4.水中ガス切断

4.9 メガフロートの水中ガス切断による解体

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メガフロート全景 (1)メガフロート解体の概要
 巨大な浮体式の洋上空港を現実にするための基礎技術開発を目的としたメガフロートプロジェクトの終了に当たり、建造した1000mの巨大な浮体(右図は飛行機のローパス実験の様子)を洋上で解体しました。経済的な切断技術として水中ガス切断が採用されました。解体されて小さく改造された浮体は洋上海釣り公園などの用途に再利用されています。清水市で利用されていた浮体が福島第一原子力発電所の汚水タンクとして再利用されているのは記憶に新しいところです。メガフロートの水中ガス切断について紹介します。下の図は上の写真とはほぼ180度回転した図になりましたが、赤い線で示したところを水中ガス切断を行いました。水色の線は潜水士による酸素アーク切断を実施したところです。
 長い距離を直線的に切断できるところを、自動水中ガス切断で切り離し、切断線が短く複雑なところは潜水士が手動酸素アーク切断で切り離しました。
メガフロート切断ライン
 下図は切断後の再利用方法を示しています。右下のG清水港海づり公園と記載されている浮体が現在福島に移動しています。
解体後利用計画
torch  右図に切断装置と切断トーチの概要を示します。装置類は、当時のメガフロート係留海域に隣接する住友重機械工業のガス切断装置を利用しています。切断火口は、小池102D7#4を用い、予熱炎はアセチレンを0.9k9/cm2、切断酸素圧は5.0kg/cm2、切断部をシールドするための空気流量は60-120L/minです。切断速度は通常20cm/min(最高30cm/min)で、切断機械1台当たり1日に60mの切断をこなしました。潜水士による酸素アーク切断では、概ね1日15mの切断が限界なので、経済的な解体作業を行うことができました。下の写真はさまざまな切断作業の状況です。 MegaFloat_Dismantling
最終的に約1000mほど水中ガス切断を実施しましたが、実施に当たって危惧していた点は、(1)切断開始時は、なかには水が無く乾いた状況ですが、切断孔が貫通するとしたから海水が内部に噴出してきます。その時、予熱炎の停止や切断失敗などの不具合が生じないかというのが第一点です。切断条件を適正に選定することで、確実に切断が進行できるようにしています。上に示した切断写真にもその状況が写っています。
 2点目は、海つぼや海草などの生物付着が切断性能に悪影響を及ぼさないか、という危惧です。下の写真左側のように、問題なく完璧な切断が完了しました。切断裏面の状況実際の切断中の状況が右側の写真です。生物付着は切断能力にはほとんど影響せず、切断の進行と共に次々に剥離して落下する状況もありました。

