水中溶接 8.湿式水中溶接

8.4 メガフロートの水中溶接のコンセプトとトーチ概要

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 メガフロートは巨大な箱型の構造物で、海表面に設置されるというのが特徴です。各地の造船所などで建造された小型ユニットを建設現場で接合して巨大な構造物に仕上げる方式ですから、溶接線の全長は非常に長く、溶接線の半分は海面下に位置しています。
 メガフロート内部には隔壁や防撓材が多く使われており、小さな区画で仕切られていますし、溶接も同じ姿勢で直線的に実施されますから、内部から水を排除する乾式法を用いることは比較的容易です。乾式法としては、船底部に防水ボックスを設置して水を排除するCofferdam(大気圧)法と船底部に空気溜りのための区画を作り上部を密閉して加圧することにより水を排除するHyperbaric(圧気)法の両者を検討しました。実際の洋上接合における溶接の大部分は、経済性に圧倒的な強みがある圧気法を用いて半自動溶接を実施しました。
 一方、内部に水が存在したままで溶接を実施する湿式法の検討も行われました。水カーテン法の局部乾式法は、私と当時の水中加工グループが、日本鋼管、三井造船及びサノヤスとの間で共同して、自動水中溶接装置を開発して実際にメガフロートの水中溶接に適用し、その性能を評価しました。
 この局部乾式法の場合には、初層部の溶接を水が中に入った状態で実施します。初層の溶接が完了すると、底部は完全にシールドされますから、内部から水を簡単に排除できます。水を排除して内部を乾かした後、2層目以降の溶接を同じ溶接装置を用いて実施します。初層部の水中溶接部分は周囲の水で急速に冷却されますから、溶接金属の硬さは若干高くなります。しかし、2層目以降を乾いた状態で実施することから、初層溶接部は焼きなまされて、硬度が低下します。メガフロートプロジェクトが終了する時に、この水中溶接部分を日本海事協会が性能試験を行い、メガフロート構造部材の溶接法として、欠陥が無く適切な強度を保持している溶接法であることが認定されました。

水カーテン式ノズルの概要(安定な局部空洞形成法の検討)
 水のような非圧縮性の液体の流れとガスのような圧縮製の気体の流れは、異なった性質をもっています。特に器壁に沿った流れの場合、壁の状態が突然変化すると振舞いも、相手の状態に即応して、違ってきます。シールドガスのように固体の管の中を流れるガス流は、ガス流方向の一定の速度成分と、ガスの温度により決まる速度分布を持つランダムな方向に流れる各粒子の流れ分布を持っています。ノズル内部の壁に衝突した粒子は弾性粒子としてふるまい、壁に跳ね返されます。しかし、 出口以降では壁からの反射がなくなりますから、ガスは拡散して一部が流れの外に散逸していきます。
 シールドガスは圧力の差を利用してガスの流れを作っています。このため、ガス温度(=熱速度)は元圧の状態より低下しています。シールドガスの出口の部分では、流れてくるガスより出口の外のガス温度の方が高い場合が多く、噴出してくるガスの拡散より、外のガスの拡散速度が大きく、結果として出口の外のガスはシールドガスの流れに吸引されていくことになります。この過程で渦が発生したり乱流状態になったりして、シールドガスの内部に溶接に悪影響を与える酸素ガスなどを巻き込む危険性があります。
 一方、水のような液体の流れの場合には表面張力が作用します。出口からでた水が気体のなかに拡散していくことはありませんが、器壁との濡れ性の関係で一部か壁を伝って中に浸入していく場合があります。内部のガス圧力やガスの流れの状態によっては、器壁を伝って浸入してくる水が溶接に悪影響を与える場合があります。
 右の図に実際にメガフロートの水中溶接に使用したノズル形状の代表例を示します。外部からホースでノズルまでカーテン水を供給し、ノズル内で一旦水の流れの均一化を行った後に、スカート状に外部に放出します。円錐状に外部に水を流す際にノズル内各位置での水流断面積が出口に近いほど適切に狭くなるように設計しています。

次ページ  2016.03.15作成 2016.04.18改定