9.5 レーザ溶接
右の図にレーザ溶接とアーク溶接の特徴と問題点を、両者の違いを中心に列挙しています。いずれも一長一短で、用途により使い分けることになります。資金や時間に溶融がある場合には、適宜適正に応じた溶接法を使い分けることになります。最近では、両者を同時に使用するハイブリッド溶接技術への関心が高まり、多く実施されています。私なりにそれらの技術を考えていく際に重要と考える点を以下に紹介していきます。21世紀に入り、何故か各種レーザ及びハイブリッド溶接の実験に立ち会うことがにわかに増えて、ほとんど全ての種類のレーザ溶接を見聞してしまいました。その経験を元に既述しています。数字はあくまで私が見聞きした範囲の値です。日進月歩で進化している分野ですから、気になる人はメーカなどに問い合わせてください。
まず、加工用レーザの主な種類とその特徴を右に示します。光波長はレーザを作り出す原理により決まってしまい、変えようがないため、その波長を用いるのが有利な加工に使うしかありません。発振形態も同様です。溶接では連続で使用する場合が多くなります。溶接金属の形状や品質を微細に制御したい場合には、ピーク、ベース、繰り返し周波数をうまく使いたくなるので、パルス発信機能もあったほうがよさそうです。あくまで、価格との兼ね合いになります。効率は、レーザを作り出す機構で決まってしまいますが、最近はかなり効率が向上しています。
レーザ発信器も非常に多くの種類が開発され、いたるところでレーザにお目にかかるようになっています。昔は非常に巨大な装置で、資金に余裕があるところでしかお目にかかることは無かったのですが、最近はいたる所で目にしています。その中でも、ファイバレーザが一番眼につくような気がしています。
実際問題、上に示した形に個別の性能をまとめて比較すると、ファイバレーザを選択する人・企業は増えると思います。しかし、レーザは万能の技術ではなく実際に溶接施工を実施するためには多くの問題点を抱えています。
微細精密加工を専門とする人々にとっては、レーザ溶接の非常に有利な点が、大型構造物の溶接をする立場で見ると、逆に欠点になってしまいます。造船技術ではリバティ−シップ建造の成功以来、ガス切断をした鋼材をそのまま溶接に使用して、経済性を向上させるのは当然過ぎることになってしまいました。一方、精密加工・溶接では、機械加工をして精度良く作成した部材を熱歪みが生じないように接合することが最重要課題です。
炭酸ガス(CO2)レーザは、YAGレーザに比較して同じ出力であれば、価格が安く高出力化が容易でした。このため、3kW以上の高出力炭酸ガスレーザが厚板の溶接に多く採用されていました。最近はロボットに搭載できる高出力ファイバレーザの出現で、新規採用数は減少しています。炭酸ガスレーザの媒質は、ヘリウム、窒素を混合した炭酸ガスであり、放電により励起されます。混合ガス中の窒素は、CO2にエネルギを移行して励起準位にする役割、CO2からエネルギーを奪うことでCO2をレーザ下準位からさらに下の準位に移動させる役割、放電によって発した熱を除去する役割を担っています。CO2レーザは炭酸ガス分子の振動順位間で発振し、10.6μm および9.6μmを中心とした遠赤外の波長(9.2〜10.8μm) を持っています。10μm 付近の波長は、水やガラスといった可視域で透明な材料に対しても非常に大きな吸収係数を持っています。CO2レーザは産業界に最も普及していたレーザであり、金属、非金属の切断、穴あけ、溶接、表面改質などに応用されていました。
CO2レーザ溶接は、レーザ光を熱源として金属に集光した状態で照射し、金属を局部的に溶融・凝固させることにより接合します。レーザ溶接装置はレーザ発振器、光路、集光光学系、駆動系、シールドガス系で構成されます。CO2レーザの場合は、発振器で発振されたレーザはミラーによる折返しで伝送され、集光光学系へ導かれます。レンズにより集光されたレーザ光は材料に照射され溶接を始めます。溶接金属部の酸化等を防ぐために、通常はシールドガスを溶接金属部へ吹付け、同時に溶接部から放出されるプルーム(高温の排気ガス)を吸引するノズルも用います。良く用いられるガスはアルゴン、ヘリウム、窒素である。そして、駆動系が移動することにより溶接が進行します。
CO2レーザ溶接は長波長・高出力・高発振効率で連続発振で多くは使用されます。CO2レーザでは連続発振で50kW級の発振器が開発されており、厚板溶接に適用されます。私が勤務していた産総研四国センターにも炭酸ガスレーザ溶接装置は30年程度前に導入されていました。私自身はレーザグループとは全然別の部署に属していましたので、あまりその内容は知りません。手元に保持している昔の資料では、右図に示す溶込み性能を有しています。レンズから溶接部までの距離が300mmと短いため、焦点が母材表面から上方にずれると溶込み能力は急激に低下します。焦点が表面内部に入り込んだ場合にも低下します。
次ページ 2016.4.20作成 2018.4.11改定