4.ガス切断

4.7 水中ガス切断現象

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ガス切断条件  水中では周囲の水が、予熱炎で暖めた母材の表面を冷やしたりするなど、効率的な水中切断を邪魔する危険性があります。如何にして切断部の環境を陸上と同様にして、水中でも陸上と同様な精密な切断が行えるようにするかについて検討してきました。最も単純な解決策は、切断ノズル先端部に保護筒を付け加えることです。保護筒を付け加えると、切断したい部分への周囲の水の侵入を防止でき、予熱炎の安定な燃焼と、切断部の酸化反応の安定化が可能です。
 切断可能な板厚と速度は、切断酸素の流量と予熱炎の強さに影響されます。このため、板厚が厚くなれば、切断酸素噴出孔径を大きくし、同時に予熱炎の強度も上げる必要があります。また、切断速度は遅くなります。
 ガス切断実施中は、高速度の酸素が噴出し、切断部では強烈な燃焼反応が生じています。このため、切断を開始するために予熱を行っている状態と、実際に切断反応が生じている状態とでは、切断酸素噴流の有無と燃焼による発熱の有無が大きく影響し、様相が全く異なっています。このために、切断ノズルの設計においては両者を区別して考えなければなりません。切断部への水の侵入を防止する方法として、保護筒を設置し空気を流す方法があります。
 実験室レベルの小型装置による実験では、実際の現場で使用するときの問題点になかなか気づかないこともあります。実際の工程では、切断箇所に近づき切断部を切断可能にある程度まで清掃し、切断装置をセットし、それから切断開始と言う手順になります。
 切断開始に至るまでには長時間の水中作業があり、切断トーチは水中に露出した状態となり、切断酸素孔や予熱炎噴出孔などに水(海水)が侵入できる状態となります。この期間に、どこまで、どの程度の水が入ってくるのかが問題となります。水が浸入しうる領域によっては切断中に内部に侵入した水が不具合を起こす危険性もあります。
 水中では、切断部を監視することはほとんど不可能ですから、保護筒を母材に押し付けて、火口高さを一定に保ちます。この方法により安定した切断が可能となります。しかし、水中ではシールド用の空気が大きな塊となり、ノズルから間歇的に抜け出すことが多くあります。この塊がノズルを抜け出す反対側、あるいは、抜け出した瞬間に、周囲の水がノズル内に浸入してしまいがちです。このような状態が発生すると、予熱部が急冷され、発火温度まで母材温度が上昇しなかったり、切断部表面が粗くなったりします。この欠点を解消する方法の一つに、保護筒の外周からスカート状に水或いは空気を強く噴出させる方法があります。この方法を用いると、切断部への水の侵入は防止できます。しかし、この方法で水の浸入を防止するには、常にノズルと母材の間隔を一定に保つ必要があるため、手動では用いにくく、自動化が前提となります。
 ガス切断結果に水がどのように影響するのかについては、色々な観点で考えて実験を重ねて手持ちデータを増やしておくことが重要です。頭の中だけで考えて、理想的な条件の実験のみを行うのは手軽です。しかし、水中溶接・切断の最終的な適用現場は、災害現場あるいは原子力発電施設の解体など、尋常ではない環境が多いと考えていました。そのため、一見無駄に見える、どうでも良いことも一応は実験を試みて、それらの些細なことが現象や結果にどのように影響するのかについての知識を蓄積してきました。右図は通常の陸上でのガス切断中に、切断部に水をかけるとどうなるのかについて調べた結果です。かけた水は一気に蒸発して飛散しますが、切断自体は何事も無く進行しました。切断品質にはやはり若干の影響は現れています。本当はホースから水を噴出させて調べればよいのですが、切断が停止することは自明と考え試してはいません。水中において水カーテンでシールドした状態で、ホースに水をかけるとどうなるかは実験すべきですが、定量化が難しいので波浪の影響について調べました。
 水カーテンノズルのシールド能力は、ガス切断トーチと母材間の距離、及び、カーテン水を噴出する角度で異なります。右の図にカーテン水を流す角度が異なる3種類のシールドトーチを使用して、ノズル−母材間距離によりシールドするのに必要な空気量がどのように変化するのかについて調べた結果を示します。角度が大きく母材に平行に近い噴出角度のノズルでは、母材と接近している限りはシールド能力は高いのですが、母材から離れると大幅にシールド能力は低下します。母材に対して角度が立ってくると、母材と衝突したカーテン水が内側にも跳ね返るようになり、シールド能力は低下します。カーテン水を流す角度は45°にした場合が最もシールド能力が高くなっています。
