3.0 溶接技術概論
金属を加工するには、熱または機械的力を加えて加工する(1)機械工作法と、化学的に性質を変える(2)化学製造法があります。機械加工法には、(1a)鋳造、鍛造、押し出し、圧延、線引など移動性による加工、(1b)切削、研削、剪断など機械的加工と(1c)溶接、鍛接、はんだ付けなど接合加工があります。金属の接合法をメカニズムにより分類すると右図のように分けることができます。
溶接・接合技術は 建築、橋梁、船舶、車両、航空機、圧力容器、パイプライン、家電、装身具、飲料缶、エレクトロニクス機器など、ほとんどの工業製品の製造に適用されている重要な生産技術です。しかし、アーク溶接、抵抗溶接、レーザーなどの高密度ビーム溶接や、最近脚光を浴びている摩擦撹拌接合など、そのほとんどは欧米で発明された技術です。
日本では、これらの技術をいち早く導入しつつ、溶接電源、溶接ワイヤ、センシング技術、溶接ロボット、コンピュータ制御技術などを続々と開発し、統合生産システムとして結実してきました。溶接業界は横断的な交流と協力により全体的な技術向上を図り、溶接自動化技術のみならず、溶接性にすぐれた材料の開発および構造物信頼性工学の研究においても、日本は世界をリードし、高能率かつ高信頼性の”ものつくり”技術立国を側面的に支えてきました。
金属の接合法は、ボルトなどを用いて機械的に部材をつなぐ「機械的締結」、のりや樹脂を用いる「接着」、接合部を一旦溶かして一体化する「溶接」に大別されます。溶接の定義は、「2個以上の部材を、その接合部が連続性を保つように、熱または圧力もしくはその両方を用い、さらに必要があれば適切な溶加材を加えて部材を一体化する操作」とされています。
アーク溶接法は、経済性、簡便性、能率性、溶接継手の信頼性などの面から、適用分野が最も広い技術となっています。19世紀初頭のアーク発見以降、電源技術の開発に応じて多様な溶接技術が開発されてきました。電気アーク発見時には十分な容量の電池はまだ開発されていませんでした。結局、必要な容量の電源開発に応じて、アークランプへの応用には40年、商用へと普及するのに70年かかりました。
右表に第一次世界大戦までに開発された各種溶接法とその開発年次を示します。戦争は技術の進展に大きな革新を起こし、第一次世界大戦前後の安定に大電流を供給する電源技術が進歩し、電気アークを利用した金属の接合が盛んに試みられました。
第2次世界大戦では、船舶や戦車などの軍事用品を大量に製作するためにさまざまな溶接技術が開発されました。戦時技術であることと、戦後の冷戦により当面秘密にされていた技術も多く、なかなか正確な開発年次は分かりませんが、概ね右表に示すようになります。
右表には含めていませんが、米国の戦時標準船(リバティーシップ)の生産技術と、冷たい海域での破断事故とその原因究明と改良に関する技術開発の歴史は特筆に価すると考えています。生産と言う意味では、(1)ガス切断により鋼材を寸法に加工し、それを溶接でつなぎ合わせた点、(2)黒人や女性を積極的に生産労働に従事させ、戦後の女性や黒人解放運動に引き継がれた点、(3)誰でも生産活動に参加できるようマニュアル化を充実させた点です。破断事故関連では、低温脆性を明らかにし、製鉄手法を改善して鋼材内に残留する酸素を低減させたことです。
下記に日本の溶接技術とその背景についてまとめた年表を示します。第2次世界大戦後の大量生産・大量消費の機運の高まりで、生産効率の向上を実現できる溶接技術は時代の寵児として主役となりました。多品種・少量生産の現代では、自動化・省力化・高精密溶接技術が求められています。
溶接の利点と欠点
溶接は金属の異なる部材同士を連続的に一体化する接合法であり、接合技術の主流となっています。他の接合法に対して以下の利点があります。
1)継手構造が単純
2)材料の節減ができ、経済的
3)継手効率がよく、気密性、水密性に優れている
4)どのような厚い部材も接合可能
5)作業時の騒音が少ない
しかし、以下の欠点もあります。
1)接合のために部分的な加過熱冷却を行うため、ひずみが発生
2)溶接線近傍に残留応力が発生し、機械的特性に悪影響を与えることがある
3)溶接熱により母材性質が変化し、割れ発生、じん性低下や耐食性劣化の原因
4)亀裂が溶接継手でとまらず、構造物全体が脆性破壊する危険性
5)母材と性質の異なる溶接金属に対する特別な配慮が必要
6)溶接品質が溶接士の技量に左右され、その良否確認が難しい
アーク溶接は高温度のプラズマを利用する技術であり、過渡的でかつ材料に含まれる不純物(表面部の酸化皮膜も含めて)による影響も無視できない複雑系の技術です。特に、電極とプラズマ及び母材の三つの大きく異なる状態にある領域の界面でどのような物理・化学反応が起きているのかについては、分かっていないことが沢山残されています。シミュレーションなどでは、それらの界面での状態量の授受は、陰極降下、陽極降下などざっくりとした境界条件もどきの理論量を与えて、計算をしています。理論的に界面での反応を明らかにすることは非常に難しいとは感じています。そのためには基礎的な現象を更に詳しく明らかにしていくことが必要で、右上の表に示した事項について少しでも理解できればと考えています。
次ページ 2016.03.12作成 2020.11.20改訂