7.4 実海域での問題点
海洋構造物には、用途機能により様々な種類の施設が存在します。
海洋構造物には巨大な波浪の力が作用します。構造物の固有周期が波の周期と同調しないように設計されますが、設置水深が深くなるのに伴って構造物が巨大化し、構造物の固有振動周期は長くなり、波周期に重なるようになります。一般的には、海洋構造物をある水深以上に設置する場合には、構造の形式を変えることにより固有周期を波の周期より長くして、波浪の影響を小さくする工夫をしています。構造物は鉄鋼パイプを用いた構造が一般的ですが、設置水深が深くなると、自重を支えるためにより肉厚の構造が要求され経費が増大することも構造形式を変える要因となっています。
潮の満ち干や波浪が、構造物に作用する普通の外力となります。1年の周期で考えると夏場の台風や冬場の強風を伴う波浪など周期的な変動を伴う外力があります。また、台風や地震による津波などの非常に大きな外力も作用します。一般的には百年に一度の希な巨大外力に耐える構造物を設計します。しかし、安全性を過度に考慮すると、経済性の観点から存立が不可能になる場合も多く、経済性と安全性との間の微妙な駆け引きで構造物が建造されています。
浅い海域の構造物は港湾や橋脚など人も含めた物質の輸送に関わる施設が多くありますが、設置水深が深くなると構造物を建造しても経済的に成立しうる石油生産施設がそのほとんどを占めます。
メガフロートは薄っぺらの羊羹が波にのっている構造であり、構造物には波浪の力が大きく作用します。うねりのような波長の長い波がメガフロートにかかると全体が大きく変形することになります。ある程度撓んでも安全な構造を追及するとともに、外部に設置した堤防で構造物に直接大きな力が作用するのを防ぐことにしています。浮体そのものは水深に影響せずどこにでも設置し出来ますが、防波堤が必須となる海域では、この防波堤を建造する工事が全体の工期と経済性を左右する大きな要素となります。
将来、実際に巨大な洋上空港を建設するために要求される基礎的な情報を集めて確認することが、メガフロート技術研究組合の目的でしたから、まず手始めのフェーズ1では、9個のユニットを手順を踏んで接合しました。9個と言う数は、実際に起こりうる場合を想定した最小の組合せで、完全に他のユニットに囲まれる部分が存在します。洋上で接合する際に起こりうる問題点を掘り起こし、解決策を見つけること、頭の中だけでは見つからない現実の問題点を明らかにすること、いろいろな水中溶接手法の特長を理解すること、溶接変形がどの程度起こるかを理解することなどが、このプロジェクトの施工部門の重大な課題でした。このため、防波堤があらかじめ設置されていて、構造物を係留できる有効な海面が存在する首都圏内の横須賀市の住友重工業沖の海域が実験場所に選定されました。
フェーズ2の課題は、前節で記述したように、構造物の波浪応答と航空管制計器への地磁気影響の評価などが主題でした。このため、大き目のユニットを3個作成し、この3個とフェーズ1のユニット系4個を洋上で接合しました。水中溶接はフェーズ1でその有効性を確認された、圧気(ハイパーバリック)方式で行っています。
次ページ 2016.03.12作成 2016.04.18改定