 水中では水深の増加に応じて周囲圧力が増加するために、切断酸素や予熱ガスの密度が水深が深くなるのに応じて高くなり、切断能力に影響が出てきます。このため、陸上でよく利用されるアセチレンは、発熱量や火炎温度が高いと言う特長がありますが、熱力学的には極めて不安定であり、加熱、圧縮、衝撃などわずかの刺激で分解爆発を起こす危険性が高く、7m程度までの浅い水深での使用に限られます。
小形トーチ外観  水中では、深い水深で利用可能な水素ガスあるいはプロパン系の混合ガスを燃料に用いることになります。また、予熱ガスは完全燃焼するわけでは無く、一部の燃料ガスは酸素と混合された状態で浮上します。このため、これらのガスが作業現場に滞留し、発火・爆発事故につながる危険性もあります。作業には細心の注意が必要となります。さらに、水中での厚板構造物の切断では、浮力などの影響により切断姿勢により切断能力に差異が生じます。ガス切断はトーチが非常に小型であり、ガスを用いていることから反力も小さいために操作性が良く、大気中では機械化されて一般的に使用されています。しかし水中では、ガスの噴出による水の排除作用により、トーチに生じる反力は大気中に比べて大きくなり、その影響は無視できなくなります。
自動点火トーチ  水中での点火は、高周波発生装置を用いて、テフロンチューブで被覆した直径1mmのタングステン先端部と火口との間でスパークを発生させることにより確実に行えます。右写真の中央がガス切断火口、その左上に開いている二つの孔の内、右側の孔の中にあるのがスパーク用タングステンです、ノズルと接触しているように見えますが、接触はしていません。切断開始前の準備作業中に、この孔に水が入り短絡状態となる危険性はあります。それを防ぐために、絶縁用テフロンの肉厚や長さなどには注意を払っています。
 右の画像は高周波発生装置でスパークを発生させている状況です。この文章か右の画像をクリックすると別タブで動画が再生されます。この動画は小型水槽内で水カーテン式ガス切断装置を利用して水中ガス切断を実施するまでの状況を紹介しています。水カーテンノズルを利用すると、切断部に水が浸入するのを防いで、水中ガス切断が安定に実施できます。水カーテンノズル右の画像をクリックすると小型水槽内で水中ガス切断を実行する状況を別タブで再生します。1976年頃の実験風景で、骨董ものの映像ですが、アナログの時代ならではの状況が観察できます。アナログで実験状況などを調整していると、どのようなタイミングで実験状況を調節すると良いのかが体で分かるために、デジタル化が進展したときに設定条件を策定するのに大いに助けになったことを覚えています。
開先切断トーチ 開先切断結果  ガス切断は鉄と酸素との燃焼反応を利用する方法ですから、水中でガス切断を行う場合においては、燃焼反応を生じる部分に水が進入することを防止しなければ、確実な切断はできません。水中で確実・安全にガス切断を実施する手法として、エア・カーテンノズルが開発されています。このノズルでは、水中における点火および予熱特性の改善を目的としてトーチと切断部の間に安定な空洞を形成する構造となっています。すなわち、外筒(ノズル)部からカーテン状に空気を流出させ、切断部に安定な空洞が形成されます。エア・カーテン用ノズルの外径は35mm、空気流出間隔は0.3mmとし、空気の流出角度は45度、流量は200L/minが適当です。切断酸素は高速度で噴出されるため、カーテンの媒体に水を使用する場合、一部の水滴が切断酸素噴流に吸引され、切断に悪影響を与える可能性があります。
 実際のところ、水中溶接も含めて水中用トーチは試行錯誤で多数作成し、形式により一長一短あることを経験しています。トーチ形状の比較の節は別途作成予定です。右上の写真は開先切断用のトーチと切断結果です。水中で開先切断することはまずありませんが、条件をきちんと設定すれば大気中とそん色ない平滑な切断面が得られる例です。
 実際の切断作業は港内などの比較的平穏な作業場所が多く、海中から海表面へあるいはその逆に海表面から海中へと連続的に切断を行うことが多いと考え、波浪中での水カーテンノズルの局所乾式性能を調べています。右上の写真が、波浪中での水カーテントーチの性能を調べている状況です。約15cmの波を起こして、トーチが波をかぶる条件でシールド状態を調べました。下の写真がその結果です。(a,b,c,d)は図中左上に示した波の状態でのシールド状態です。(a)は波が下にあり、水面から上になった状態、(b)は波が丁度トーチ下面のところに来ている状態(波は図中点線位置)、(c)はトーチ上面にある状態、(d)は完全に没す意思多状態です。カーテン水の状態は波の位置により異なりますが、シールドすべきトーチ直径程度の領域では、確実にシールドされていることが分かります。
 右上(e)の映像はカーテン水は流さず、シールドガスのみを流した状態です。この場合にはシールドガスは上方に逃げ出し、トーチ領域に周囲の水が浸入して、シールドできていないことが分かります。