(2)動画で説明するメガフロート巣中ガス切断の概要
 洋上に浮かぶ空港などを実現させるためにメガフロート技術研究組合が横須賀沖に全長1000mの実証実験用の浮体構造物を建造しました。実験終了時に自動水中ガス切断装置を用いて水中切断長さ1000m以上の経済的な切断を実施しました。その記録映像を紹介します。画像または下線のついたキャプションをクリックすると、別タブで映像が再生されます。
 最初の動画は、メガフロートの水中ガス切断の重要な映像を編集してひとまとめにした動画です。腰まで海水につかりながら、切断装置の横に張り付いて切断状況や海水中の切断部の状況を観察している映像が最初にあり、次に内面の切断部の状況、海水に覆われた裏面部に貫通した切断部から切断ガスとドロスが吹き抜ける様子などの映像をまとめています。
 右の動画は、切断台車の横に、腰まで海水に遣って、自作観察装置で切断状況をチェックしている映像です。切断中に切断台車が水没しないよう、海水の最終到達点の上にレールを設置しています。切断初期の段階では、複数の関係者が切断台車の横にへばりつき、切断部の状況や全体状況に異常がないかどうかを監視しながら現場海域における最適な切断条件を探りました。
 右の動画は、貝殻や海草にに覆われた裏面まで切断部が貫通し、画面上から中央部に向かって切断が進行している状況の映像です。裏面全体がうまく見えるような撮影条件では、切断進行部はあまり明瞭には認識できません。絞りを絞って、全体の映像を暗くすると切断部の光が確認できるようになりました。切断は画面中央上から下方に進行しています。
 右の動画は、前の動画と同様に貝殻に覆われた裏面切断中の映像です。裏面側に噴出しているガス炎が明瞭に視認できるような撮影条件の映像です。この撮影条件では、貝殻や海草の繁茂状態ははっきりとは分かりませんが、ガス炎の状態は明瞭に理解できます。裏面がきれいな鋼板のみの場合には、裏面に吹き抜けたガスが裏面に滞留する様子が分かるのですが、海草が多すぎてその状況は観察できません。
 右の動画も、海草や貝殻に覆われた裏面切断中の映像です。この映像からは、裏面に大きく付着した海草の状態が良く分かります。裏面には重塗装が施されており、メガフロートが広大なために、裏面に光はほとんど到達していない状態が3年以上続いていましたが、海草はしっかりと繁茂しています。
右の画像も、貝殻に覆われた裏面切断中の映像です。切断は前の映像と同様に画面中央部を、上から下へと進行しています。この映像では、画面左から右にかなり速い流れが存在していることが確認できます。メガフロートは堤防に囲まれた内水面に係留してあるので、何故このような流れが存在しているのかについては、確認していません。
 右の映像は、メガフロート内部から切断トーチ近傍の切断中の状況を撮影した映像です。内部の水もかなりにごっており、少しピントが合っていませんが、トーチ付近がかなり明るく映っています。
 解体して切り出す小型浮体は別用途に使用するため、切断に先立ち、内部が乾いた状態のときに次の用途に合わせて塗装を済ませています。そのため、隔壁近傍を切断しており、内部の撮影はかなり困難でした。
 右の映像も浮体内部から撮影した切断中の状況です。この章の最後に水中ガス切断中の映像を浮体上部から撮影した映像を掲載しています。このような狭い場所で切断中の内部映像を撮影することが困難であることが分かります。

(3)解体後の再利用の状況
CutFloat  大きなプロジェクトにつき物の様々なエピソードがありましたが、右の写真のようにサッカーワールドカップ日韓大会の前夜祭会場として利用されたという前向きなものもあれば、解体後スクラップとして売却先の韓国に移動途中、荒天に遭遇して、三重県志摩郡志摩町麦埼沖の浅瀬に漂着するということもありました。2002年1月21日に韓国籍タグボートが曳航していたメガフロート(全長100m 幅60m)の曳航索が外れて漂流し、浅瀬に漂着した後、志摩町の海岸へ乗揚げた事件です。「物見の客が押し寄せ、屋台も出た」というテレビニュースの記憶はいまだに残っています。
 右下の写真は、解体作業中の状況、切り離し作業、海つり公園全景、スクラップの一時保管状況です。切断作業もほぼ終わろうとしているとき、翌日の切り離し作業のために、1m程度を残した状態で切断作業が終了しました。ほぼ切断が完了しているので、二つの浮体は構造的には別個の浮体となった状態です。おりからの波浪により二つの浮体は異なる位相の動揺を始め、切れ残し部分に大きな負荷がかかり、浮体の同様の程度に応じて大きく変形し、きしむ音とともに今にも引きちぎれそうな状態が印象的でした。
 メガフロートプロジェクトは、メガフロート技術共同研究組合に参加した企業の自助努力で実施したプロジェクトであり、経済的な解体でプロジェクトを終了することができたのは幸運でした。
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 メガフロートの水中ガス切断は、住友重機械工業(当時)山下泰生さん、佐々木徹さん、日本鋼管(当時)米澤雅之さんを始めとするメガフロート技術共同研究組合のメンバーによる献身的な努力で遂行されたことを、付記いたします。

次頁(4.10 メタルジェット)   2014.11.07作成 2016.8.17改定

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メガフロート

・メガフロート(Mega-Float)とは超大型浮体式構造物のことで、巨大人工浮島とも呼ばれます。

・「メガ=巨大、フロート=浮体」を組合せた造語です。タンカーなど従来の船舶より大型の人工浮体構造物を指します。

・メガフロートの工法と技術の開発を目的にメガフロート技術研究組合が設立され、1995年から3年間は基本技術開発を、1998年から3年間で実用レベルの技術開発(洋上滑走路を想定)が行れました。

・今は、財団法人日本造船技術センターが成果を保持しています。