水中溶接 4. 水中溶接切断を理解するための基礎知識(2)

4.6 同素変態と冷却速度の影響及び熱処理

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 金属の結晶構造が変化することを変態と呼びます。同素変態は鉄のように同一の元素で結晶構造が変化することを言います。凝固のように液体から固体に変わることを固・液変態と呼びます。同素変態と凝固との違いを右表にまとめておきます。
 常温における鉄は体心立方結晶構造であり、α鉄、金属組織的にはフェライトと呼んでいます。このα鉄は911℃までは安定ですが、これより温度が高くなると面心立方結晶構造のγ鉄に変わります。γ鉄をオーステナイトと呼び、さらにこのγ鉄は1392℃までは安定した状態を示しますが、それ以上の温度から融点までの間では、再び体心立方結晶構造のδ鉄に変化します。
 このように結晶構造が変化することを同素変態と呼び、変態する温度を変態点と言います。鉄の熱膨張率は温度と共に増加しますが、結晶構造が変わると熱膨張率自体も変化します。この他α鉄は780℃において強磁性体から常磁性体になり、磁力が失われます。この変化は原子中の電子状態だけが変わる磁気変態と呼んでいます。また、α鉄は高圧になると稠密六方結晶構造のε鉄に変化します。この変態は高圧下でA3変態点が低温側へ移動する現象です。超高圧、超高温、超真空などにおいて、特殊な加工を行う場合や特殊な用途を考る場合には知っておくのが良いと思います。
 金属が溶けている状態では金属原子はある程度自由に動き回ります。温度が下がると原子熱運動は低下し、原子同士が結びつき合うようになります。凝固するときには、ある原子群が規則正しく結合を始め、この単位格子又は核を中心に結晶が周囲の結晶群とぶつかり合うまで成長します。成長する方向は最初にできた核の方向によって決まり、ぶつかり合ったところで留まり、そこが境界となります。この境界を結晶粒界、また、多角形の1つ1つを結晶粒と呼びます。凝固速度が速いほど最初の核がたくさん出現するため、結晶粒が細かくなります。
 結晶粒内は樹の枝のようになっており、樹枝状晶(デンドライト)と言います。最初に凝固した樹枝状の部分には炭素やその他の元素の濃度は少なく、後で凝固する樹枝状間には、逆にこれらの元素や不純物が濃縮されています。このように添加した合金元素や不純物が、不均一に分布していることを偏析と呼びます。結晶には単結晶と多結晶とがあり、1個の核から成長して、結晶粒界が無いものを単結晶、また、無数の微細な結晶から成り立っているものを多結晶と呼びます。一般に結晶粒が微細なほど強さもじん性も大きいため、この結晶粒の大きさを定量的に測定することが、良く行われています。
 液体だけの1相の状態から、結晶核が出現し成長を始めると凝固熱を周囲の液相に伝導します。このため、内部の温度はほぼ一定状態になります。完全に固化するとまた通常の冷却速度で冷却し始め、同素変態が生じると全ての格子が変態するまでの時間帯では、金属内部の温度変化は緩やかになります。
 鉄にシリコンやマンガンを添加するなどの成分設計された鋼は、CCT曲線と呼ばれる組織変化の状態を表す図に基づいて冷却パターンが決まります。通常は850℃から600℃程度まで水冷した後、空冷を行いフェライト組織を作ります。フェライトの粒子は冷却速度が速いほど細かくなり強度が増大します。抗張力鋼板では500℃以下まで水冷しベイナイトなど更に緻密な結晶構造を作りこみます。
 通常は鋼材は圧延や冷却を工夫して、耐摩耗性や引張強さ、疲労強度、靭性、延性などを目的に応じた値に保持するようにしています。焼入れとは、金属を所定の高温状態(金属組織がオーステナイトになるまで加熱)から急冷させる熱処理です。
 硬さと靱性の調整のために焼入れ処理した鋼のマルテンサイト組織は、硬いが脆い状態となります。この焼入れ組織に粘り強さを与えるのが焼戻しの目的の1つです。基本的には焼戻し温度と呼ばれる焼戻し時に加熱・保持する温度を変更することで、硬さと靱性のバランスを決定します。靱性を重視する場合は比較的高温で焼戻す高温焼戻しが、硬さを重視する場合は比較的低温で焼戻しする低温焼戻しが適用されます。残留応力の除去焼入れによって、内部には変態や熱膨張による応力が発生します。この応力は焼入れ後にも残り、変形・割れの発生や、機械的性質の悪化を生じさせることがあり、残留応力と呼ばれます。この残留応力を除去あるいは軽減させるのが、焼戻し処理です。加工品の大きさや加熱時間にもより異なりますが、500℃程度の焼戻しで残留応力はほぼ除去でき、200℃程度の焼戻しで半減できます。
 焼なましは、残留応力の除去や鋳鋼品や熱間鍛造品などで結晶粒が粗大化したものを、標準組織に回復させます。焼ならしは、鋼を所定の高温まで加熱した後、一般には空冷で、金属組織の結晶を均一微細化させて、機械的性質の改善や切削性の向上を行う熱処理です。鋳造による鉄鋼材は冷却および凝固速度が場所により不均一なため、鍛造あるいは圧延によるものは肉厚不同や熱間加工終了温度の部分的不同のため、過熱異常組織や炭化物の部分的凝集、結晶粒の粗大化や不均一が発生します。焼ならしでは、このような材料に対して所定の処理を行うことにより、組織全体で成分を均一化させ結晶粒を微細化させます。

次ページ  2016.03.12作成 2019.02.05改訂

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認識、知覚
 J・A.デイヴィスの"人体はこうしてつくられる"(紀伊國屋書)は読み応えのある本でしたが、肝心なところをごまかされたとの感じが否めません。
 画像処理ではではカメラの画素と目盛の画素が整然と対応しています。人の目でも網膜の各神経位置と脳の視覚野とが平面的に整然と対応しているずですが、膨大な数の神経線維が誤り無く整然と物理的に並ぶ手法の説明は何となく本当かなと思ってしまいます。
 胎児の段階では各組織の大きさは小さく、神経線維の数も少ないはずですが、発達時の極小世界での力の応答など摩訶不思議と思わずにはいられません。
 成長段階で学習により、視覚神経分布と脳視野及び認識をつかさどる領域との間でどのように変化していくのかについて、理解できないことだらけです。