 右の写真は側面と斜め上方から撮影した水中切断装置です。この実験を行っているときに、たまたま別のプロジェクトでプール内に波を作る装置があったため、急遽水中ガス切断特性に波浪がどのような影響を与えるのかについて調べました。立向き上進下進できる走行台車が無かったため、急遽有り合わせのモータを用いて簡易走行台車を作成し、実験を実施しました。
立向き水中ガス切断
 上図は水中から大気中へと連続的に切断した結果です。解体にはこのような条件が必ずあると考え右に示すように、水中から大気中へ、あるいは大気中から水中へと切断実験を行っていました。写真の左側はこの実験用に作成した小形水中ガス切断機です。横向き上進右の画像をクリックすると、上に示した水中ガス切断の状況(水中から大気中へ連続切断) を別タブで鑑賞できます。不要な船や海洋構造物の解体では、水中から海表面あるいは海表面から水中への連続切断が必要となる場合があります。また、波浪などが存在する海域での切断が要求される場合もあります。このような条件でも確実に切断できます。別目的で波浪を発生させる装置がありましたので、大側水槽内で実際に水面を波立たせての水中切断実験も行っています。

 下向き姿勢の切断では、肉厚が厚いと上端と裏面との水頭圧の差でガス流れが不安定になる場合がありますが、条件の設定を適切にすると良好な切断できます。また、波浪や潮流に対しても可能な限り実験できることは実験し大まかな問題点は把握し、その解決法についてもノウハウを蓄積していました。このような経験がメガフロート解体に対して水中ガス切断技術を利用する時に役に立ちました。
 右図は、切断速度と最大切断板厚の関係を示しています。横向上進・下進及び横向水平切断姿勢でのデータです。図を見て分かるように横向姿勢では、切断方向による最大切断板厚の値はほぼ一定となっています。
 横向姿勢では切断表面と切断裏面とで水頭圧差はほとんど存在しないこと、及び、切断時には高温の切断溝に阻まれて切断領域(酸化燃焼反応が生じている領域)にはほとんど水が浸入してこないことから、切断方向による切断能力の差が認められないものと考えています。
 右図は横向水平切断の切断速度と最大切断板厚との関係です。水中での切断能力は、大気中での切断能力より若干低下しています。しかし、大気中で水カーテンを用いた場合とではほとんど切断能力の差は認められません。切断能力の算出には板厚25mmt程度の薄い板を三角形にして、三角形の板を縦、対角線部分を下にして、切断して最大切断板厚を算出しており、側面の冷却効果が効くのではと容易に想像できます。しかし、水中水カーテンありと大気中水カーテンありとで切断板厚に相違が認められないことから、側面の水冷効果は最大切断板厚にはほとんど影響ないことが分かります。
 同じ大気中切断で水カーテンありとなしとで相違があるため、水カーテンから噴出する水が切断能力を低下させていると考えるのが自然です。低切断速度と高切断速度でその傾向にはっきりした相違も見当たらないので、切断材表面に当たった水カーテンの水が切断領域に若干反跳し切断に若干の悪影響を与えていると考えるのが自然だと思っています。
 右図は右上図に水中で水カーテンを用いない場合の切断能力の結果を加えています。切断トーチはつけたままにしていますので、トーチ部分によるシールド効果は存在し、切断が開始さえすれば、水中でも切断は実施できます。しかし、最大切断板厚は変動が大きく、平均値は20%程度低下する傾向を示します。最も切断厚さが厚い場合は水カーテンを用いている場合に遜色無い切断ができています。
 これらの切断には、ストレートタイプの火口を用い、切断酸素圧は0.5MPaの値を用いています。右図はこの水カーテンあり水中横向水平ガス切断の切断能力を火口タイプをダイバージェントタイプに変更して、両者の能力差を検討した結果を示しています。0.5MPaの同じ切断酸素圧力では、低速度切断領域でダイバージェントタイプの切断火口の切断能力が低くなる傾向を示しています。45cm/min以上の切断速度では、両者の切断能力に顕著な相違は見出せません。ダイバージェントタイプの切断酸素圧力を0.7MPaに増加すると、切断能力は向上しています。
 もともとダイバージェントノズルは高圧条件で高速度切断可能なことが特徴なので、この結果は納得できます。また、低速度でストレートノズルより切断能力が低下しているのも、同じ理由だと思っています。
 右図は板厚100mmの鋼材を切断酸素口径2.3mmの火口での水中切断において、切断酸素圧力と最大切断速度との関係を示しています。◎印は良好で確実な切断が実施できた条件、○印は裏面溝幅が狭くなりドロスがたくさん付着しているものの、確実に切断ができた速度に対してプロットしています。切断酸素圧0.6MPaと0.8MPa、切断速度30cm/minのデータが欠損しているのに、上に凸の曲線を引いているのは少し気が引けます。実験はしたはずなのですが、手元にそのデータが見当たらないためにそのままこの図を用いています。

次頁(4.8 原子炉ガス切断)   2013.11.25作成 2016.8.17改定

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油の引火と着火
引火点=点火源を近づけた時に着火して燃焼を始める最低の液温です。引火点以下の温度では火をつけても燃えません。
燃焼点=燃焼が継続する最低の液温です。
発火点=点火源がなくても自ら発火する最低の温度です。
一般に、
発火点>燃焼点>引火点
なので、発火点で燃え出すと燃焼を持続します。
シンナー
Thinnner
アセトンなどと同じ物質名かと思い込んでいましたが、単なる薄め液のことでした、調べてみるものです。