同時にワイヤ溶融速度も変化します。右図において、アーク長がL1からL2に長くなると,電流はI1からI2に減少します。電流が減少すると、ワイヤの溶融速度が減少しワイヤ先端部は母材側へと接近します。アーク長は元の長さL1へと移動することになります。反対にアーク長がL2からL1へと短くなると、電流はI2からI1へと増加しワイヤ溶融速度を低下させ、アーク長は元の長さに戻る傾向を持ちます。このような定電圧特性電源のアーク長を一定に保つ作用を「アーク長の自己制御作用」といいます。この作用は、ワイヤ径が小さく高電流密度で高速にワイヤを送るGMA溶接の電源として極めて重要な特性です。垂下特性および定電流特性電源には、このようなアーク長自己制御作用はなく、逆にアーク長が変動しても流れる電流に変化が小さいため、太い径の電極を用いる溶接に利用されます。

 インバータ制御方式のアーク溶接電源では、インバータの制御周波数が数kHzから数10kHzであり、サイリスタ制御方式に比べて制御の応答性がよく、電流波形を高速で制御することができます。溶接変圧器の大きさは、インバータの制御周波数に反比例し、インバータ制御方式の電源の大きさは、サイリスタ制御方式の電源に比べて非常に小さく軽くなりました。
 右表にインバータ制御電源の特徴を示します。サイリスタ方式に比較して、制御回数が大幅に増加し、応答速度が格段に速くなっていることが特徴です。高い周波数を利用して電源電圧を変換しているため、変圧器の鉄心の表面部分に電流が集中します。このため鉄心の断面積が非常に小さくなり、結果的に小形・軽量化されています。
 軟鋼の炭酸ガスアーク溶接や高張力鋼のパルスマグ溶接及びアルミニウム合金のミグ溶接などは、直流電源を用いて、ワイヤ電極をプラスにして使用します。GMA溶接の溶接条件とその影響についての概略を以下に紹介します。
(1)炭酸ガスは、JIS Z3253(アーク溶接及びプラズマ切断用シールドガス)のC1、JIS K1106(液化炭酸ガス)3種または溶接用炭酸ガスを使用します。
(2)Ar+CO2混合ガスを用いる場合、ガス混合比の変動は作業性に大きく影響するため、安定した混合比のガスが供給されるよう管理します。
(3)Ar+CO2混合ガスを用いてスプレーアーク溶接を行う場合、アーク電圧を下げすぎると激しい短絡音が発生します。このような場合にはブローホールが発生しやすくなるので注意が必要です。
(4)シールドガスの流量は、20〜25L/min程度が適当です。
(5)2m/min以上の風が吹いている所ではブローホールが発生することがあるので防風対策を施して溶接します。
(6)作業場の状況に応じて換気します。
(7)チップ、ノズルと母材間の距離は、溶接電流250A以下では15mm前後、250Aを超える場合は20〜25mm程度に保ちます。
(8)マグ溶接では、溶接条件によってビード外観、溶込み状態が大きく変化するため、使用目的に応じて適正な溶接条件を選択します。

溶接作業を安全に実施するための注意事項
(1)ガスシールドアーク溶接時に目を保護するためのフィルタプレートの遮光番号は、溶接電流が100-300Aでは11か12が推奨されています。
(2)被覆アーク溶接時に目を保護するためのフィルタプレートの遮光番号は、溶接電流が75-200Aでは9−11が推奨されています。
(3)JIS T8141遮光度番号が10以上の時には、フィルタープレートフィルタレンズとして10よりも小さいものを2枚重ねることが推奨されています。遮光度番号が14の時には足し合わせた数字が14より大きくなる7と8の組み合わせが基準となります。
 フィルタプレートを用いるおもな目的は紫外線から目を守るためです。マグ溶接や炭酸ガスアーク溶接の放射光は、同一電流の被覆アーク溶接よりも強力です。
騒音対策(難聴予防)
(1)JIS T 8161「防音保護具」では、全音域を遮音する第1種と高音域を遮音する第2種にわけて規定しています。
(2)大きな騒音は耳鳴りのような一時的障害を起こし、長時間騒音に暴露されると難聴になる危険があります。障害予防のために、会話が可能で高音域のみを遮断する第2種の耳栓をします。ガス切断では周波数の高い音域での騒音は発生しないので、耳栓をしなくて良いとされています。

次ページ  2016.04.14作成 2017.04.04改定

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