水中溶接 8.湿式水中溶接

8.2 局所乾式水中溶接とは

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 湿式水中溶接は、艦船の補修あるいは海底油田関連施設の建造や補修などの旺盛な需要により、研究開発が鋭意進められ実用化が進展しています。湿式水中溶接は応急修理の色合いが強く、艦船などの水中溶接の場合には、操業が一段落した時点でドック入りし、最終的に大気中での溶接と品質検査を行う二度手間になる場合もあります。それを避けるために開発されたのが、局所乾式(シールド方式)溶接法です。
局部シールド方式と内部ガス流方式
 局部乾式法は、溶融池と溶接金属の品質に大きく影響する約300℃以上の高温度部のみを、何らかの方法で局部的にシールドして水に接しない状態を作り出す方法です。
 溶接する場所の周囲を小型のボックスで覆い、溶接部周辺のみを乾いた状態にするハイドロボックス法は、ピットや亀裂などの欠陥を手動で補修する場合に用いられる方法です。ハイドロボックス法の代表例として、NEPSYSと呼ばれるシステムがあります。このシステムは溶接対象部材の形状にフィットさせて成形したハビタットと呼ばれる装置を用いて溶接部から海水を排除します。また溶接の前後に必要に応じて予熱や後熱を行うことができます。溶接開始時および溶接中にはハビタット内部には水分が残留していないため、溶接金属に残存する水素量は極めて微量に制限できます。大掛かりな装置を必要としないこと、湿式溶接に劣らない迅速な対応が可能なことと、溶接品質が陸上と同等と言う長所があり、水中溶接法としてABSやDNVなどの承認を受けています。
 右に示す写真が、NEPSYSによる水中溶接です。ある程度長い溶接線をカバーするシールドボックスと、1本の溶接棒の溶接長さごとに設置した、フレキシブルな溶接棒挿入器具に溶接棒を差し込んで溶接します。視認性も良好で、安定した溶接を実施できます。
 溶接ノズルと母材との間をスポンジなどのフレキシブルな素材で覆い、溶接部に安定にシールドガスを流して内部を乾かす方法はスポット溶接など、ピットや亀裂の補修、あるいはボルトや小型支柱の取り付け溶接に用いられる方法です。
 ワイヤブラシ法はノズルと母材の間を鋼線やカーボン繊維あるいはゴム繊維などを複合したブラシ状の可撓性の素材で覆って、内部への水の侵入を防止する方法です。この方法は連続的に溶接を行う場合に用いられます。水の浸入を防ぐ物理的な隔壁が存在しますから安定に乾いた空間を確保できます。しかし、ノズルと母材との間隔がずれたり、あるいは溶接を実施する部分が熱変形する場合などに水が浸入する危険性があります。

 水カーテン法はノズル周囲に高速の水を流して水の流れを利用して隔壁を構成し、溶接箇所に水が浸入しないようにする方法です。流体を隔壁として利用しますから、ノズルと母材の間隔が変動しても隔壁は維持されます。しかし、安定なシールド状態を確保するためには、固体壁を用いる場合に比べて大量のシールドガスが要求されます。この方法も連続的な溶接で、かつ、溶接側の形状が連続的に変形している場合などに用いられます。

 局部乾式法は、ワイヤを連続的に供給するGMA(ガスメタルアーク)溶接法に主に使われます。この方法は、ワイヤの周囲がノズルで覆われており、また、連続的にシールドガスを流していますから、SMA(被覆アーク)溶接法に比べると、溶接部への水の浸入を防ぐのに有利です。溶接部を安定にシールドするためには、陸上の溶接より大量のガスを流す場合が多く、溶融池表面でのガス圧力が大きくなりすぎたり、時間的な変動が多くなったりしがちです。この現象を防止するために、高速の旋回流にしてアークが直接作用する部分の圧力を低下させて、かつ、流れを安定にさせる方式も考案されています。また、同時にノズルそのものも高速で回転させて、遠心力も併用させて水を排除する方式も考案されています。

次ページ  2016.03.15作成 2016.04.18改定